35:わかってるからこそ…
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「【ヒハハハハハ!!】」
引き金が引かれる寸前、反射的に、レンはアンジェラを抱えたまま飛び込むように廊下の角に隠れる。
ドドドドドッ
先程立っていた場所に弾丸が連射された。数秒逃げ遅れていれば、もろに浴びていただろう。
「なになになに!?」
パニックになりかけるアンジェラだが、レンは冷静だ。
ガラスを踏む音が背後から聞こえた。βが割れた窓から廊下に踏み込んできたのだ。
射線上に入らないように移動して、次の攻撃が来る前に廊下の先へ走る。
(電撃が効いてなかった…! あいつ、対策してやがる…!)
気絶するふりをしていたならなんとも腹立たしい。
「【待ってくれよ~。小鹿ちゃ~ん】」
ふざけて笑いながらβが視界にレンとアンジェラの姿を廊下の先に捉えると、ゴム弾が装填されたアサルトライフルを撃ちまくった。
レンはアンジェラを抱えたまま横に飛び、壁を蹴りながら素早く回避する。
アンジェラにとってはモーターボートより動きが激しく、振り落とされないように、悲鳴を上げながらレンの首にしがみついた。
「っ…!」
レンは弾丸全てを回避しきれず、背中に2発ほど喰らってしまう。
痛みに呻くが、足は止めることなく奥にある裏口を見つけて勢いよく開けて飛び出した。
「アンジェラ、おまえ自分のケガは治せないのか!?」
「小っさい傷なら…。集中力がいる能力(ちから)やし、痛みのあまり中断してまうから、ほとんど自分に使ったことないわ」
「自分に対しても治療中の痛覚はあるのか…」
能力者本人が自身に使用したところで、痛みが伴うのは平等のようだ。
痛みのデメリットはあるが、自分や仲間が大怪我を負った時にアンジェラの能力は助けになる。
アンジェラ自身に大怪我を負わせるわけにはいかなかった。
「せっかくの“療治”が自分に使えんってことは、カミサマが甘えるなって言ってるのかもしれんなぁ…」
「……………」
居住スペースの建物から鉄塔へ続く道を間を走り抜ける。
コンテナや他の設置物などの障害物も多く、途中で出くわした兵士達に対しては、銃を構える前に問答無用で顔面を蹴り飛ばしたり踏みつけたりして無力化した。
「はぁ、はぁ…、持ちにくい!」
「お荷物でカンニンなぁ~」
抱きかかえる体勢から、アンジェラを右肩に担ぐように抱え直す。
アンジェラは申し訳なさそうに両手を合わせた。
「プラットホームのマップは全部覚えてるわけじゃないけど…、デッキがある建物に一度戻るか、鉄塔の上から確認するか……」
レンはプラットホームの中心部にそびえ立つ、数メートル先の鉄塔を見上げる。
一瞬、見間違えかと思った。
鉄塔の梁から梁へと飛び降りていく人影を見つける。
(あいつ…!!)
由良はちょうど、落下したD2を追っている最中だ。
レンは追うように駆け出す。
レンの後ろが見えるように肩に担がれたアンジェラは「どこどこ!?」と肩越しに見ようとするが、由良の現在地が把握できなかった。
「待っ…て…! 行くな!」
レンは懸命に呼びかけるが、聞こえている様子はない。
嫌な感覚だった。湖の戦いで何度も味わった、後悔の警告。
行かせてはいけない、と必死に呼び続け、届かない左手を伸ばして腹の底から声を張り上げる。
「由良!!」
飛び降りて宙にいる状態の由良の視線がこちらに向けられ、一瞬目が合った気がした。
「レンちゃん避けて!」
パァン!
「ぐ…!」
左腰に鋭い痛みが走る。
追ってきたβの追撃だ。1発のゴム弾がレンの左腰に当てられた。
「【いいねえいいねえ。いい声で叫ぶねえ~!】」
癇に障る笑い声が辺りに響き渡る中、レンは痛みに耐えて歯を食いしばりながらもう一度鉄塔を見上げたが、由良の姿はもうどこにも見当たらない。
「邪魔すんな…!」
振り返り、βを睨むレン。
「【おいおい、そのまま止まらずに逃げてくれよ。狩りができねーだろ…。少しずつ追い詰めて…、動けないところを……】」
背中に携えたショットガンに手を掛け、いやらしく口元が歪めるβに、レンの中で嫌悪感が増した。
アンジェラもリアクションはほとんど同じだ。「キモ…」と身震いしてしまう。
「アンジェラ…、ちょっと隠れてろ」
βから目を離さず近くのコンテナの近くに移動したレンは、アンジェラを下ろした。
憤りのあまりギラついた瞳を見たアンジェラは顔を強張らせ、「わ、わかった…」と言われるままにコンテナの陰に隠れる。このまま傍にいれば感電に巻き込まれてしまいそうだ。
(銃を持った奴とは何度か戦ってる…。直接あのムカつく顔面や首根っこつかんでたっぷり流し込んでやるよ…)
漏電を抑え、目の前のβを見据えた、その時だった。
アンジェラが声をかける前に、背後の気配に咄嗟に身を屈めた。
頭頂部を何かがわずかに掠り、右へ飛ぶ。
「!」
「【気付かれたか…。勘のいい】」
野太い男の声。
いつの間に近付かれたのか、2メートルはある大柄の男がそこにいた。αだ。
両手には細いワイヤーを握りしめている。
レンに気付かれなければ、背後からその細首を絞めるつもりだった。
(もうひとり!?)
「【女か…。ハズレだな】」
「【あ? 不服そうだな。男がよかったか?】」
αの露骨な落胆を見てレンの額に青筋が浮かび、苛立ちを含んだ英語を返す。
「【そうだな…。殴り甲斐がなさすぎる】」
αの両手には、メリケンサックが装着された。
「【兄貴! オレが先に見つけたんだぞ! 横取りしてんじゃねーよ!】」
文句を叫ぶβに、αは呆れて深いため息をつき、恨めしそうにβを睨む。
「【β、相手が女だと遊びが過ぎるのは悪いクセだぞ。だから私達の評判が最悪なんだ】」
「【兄貴だって、男じゃねーと興奮できねえくせに!】」
「え」と思わずドン引きするレンとアンジェラ。
「【言い方に気を付けろ! 誤解を与える!】」
レンのリアクションを見て即座に否定するα。
ただの兵士でないことは雰囲気で理解するレン。焦る気持ちに内心で舌を打った。
(こっちは急いでるっつーのに…。……サックを装着してるってことは、兄貴の方は接近戦向きか…)
ドンッ
少し距離を取ろうとしたところで、βの銃口がこちらに向けられ、発砲された。
銃弾は咄嗟にレンが飛び退いたことで避けられたが、すぐさまαが突進してくる。
右のストレートが突き出され、頭を傾けてかわすレンは、そのまま潜り込むように体勢を変え、握りしめた左のコブシをαの胸の中央に打ち込んだ。
バチッ!
その際に強い電流を流し込んだ。
「!?」
しかし、αの身体は無反応だ。呻きもしない。見開くレンの目は、αの表情に余裕の笑みを浮かべているのを見た。
「【本当に、電気を流す人間がいるとは、な!】」
ドッ
αの左足がレンの腹を蹴り上げた。
「う…!」
吹っ飛ばない程度にわざと弱めたのだろう、よろめいたところをレンの顔面目掛けαの左フックが迫る。
レンは歯を食いしばり、軸足で踏ん張って身体を反らし、ギリギリでかわした。
「!」
右頬に痛みを覚えたかと思えば、血が頬からアゴを伝う。
サックが掠ったかと思えば、右頬の皮膚が横一線に浅く切れたのだ。
レンの視線は、αの左手のメリケンサックに移る。
仕込みサックだ。サックの親指と小指部分からナイフの刃先が飛び出ていた。
「【惜しい…。目玉は抉り損ねたか】」
αの口端が亀裂のように吊り上がる。親指部分の刃先にはレンの頬を切りつけた際に付着した血液があった。
レンの額に汗が浮かぶ。βの銃に気を配りながら、αから3歩ほど離れた。
(兄弟共に電気対策してるうえに、兄貴の方は、人間のくせに筋肉の塊かよ…。頑丈だな…。……最近戦ってる奴、こんなんばっか! 全員未来から来た殺戮ロボットかよ!)
憎らし気に宙を睨むレンは、硬化の能力を持つ天草と、骨肉変形の能力を持つジャスパーを頭に浮かべる。
「【貴様の能力はマクファーソン隊長から聞かされている】」
「【電気の通りにくい絶縁性の分厚い服と手袋で対策バッチリ。ヒヒヒッ】」
だろうな、とレンは鬱陶しそうな顔をした。
「【あっそ】」
「卑怯や―――! 2対1で女の子追い詰めて、しかもサックに仕込みまで!」
「いやまあ、あたしも全身にスタンガン仕込んでるようなもんだから、お互い様なんだけど」
コンテナの陰から野次を飛ばすアンジェラに対し、半目で冷静に言い返すレン。
βはレンに銃口を向けたまま、胸ポケットから小瓶を取り出し、中の錠剤をいくつか口に流し込み、ガリガリと噛み砕いた。
その様子を目の端に捉えながらレンは思案する。
(近距離と遠距離でせめてくるなら……)
αからもう3歩ほど離れた。βは錠剤を噛み砕きながら、すぐに銃を構え直し、狙いをつけて撃ってくる。
「【余裕面かよ、能力者ぁ!】」
レンは弾道を読んですぐに飛び退き、方向転換して銃弾をかわしながらβへと突っ込んだ。
「「【!】」」
「【そっちに行ったぞ!】」
「【見ればわかるって!】」
レンは両手のコブシを構え、βの顔面を狙って繰り出す。
「【ヒュ~ッ】」
「!!」
βは口笛を鳴らしながら素早い動きでかわした。
レンは身を屈めて足払いをかけようとするが、それも宙返りでかわされ、アクロバティックな動きに翻弄される。
「【ヒハハハハハ!!】」
バババッ
「っ!!」
さらにβは、宙へ飛ぶと同時にアサルトライフルで撃ち、降り注ぐゴム製の弾丸はレンの右肩に当たった。
(こいつら…!)
背後に迫るのはαだ。
図体が大きい割に、足はアスリート並みに速い。
(連携で追い詰めてきやがる…! 身体能力も見た目に似合わず高い!)
そこでβが口にしていた錠剤を思い出した。
(あれはドーピング剤か…?)
目の前のコンテナに背中を軽くぶつけ、追い詰められる。
距離を詰めてコブシを振り被るαの動きに注意し、タイミングを見計らって身を翻してコブシをかわした。
空振りしたコブシはコンテナにぶつけられ、めり込む。
「【ハハハ! いつまで逃げられるかな!?】」
笑いながら振り続けられるコブシを、レンはくるくると身を翻してかわし続けた。その都度コンテナがボコボコに歪められる。
レンは距離を取ろうと考えるが、βがそれを狙っていた。数メートル離れた瞬間に連射してくるだろう。
(せめて、兄貴の方(こいつ)と距離が取れれば…!)
αのコブシをかわしながら勝機を見出そうとした時だ。
「【やぁ―――っ!!】」
「【!?】」
アンジェラが拾った鉄パイプを振り回しながらβに後ろから突っ込んだ。
気付いたβは、レンと比べてあまりの他愛のない動きに、おかしそうに笑いながら軽々と避ける。
「【おお! なんだなんだ?】」
「アンジェラ!」
隠れてろって言ったのに、とそちらに注意が向いてしまうレン。助けに行きたかったが、αの猛攻がそれを許さなかった。
「【ヒハハハ、小鹿どころか小兎だな!】」
「【うっ!】」
振られた鉄パイプをアサルトライフルのストック部分で弾き飛ばされ、バランスを崩したアンジェラはその場に尻餅をつく。
「【あとで美味しく料理してやるから大人しくしてろ!】」
「【っ!】」
ストック部分で鼻を軽く突かれるアンジェラは、鼻の痛みに呻いた。
その際に頭に巻いたスカーフが取れ、パープルグレーの編み込みヘアが晒される。
鼻血を垂らしながら、アンジェラは顔を上げてβを睨み付けた。
反抗的な瞳に、βはゾクゾクと興奮する。「【ヒヘヘ】」と嘲笑い、アンジェラのアゴをつかんだ。
「【おいβ、遊ぶな!】」
「【兄貴~、だってこいつ、なかなかイイ顔するんだぜ…】」
αに叱咤され、肩越しに振り返るβ。
レンは、アンジェラの口元が小さくほくそ笑むのを見た。
アンジェラの右手が、βの腹部にかざされる。
「【あなた、思ったより身体がボロボロね。ドーピング(薬)の過剰摂取?】」
βの腹部とアンジェラの右手の間に、ゴールドリングが出現した。
「【あ?】」
「【身体を大事にしないと、罰が当たるわよ】」
レンが、「あ」と思った瞬間、能力が発動される。
腸を、大量の虫に食い荒らされるかのような激痛がβを襲った。
「【ヒギャアアアアアアア!!?】」
堪らず絶叫するβ。地面を転がり、蛇のようにのたうち回った。
「【どうした!!?】」
弟の突然の異変に驚愕するα。
レンは冷や汗を浮かべながら、涙と鼻水を垂れ流すβに同情の眼差しを向けた。
「薬で胃腸が荒れまくってる分、とんでもない痛みなんだろうな…」
「【貴様ら、なにを…!?】」
「でも、ナイスだ、アンジェラ」
遠距離射撃がなくなったことで、バックステップで距離を取るレン。できるだけコンテナの側に近付いた。
αはコブシを構え、イノシシの如く突進してくる。
「【能力(ちから)も使えず、逃げ回ることしかできないくせに…!】」
「【こっちだって能力(ちから)だけが武器じゃねーんだよ…】」
向き合うレンは、αの動きを見据え、集中する。
αが勢いをつけて大きく振り被った右コブシを振るったところで、レンはすかさず両手を伸ばしてαの右手首をつかみ、
ゴガン!
αの勢いをそのまま利用して身体を受け流し、背後のコンテナにその巨体をぶつけた。
「【ぐ…が…ッ】」
自身の全体重をかけた分、αの頭部がコンテナにめり込み、意識を飛ばす。
そのまま、脱力した巨体が地面に伏した。
「ふぅ…」
レンは自身の両手を見下ろし、奈美との稽古を思い出す。教わった成果は十分に発揮できた。
(奈美…、おまえもここにいるんだよな…)
きっと、“アクロの心臓”の器にされる太輔を、黙って見過ごすことはしないはずだ。
一緒にいる期間はけっして長くはないが、太輔のことを大切に想っているのは伝わっている。
(おまえだって止めたいはずだ…。自分にとって大事な人間が、死ぬかもしれないってわかってるからこそ………)
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