35:わかってるからこそ…
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「レンちゃん大丈夫?」
ふらふらしながらこちらに近付いてきたアンジェラに、レンは肩を落とす。
「おまえが大丈夫かよ…。鼻血出てんぞ」
「えへへ…」
恥ずかし気に笑いながら手の甲で拭うアンジェラ。
レンも頬を緩め、少し咳払いした。
「おかげでなんとかなったよ…」
「それはなによりや。体張ってよかったわ。治療する?」
「いや、まだいいや。このまま向かおう…」
そう言いながら、由良がいるだろう鉄塔を見上げる。
(あそこにいるかもしれない…。なにかを追ってるのか、追われてるのか、わざわざ降りてたし…)
洞察力を発揮し、由良の行方をこのまま追うことを決めた。
「【うっ…】」
「「!」」
すぐ近くで呻き声が聞こえ、気を失っていたはずのαが頭部から血を流しながら起き上がろうとしている。
「うわ、タフ」
「ドーピングのせいで痛みマヒしとんちゃう?」
「今なら頭つかんでもう一度気絶させられるけどな」
念のために、とαに近寄るレン。アンジェラは「気ぃつけてなぁ」とレンの傍で見守ることにした。
「【テメーらぁ…!】」
そこで、少し離れた場所から唸り声が聞こえる。
レンとアンジェラがそちらに振り返ると、唾液をボタボタと垂らしながらこちらを憎々しく睨み、ぐらつきながら立ち上がったβがいた。痛みの余韻が残っているのか、左腕で腹を抱えている。
激痛のあまり気を失っていたかと思ったが、復活は早かった。
「ヤバ。もう起きてもうた…」
「気分最悪そうに見えるけど、アレで胃腸回復してるんだろ?」
むしろ感謝するべきだと思う。
「【ブッ殺してやるよ…!】」
頭に血が昇っている様子だ。
背中に携えた実弾入りのショットガンを構え、銃口をこちらに向ける。
「【やめとけ。兄貴も死ぬぞ】」
「【うう…】」
レンは起き上がりかけたαの首に腕をかけ、人質にした。
「【……………悪いな、アラン。席は譲ってもらう】」
フ、と申し訳なさそうに笑うβ。
その表情を目にしたレンは反射的に、空いた手で傍にいたアンジェラを強く突き飛ばす。
「え…!?」
ドォン!
瞬間、ショットガンの引き金が引かれ、散らばった弾丸はレンとαの身体に容赦なく着弾した。
レンは左胸と腹に4発、αは頬と首と左肩に3発喰らってしまう。
「…っ」
「【…バリー……】」
レンとαの身体は崩れるように地面に倒れた。
「レンちゃん!!」
突き飛ばされたことで助かったアンジェラがレンに駆け寄る。
レンは「かは…っ」と血を吐き出し、撃たれた部分を手で押さえた。心臓は逸れたが、流血は止まらない。
αも首を撃たれたことで呼吸もままならない状態だ。
「【♪~】」
その間にもβは軍歌をぼそぼそと歌いながら、冷静にショットガンの弾を装填した。
アンジェラは「動いたらあかん」とレンに能力を使おうとする。
レンは頭を振り、「逃げろ…!」と訴えた。
βがショットガンを再び構える。レンにトドメを刺そうと引き金を引こうとした時だ。
「【!】」
トランシーバーが雑音を立てた。
レンに目を向けたまま、トランシーバーを口元に近づける。
「【………D2?】」
その名前に、レンはピクリと反応した。
トランシーバー側の声は聞こえづらいが、顔を上げてβの様子を見据える。
「【……マジ!? ヒヒヒッ、こっちはこれからだ】」
ニヤァ、と不気味に笑うβの視線がレンに移された。
レンの中で、嫌な予感がよぎる。
相手の返事を聞いてから、βはトランシーバーの通信を切って口にした。
「【D2が「片腕の男を始末した」とさ。すでに隊長にも報告したみたいだ。能力者狩りの先、越されちまった…】」
「【あーあ】」と空を見上げて残念そうに漏らすβだったが、レンは途中から耳に入らない。
(片腕の……男…)
自分の耳を疑った。
βはレンの反応を見て、耐え切れずに大口を開けてゲラゲラと笑い出す。
「【ヒハハハ!!】」
レンは茫然と宙を見つめた。
「【そんな…ユラ君…!】」
アンジェラも信じられない様子だ。
「【どうするぅ? 殺されちゃったなぁ…】」
βは小首を傾げ、レンの顔を覗き込んで目を合わせた瞬間、
「【!?】」
肌が粟立ち、恐怖で顔を強張らせた。
「ふざけんじゃねえよ…!」
アンジェラもその顔を見てビクリと震える。
様々な負の感情が入り混じった、真っ黒な瞳。電流を漏らしながら、ゆっくりと立ち上がるレンを宥めることもできない。
「げほ…ッ」と再び血を吐き出しながらも、レンは憤りで歯を食いしばった。
「はぁ、はぁ…。あのバカが…死ぬかよ…!」
「レンちゃ…」
「アンジェラ…、そいつから治してやってくれ」
「!」
レンは視線を落とし、αを指さす。
「まだ生きてる」
αは辛うじて生きていた。呼吸も弱く瀕死の状態だが、アンジェラの能力があれば助かるだろう。
唖然とするアンジェラを置いて、レンは一歩踏み出し、弾かれるように一気にβ目掛けて駆け出す。
「【! くっ…!】」
はっとしたβは、ようやくショットガンを構え直した。
「【くたばれ、バケモノ!】」
バチッ、とレンは左手にプラズマを作り出し、走りながらβに投げ飛ばす。
ほくそ笑むβは「【バカが】」と吐き捨てた。
「【効かねえっつーの!】」
ゴム製のグローブをつけた左手で跳ねのけようとする。
ゴキッ!
「【い゛…ッ!?】」
プラズマが当たった瞬間、鉄の塊の衝撃に襲われた。左手の骨にヒビが入る。
近くの地面に落ちたのは、αの手から抜き取ったメリケンサックだ。思わず凝視してしまう。
(【兄貴のサック!? …あのアマ、電気の球体の中に隠して投げやがった…!】)
気付いた時にはもうレンは至近距離まで迫っていた。
ショットガンを真上に蹴り飛ばし、左のコブシでβの顔面を渾身の力で殴りつける。
ゴッ!!
「【ごあっ!】」
両目につけた暗視ゴーグルが壊れ、目付きの悪い目元が晒された。
βの身体は仰向けに倒れ、レンはその上に馬乗りになる。
βははっと焦り出した。今、首をつかまれたら簡単に感電してしまう。
「【まずい。電流を流され…!】」
「【安心しろ。もったいないからな】」
「【え】」
レンはボキボキとコブシの関節を鳴らした。
その口元は不敵に笑っていたが、こめかみにはくっきりと青筋を浮かべている。
「【テメーは感電じゃ済まさねえ】」
「【ひっ…!!】」
アンジェラはαの治療をしながら、その光景に目を逸らした。
(【あーあ、あのまま気絶しておけばよかったのに…】)
悲鳴と殴打の音を背中で聴きながら、由良がいる鉄塔を見上げる。
(【ユラ君、死んではだめよ…。あなたにはまだ、大事な役割があるのだから…】)
.