36:さよなら
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意識を失った由良の体はぐったりと脱力し、レンの右腕に抱えられていた。
レンは、由良のカラになった右腕を見て、沸々と湧き上がる憤りに、ギリッ、と血が滲むほど唇を噛みしめる。
(堪えろ…!! あたしが今の広瀬に勝てるはずがねぇ…!)
怒りに任せて一撃喰らわせたいところだが、無謀に立ち向かいはしない。
自身の無力さに胸が重くなるが、由良を抱え、すぐにその場から離脱しようと海面を目指した。
「ぐ!?」
しかし、白く巨大なボロボロの布のようなものが、レンと、レンの右腕に抱かれた由良に突如纏わりついてきた。
グイグイと引っ張られ、レンと由良を引き離そうとしている。
「ガボッ。グ……ッ」
(広……瀬ェ…!!)
奪われまいと由良を引っ張り返して抵抗し、纏わりついてくる布を左手で引き剥がしていった。
しかし、抵抗するほど、布が体を締め付けてくる。
苦しさのあまり、ついにすべての息を吐き出してしまった。
大きな泡が目の前を通過し、無情に浮上する。
「ウグ…ッ」
“無力……だね…”
そう言われた気がした。
クスクスと広瀬の笑い声が聞こえ、挑発的に“アクロの心臓”を目の前に見せつけられる。
状況に反して、温かく優しい光を放つ“アクロの心臓”が、あまりにも残酷にレンの瞳に映った。
自身にとって欲する物すべてがそこに収縮されているようで、抗えない欲望に支配されそうになる。
美しい光は、どこか懐かしく、愛おしい。
手を伸ばせば、確実に届きそうな距離にあり、誘われるままに、ゆっくりと左手を伸ばした。
その時、後ろから誰かに抱き締められる。後ろを振り返らずとも、その温もりには覚えがあった。
(華音……)
“レンちゃん…”
(…………今、あたしに…どちらか選べというなら…―――)
『選んでみろ』
かつて、由良に選択を迫られたことを思い出し、左手に握りしめていたものを放る。
星形の缶バッジをつけた、森尾の眼帯だ。
(さよなら、おとーさん…)
遊園地で迷子になって泣いていた時に、迎えに来た、かつての父親と別れを告げた。
眼帯は、ゆっくりとした漂う動きで広瀬と“アクロの心臓”に接近する。
(―――華音…、森尾…、ごめん)
レンは左手の人差し指を、それに向けた。
目元が熱くなる。苦渋の決断に、歯を食いしばった。
耳元で、華音の調子のいい声が聞こえる。
“どぉ―――ん!♪”
ボンッ!
瞬間、金属製の星形の缶バッジが眼帯ごと爆発した。
広瀬が分散したことで布が緩み、レンはその隙に由良を抱え直して急いでその場を離れる。
分散した広瀬は、再びひとつの塊へと戻り、布の中心に大きな穴が空き、眩い光を見せる。
レンに振り返っている暇はなかった。
(早く…! 早く上に…!)
限界を感じながら、傍から見れば滑稽に見えるほど、もがくように泳いで必死に海面を目指す。
目も霞み、意識も朦朧としてきた。とてもひとりで切り抜けられる状況ではない。
(誰か…! 助けて………!!)
実の父親から逃げて家を飛び出した時と、どんどん命が流れていく森尾の体を抱きしめていた時に叫んだ言葉だ。
応えはあった。
海面から左手を出し、空気に触れる。
待っていたかのように、そっとその手をつかまれ、優しく握りしめられた。
レンは大きく目を見開く。
海面越しに見えたのは、微笑む森尾の顔だ。
(森…尾……)
真下から眩い閃光が迫ったところで、触れた風にふわりと掬い上げられる。
.To be continued