34:ブッ壊せないかな
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無人になった哨戒艇にあるダンボールから由良が顔を出し、外の様子を窺った。
いつの間にか侵入したのか、カラのダンボールの中に隠れ、どさくさに紛れてプラットホームに行き着いたのだ。
ヘリコプターデッキを見上げると、未だに悲鳴や銃声が響き渡っている。
(ユキエって女、エライ変わりようだな…。ガキのためなら形振りかまわずか…)
「ママはただ今、鬼子母神…」
(オレが潜り込んでんのも見て見ぬフリ。手ゴマに使うつもりなのかどうか…。巻き込まれる側はたまったもんじゃねーな…)
思わず同情してしまう。
(あの女のとこから抜けて正解だったな、レン…。抜け駆けみたいなことしたから、今頃オレに対してスゲー怒ってるだろうけど…)
もう少し騒ぎが収まってから飛び込むべきかと引き続き様子を窺うことにした。
一方、哨戒艇を追いかけてきたレンとアンジェラを乗せたモーターボートは、目的地に到着すると同時に、エンジンから煙を上げて停止した。
モーターボートのハンドルにしがみつくことに必死だったアンジェラは、船酔いに苦しめられていた。同じくレンもぐったりと横たわる。
「「着いた……」」
グロッキーの状態だが、レンはポーチからスタンガンを取り出し、自分の首に当てて充電した。
「はぁ…、はぁ…」
(やっぱり…)
空を仰ぎ、目を凝らす。
プラットホームから立ち昇る黒煙が、雲を作るように途中で溜まっている。見えない壁に遮られているようだ。
レンには心当たりがあった。
(勇太の“隔離”だ…。凄いな…。プラットホーム全体が覆われてる…)
横須賀基地にある住宅エリアもこの能力でかく乱したのだ。
遮断されたことで、海風も凪いでいる。
外側から見れば、プラットホームが消えているように見えるだろう。
遮断される前に、急いで追いかけて正解だった。
(これなら、どれだけ能力(ちから)を使って暴れても、広瀬が反応することはないけど……)
うーん、と考え込むレン。今がどういう状況なのかを整理する。
(おそらく太輔はひとりで軍に乗り込んだだろうし、ここに連れて来られて…、見えないけど…、爆発音とか哨戒艇が突っ込んだりとかひと悶着あったみたいだし…、さっき、哨戒艇から飛び出たのは由紀恵さんと純か…。能力(ちから)を使用中の勇太は、たぶん伶と奈美と一緒に、近くの安全な場所で隔離に集中しているはず…。安全って言っても、プラットホーム自体が危ないから、たぶん、哨戒艇か…、ボートに乗ってプラットホームからは見えない位置にいるか…)
他にボートがないか探そうと身を起こした時だ。
「ちょっと静かになったんちゃう…?」
アンジェラに声をかけられ、プラットホームの屋上から聞こえていた騒ぎが一度落ち着いた様子だ。
「……どうする? 中入る?」
「いや…、軍の連中が多いだろうし…、ここは慎重に……」
「“心臓”狙っとんちゃうの?」
「そうだけど、仲間が今、能力(ちから)でここの空間を隔離中なんだ。解除されるまでこっちじゃどうすることもできねーよ」
「とんでもない能力者おるやん!」
「聞いてへん」と慌てるアンジェラに、レンは耳を塞ぎながら「今言ったし」と舌を出す。
「解除される時は…、勇太が危険な状態に陥った時か、太輔が回収しようとした時か…」
「その回収する時に横取りすんの?」
「考え方は物騒だが…、似たようなもんか。……横取りというか…、“心臓”…あたしの手でブッ壊せないかなって思ってさ…」
「What⁉」
「……すごくいいものだけど………」
(大切な奴がそれを手に入れて死んでしまうなら……)
“アクロの心臓”を取り込んだ華音が弾けた姿がフラッシュバックし、肌が粟立った。
このまま、隔離が解除されるまで様子を見ようとした時だ。
「…え⁉」
哨戒艇からプラットホームに飛び移る影がまたひとつ。
見間違えるはずがない。
「由良⁉」
「え⁉」
レンの視線を追いかけ、アンジェラもその姿を視界に捉える。
由良はこちらに気付く素振りもなく、ノミのようにぴょんぴょんと建物の壁や突起物を渡り、ヘリコプターデッキに飛び移った。
「哨戒艇(あそこ)におったん⁉ うわっ!」
エンジンを叩き起こされたモーターボートが動き出し、バランスを崩すアンジェラ。
操作したのはレンだ。
目付きは悪く、額には青筋をいくつも浮かべ、ギリギリと恨めし気に歯ぎしりする。
「あのヤロウ、陸でおとなしくしときゃあいいものを…!!」
「さっきの慎重派レンちゃんどこ行ったん⁉」
苛立ちの漏電でエンジンが爆発するのではないかとハラハラしてしまう。
「待機作戦はなし! アンジェラ、ここから先は危ないからモーターボートで待ってて。エンジンも限界だし、救命ボートも途中で調達…」
言いかけた途中で、はっとした。
こちらに向かって空中に何かが投げつけられたのだ。
それは弧を描き、レンとアンジェラの乗ったモーターボートに落ちる。
ピンが外された手榴弾だ。
ドンッ!
モーターボートが爆破され、海面から水しぶき噴き上がる。
咄嗟だった。
爆破の寸前、レンはアンジェラを抱きかかえ、思いっきりジャンプし、爆風に背中を押されてそのまま哨戒艇へ飛び乗り、プラットホームに飛び移った。
3階建ての建物の傍だ。
「【い、今の…っ、爆弾…!?】」
海面に浮かぶモーターボートの残骸を見下ろし、押し寄せる恐怖に顔を引きつらせるアンジェラは、レンの首にぎゅっとしがみつく。
「あまりしがみつくな。動きづらい…」
手榴弾が投げられた位置を思い出し、建物の3階の窓を見ると、こちらを狙う銃口が見えた。
あ、と思った瞬間に身を翻し、アンジェラを抱えたままダッシュする。
同時に、レンを狙って何発も銃弾が発射された。
「くっ…そ!」
「NOOOOOO!!」
由良を追いかけたいところだが、今、宙へ飛べば恰好の的だ。追いかける銃弾が距離を詰めてくる。
レンは建物の1階の窓を蹴破り、建物内に逃げ込んだ。
「大丈夫⁉」
レンに下ろされたアンジェラは、前屈みになるレンの調子を窺う。
銃弾は当たらなかったが、背中で受けた爆風による多少の火傷が見当たった。
廊下の奥から足音が響き渡り、こちらに向かってくる。
アサルトライフルを構えた兵士達だ。6人はいる。
「レンちゃ…ん……」
「次から次へとよお…、朝のイライラがだいぶ落ち着いてきたところだったのに…!」
その顔を見たアンジェラはぎょっとして言葉を詰まらせた。
「【見ろ、女がふたり…】」
「【まさか、侵入者じゃないだろうな?】」
「【油断するな! 怪しい奴は片っ端から撃って構わんらしい…】
銃口を構える兵士達。
アンジェラは英語で訴える。
「【軍のみなさーん、逃げた方が身のためですよー!】」
「【なに言ってんだ、あの女】」
「【投降する、の間違いじゃないのか…】」
鼻で笑う兵士だが、アンジェラはすでにレンの背後で離れて避難していた。
「彼女、今…、めっちゃバチ切れしてるんで…」
パァンッ、と天井の電灯が破裂する。
レンの空気が殺気立った。
「あのバカはどこだァ―――!!?」
雷神の如くバリバリと青白い電流を迸らせるレンの姿に、「Demon!?」「Satan!?」と恐れおののく兵士達。
こうなれば手はつけられない。
冷や汗を浮かべるアンジェラは「こういう時は…」と日本式を思い出し、両手を合わせた。
「ごしゅーしょーさま」
.To be continued