05:死ぬべきだった…
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2階にある部屋の一室では、暗い部屋で広瀬がベッドの上で制服のまま眠っている恵を見つめていた。
広瀬は薄笑いを浮かべたあと、その部屋を出て鍵を閉める。
暗い廊下を進み、エントランスホールへと下りる階段を下りていたとき、薄暗いエントランスホールを通過しようとしていた由良が広瀬の姿を見かけ声をかけた。
「人間(クズ)なんかカコって…。おまえといいタイスケといい、ホント変わってんな」
由良がそう言いながらポケットに手を突っ込んだ。
「由良…、叶君に会ったんだ……。殺した?」
広瀬が冷たい目を向け、由良に尋ねる。
「お? 気になる?」と由良がじらすように言って広瀬は黙って答えを待った。
「結果は返り討ち! どーやら、やっと“能力(ちから)”に目覚めつつあるよーだ。ボヤボヤしてっと追いつかれるぞ、ヒロセ?」
そう答えて広瀬に背中を向け、右手を振った。
右腕の袖は破けたままで血も多少付着していたが、負傷した傷は完全に完治していた。
広瀬への忠告を終えた由良は、廊下を渡ってリビングへと向かう途中だった。
真っ暗な廊下を気にすることもなく窓から差し込むわずかな光を頼りに進んだところ、
「おぉ!?」
突然、なにかにつまずいて転びそうになった。
慌てて右脚を前に伸ばしてつんのめった体を支える。
「なんだ?」
つまずいたものに振り返ると、そこにはレンが膝を抱えて座り込んでいた。
「レン…。……よー、どーしたー?」
レンの前でしゃがみ、顔を覗き込んでレンの顔の前で手をひらひらとさせてみた。
レンは目を強く瞑り、顔を伏せたまま反応しない。
「おーい」
反応がないレンの肩に手を置くと、震動が伝わってきた。
(こいつ、怯えてる?)
「……震えてんのか?」
「………で…、電気が……急に……」
ようやく返ってきたレンの声も震えていた。
そう言われ、由良はレンの真上にあるランプを見上げる。
「あ―――。電球が切れたのか」
「あ、あ…、灯りを………」
「なにおまえ、暗いのダメなのか?」
レンは膝に顔をうずめた。
素直になれないレンの態度には慣れたもので、その行動で由良は肯定と捉える。
「おまえ、“電気”使えんなら…って、だったら、とっくのむかしにやってるわなあ」
頭をボリボリと掻き、溜め息をつく。
そして立ち上がって、いったんその場を離れようとした。
「待ってろ。勝っつんに懐中電灯ないか聞いて……」
だが、レンはすぐさま、由良の床に垂れたツナギのベルトをつかんだ。
「!」
「ゆ、由良、こ、ここ、いてくれ…。た、頼む、から……」
顔を強張らせたまま、由良を見上げて懇願した。
いつもの勝気な態度はどこへ行ったのか、さすがにここまでレンの状態が悪いと由良も戸惑いを隠しきれない。
「………」
少し考えてから由良は黙ってレンの右隣に座った。
レンは由良の袖を握り締めて離さない。
その手もまだ震えていた。
「……昔からそうだ…。夜も…ライトがないと…外…にさえ出れない。コ…レのせいだ。コレのせい…で、あたしは…………」
レンが小さく独り言を漏らし、隣で聞く由良はどこかで聞いた症名を思い出す。
(何があったんだか、こりゃ完全に暗所恐怖症ってやつだな)
「今何時だよ…朝…まだなのかよ……」
レンは由良の袖を握り締めて気を紛らわそうとしながら、早く朝になれと願って独り言が続く。
「態度はデカいクセに……」
「悪かったな」
由良が気を悪くして放って帰ろうとするのを恐れてるのか、コブシを握りしめたまま動かさず、憎々しく由良を睨みつけて小さく言い返す。
(この状態でも悪口には敏感に反応するな、こいつ…)
舐められないように突っかかるのは癖になっているのだろう。
悪ガキ同士のじゃれあいみたいに軽くいじる方が反応は良い。
「濡れたネコみたいだな。拾ってやろうか?」とキャッチボールのように軽口を叩けば、「嚙みちぎるぞ。あたしが復活したら覚えとけよ」と荒めの返球を返してきた。
反射的に真っすぐ返すだけでもいつも通りに近いレンだ。
辛気臭い顔を見るよりは全然良かった。
それからしばらくして、レンが完全に静かになった。
「オイ、レン?」
「………スゥ…」
(……………寝てやがる)
数秒前まで軽口の叩き合いをしていたのに、スイッチが切れたみたいだった。
「置いてくか」と立ち上がろうとしたとき、
「!」
レンの手は、由良の袖をつかんだままだった。
軽く振って動かしてみても、放さない。
「……ったく」
自然と苦笑いが出る。
由良はレンを抱きかかえ、レンの部屋まで運んだ。
(まさか、こんな暴力女が暗所恐怖症だったとは驚きだ。人間わかんねえもんだな。しかも、意外と寝顔は可愛げがある…)
無防備な顔を見たのは初めてかもしれない。
近寄りがたい低くトゲのある言葉が常に発せられる口が今は半開きである。
少女らしいあどけない寝顔に、由良の口角が上がった。
「描きてぇなー…」
.To be continued