36:さよなら
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形勢は逆転されたようだ。
ジャスパーは建物の物陰からその様子を眺めていた。
由紀恵が軍人達に命令する。
「―――武器を捨てて退がりなさい! あなた達には関係ないんだから。ダン・フリードキン、あなたは残りなさい」
名を呼ばれた“詩人”―――フリードキンがビクッと体を震わせた。
由紀恵は言い放つ。
「“心臓”を引き上げるわ」
「【……チッ!】」
成す術がなく、マクファーソンは舌打ちをした。
目を動かし、太輔と奈美、漏電する純、葵を抱えて自分達に銃を向ける由紀恵に“操作”された兵士を見る。
(……………)
一緒にいるD4に振り向くと、D4は拳銃を構えてどうすればいいのか混乱していた。
呼吸も荒く、手元がフラついている。
(……いかんな、クソ!)
勝算もなく、マクファーソンは手に持っていたナイフを地面に落とした。
「!」
両手を上げて降参の意を示したマクファーソンを見て、D4もその場にしゃがんで拳銃を置き、マクファーソンとともに後ろにさがる。
これで、フリードキンとマクファーソン達が引き離された。
(やっぱり“心臓”が引き上げられるのか…。その時は―――)
ジャスパーは右手の手首から骨の刃を出し、いつでも奪えるように構えておく。
太輔は自分達が優勢に立ったことを実感し、息を吐いた。
(葵も戻ったし、一段落―――。でも…、これからなんだ・…)
純に見張られているマクファーソンに視線を移す。
(あのおっちゃん怖かった―――)
安堵しているのもつかの間、由紀恵が近付く。
「みんな無事ね? ここは制圧したと言ってもいいでしょう…」
そこで太輔は、由紀恵の左肩のケガに気付いて声を上げた。
「ユキエさん、ケガ!」
「大丈夫。あとは私が“心臓”を引き上げて封印できれば、全て丸く収まる……」
そう言う由紀恵は、太輔と目を合わせようとしなかった。
これから太輔を“アクロの心臓”の器にしなければならない。
太輔と由紀恵の間に気まずい空気が流れる。
その様子を奈美は眺めながら考えた。
(……うまくいったとしても、“心臓”封印の器として、叶は一生眠らされる。由紀恵さんの能力(ちから)で。わかってるのか、叶…)
「【ハッ…! おまえら全然わかってない。封印なんてできるわけない! 余計なことするなよ! 大人しく隠れてれば、“御霊”に見つからなかったかもしれないのに!】」
自棄を起こし、フリードキンが捲くし立てる。
その場にいる誰もがフリードキンに注目した。
「【フリードキン…】」
由紀恵が呟くと、フリードキンはさらに捲くし立てる。
「【“欠片持ち”は、“心臓”と“御霊”とをつなぐ道具…。役目からは逃れられない。“御霊”から逃げきれやしない…!! “約束”された進化の流れ。“欠片持ち(ボクら)”はそのために用意された欠片(ピース)…。これは! 巨大なひとつのシステムなんだ!! 役目を終えれば死ぬ…】」
太輔ははっと由紀恵に振り向いた。
目を大きく見開いて由紀恵を見つめる。
(システム? …死ぬ? ユキエさんが…?)
2年間、由紀恵と行動してきたが、記憶を失っている時でもそんな話は全く聞いていなかった。
聞き耳を立てていたジャスパーの心臓も、不意に大きく跳ねた。そんな話は初耳だ。
“欠片持ち”が知らないはずはないだろう。
(ちょっと待て…、“欠片持ち”が死ぬっつったかあのガキ…!? じゃあ、勝又のおっさんとアキセンパイは…? アキは…!? アキはどうなる…!?)
今すぐ飛び出してフリードキンの胸倉をつかんで詰問したい衝動を抑え込み、睨みつけるように傍観を続けた。
由紀恵は目を伏せ、淡々と話しだす。
「―――意志があれば、ピースは要になる…。“欠片持ち(私達)”4人には、それぞれ使命が与えられた。勝又は“御霊”を呼び覚まし、室は“御霊”を護り、最後の力となり、“詩人”は“御霊”と“心臓”とをつなぐ礎となる。そして―――、“心臓”を引き上げ、呼び覚ますのは、私の役目なの」
「…!」
こちらも初耳だ。太輔は驚きの表情を浮かべる。
構わず、由紀恵は話を続けた。
「勝又は能力者同士の波長を利用して、なんとか“心臓”を呼び覚まそうとした。でもアレは、まだ起動していない。だから、広瀬雄一から“心臓”を引き離し、起動させることなく封印すればいい。私が死ねば解決するかと思いもしたけれど、室のように、死後、他の能力者に私の“欠片”を奪われれば同じこと。私は変えるわ。変えてみせる…!」
その言葉から、由紀恵の強い意志と覚悟が感じ取れる。
由紀恵を見つめる太輔を、奈美が不安げに見つめた。
「【うう…。聞こえるよ……。破滅の音が……】」
フリードキンはその場にしゃがみこみ、頭を抱えながら震える。
その頃、救命ボートで待機している伶と勇太が真上を見上げて様子を気にしていると、勇太は、目の前の海面から出てきた右手に気付いた。
「ちょ…、ねえ、あれ!」
「あ?」
勇太の声に伶は視線を落とすと、海面から、手に続いて後頭部から肩まで出てきた人物を見つけた。
顔は海面から出ていなかったが、伶にはその髪型と服装に見覚えがあった。
「―――あれ!? コイツ!」
伶は、海面から現れた人物―――由良の脇に右手をかけ、左手で腰の服をつかむ。
「なんでンなトコに…。…くっ!!」
力を入れて引っ張り上げた。
「伶君…、それ誰!?」
勇太は立ち上がり、伶に尋ねる。
伶は勇太に振り返って逆に聞き返した。
「はあ? 勇太の仲間だろ!?」
「知らねーよ!」
「だってこの兄ちゃん、レンと知り合いみたいだし、奈美の恩人……」
そこで由良は伶の服をつかんで弱く引っ張る。
伶はそれに気付いて由良を見下ろした。
由良は伶を支えにしながら、能力者の反応がある勇太に振り向く。
「お…まえか?」
執念に囚われた由良の瞳に、勇太の背筋がゾクッと凍りついた。
救命ボートから、シャボン玉がいくつか浮かび上がる。
「ジャマ……なんだ。開……けろ。早…っ」
由良は血を吐きながら仰ぎ、声を張り上げる。
「アレは、オレの…!!」
「伶君、下がって!!」
危険を感じ取った勇太は咄嗟に両手をかざし、伶を隔離して由良のシャボン玉から守ろうとした。
伶は咄嗟に腰に挟んでいた拳銃を取り出し、由良に向ける。
プラットホームを囲っていた隔離は解かれ、風が流れ込んだ。
異変は、プラットホーム全体に伝わった。
鉄塔の真下にいたレンとアンジェラも、床の入り込んできた風に気付く。
(“隔離”が解かれた…。勇太に…なにかあった? それとも、由紀恵さんが引き上げようとしてる…?)
振り返り、由良が落ちた穴を見下ろした。
「……………」
『また明日』
身に覚えがある、ぎゅうっと胸を締め付けられる感覚だ。
湖の戦い前夜に、森尾と華音に投げた言葉だった。
呼吸が乱れる。すぐ後ろに死んだ2人が立っている気がした。
「レンちゃん、どうしたん?」
「アンジェラ…」
レンは最後のスタンガンをポーチから取り出し、アンジェラに投げ渡し、頭の眼帯を外した。
隔離が解かれたことで、由良は自ら海に落ちる。
伶は隔離の中で拳銃を構えたまま、驚いていた。
「はっ、はあ、なに…、敵!?」
隔離が解除され、由良が落ちた海面に拳銃を向けながら窺った。
「あいつ、落ちたのか!? 助かったぜ、勇太…」
「大変だ…。上の隔離解いちゃった!」
勇太は真上を見上げたあと、救命ボートの端に駆け寄り、追い詰められた表情で海面を凝視した。
由良が落ちた海面から、ブクブクと泡が立っている。
それらはすべて由良の息だ。
由良の命だ。
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