33:相変わらず
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長期滞在先のホテルの一室に由良を招き、到着するなり「先にシャワーを浴びてくる」と浴室に向かうレン。
しばらく部屋を見回したり、備え付けの冷蔵庫を漁ったりしていたが、シャワーの水音が聞こえたところで、由良が大人しく待っているはずもなく、忍び足で浴室に近付き、音を立てないようにドアを開けた。
「フフン。お見通しだバーカ、テメーはな~んにも成長しねーな!」
由良の気配に気付いたレンは、上は黄色のビキニ、下はショートデニムの水着姿で待ち構えていた。
してやったり、と不敵に笑う。
「……………」
しかし、由良のリアクションはレンの思ったものとは違った。
悔しがるどころか、無言で、指をアゴに添えて考えるようなポーズでじっと真剣に眺めている。
眼差しに耐え切れず急に恥ずかしくなったレンは、顔を真っ赤にしてわずかに仰け反った。
「…………え、なに…?」
「いやぁ~。おまえはだいぶ成長したなぁ~」
いやらしく口角を上げ、「まだまだ育ち盛りだったんだな」とまじまじとレンの2年の間に実った胸を遠慮なく凝視する由良。
「熱っ!!」
レンは熱湯のシャワーを浴びせ、由良の胸倉をつかんで浴室にズルリと引きずり込んだ。
「ちょうどいい…。今からキサマを邪念ごと丸洗いしてやる」
逃げられないようにドアを背にし、「スッパイんだよ」と殺気立った険しい顔で、ボディブラシとシャワーヘッドを構えるレン。
由良はギャーギャーと猫のように暴れたが、レンは容赦なく「おとなしくしやがれ」と泡立てた石鹸やシャンプーで由良を泡まみれにしてツナギごとゴシゴシと気合いを込めて洗った。
数十分後、ツナギはバルコニーに干され、腰にバスタオルを巻かれた由良は、髪が濡れたままムスッとした表情で、レンが買ってきた菓子類を漁っては頬張っていた。
「レンの奴、力任せにゴシゴシしやがって…」
肌のところどころが少し赤い。
備え付けの冷蔵庫からチョコレートジュースも発見し、勝手に蓋を開けてゴクゴクと音を立てて飲み始める。
「勝手に飲んでんじゃねーよ」
そこで浴室から出てきたレンが声をかけた。
バスローブを身に纏い、真っ白なタオルで髪を拭きながら、ジュースをネコババしている由良を睨む。
普通に私服で出てくるのかと思っていた由良は、目を丸くして「おお…」と声を漏らした。
「大胆だな…。挑発してる?」
「はいはい、髪濡れたままだから拭こうな」
適当にあしらい、別のタオルを持って由良の後ろに回り、濡れた髪を拭き始める。
「ノリが悪いやつめ」と由良は口を尖らせた。髪を拭かれながら、意地の悪そうな笑みと嫌味を含んだ言い方をする。
「しっかし、海外で再会とは夢にも思わなかったぜ。まともに英語できねえ奴でも、海外に来れるんだな」
レンはムッと眉を顰めたあと、フンと鼻で笑う。
「【誰がまともにできねえって?】」
「!」
「あ、能力者同士だと、どっちにしても翻訳されるのか」
英語を喋ったつもりだったが、能力者同士では通じ合ってしまうのだ。
そこで思いついた由良は、ベッドの傍に置いていたスケッチブックと鉛筆をつかみ取ってサラサラと英文を書き、後ろにいるレンに見せるように掲げた。
「これなんて読む?」
「“私はもっと、キャラメル、チョコレート、生クリームなどの甘いお菓子が食べたいです”」
「おー」
「さらっとオーダーすんな。もうちょっと複雑なの出せ」
張り合いがない、と言いたげに注文するレンに、由良は「じゃあ…」と書く。今度は少し長文だ。
「ほい」
「“私は彼の…”………え? ……あ?」
「わかんねーの?」
「ちょっと待って、全然見ない単語が多くて…。……なめたい? なにを? 激しく…。大きい………………」
嫌な予感がした。考えたところで勝手に顔が熱くなる。
由良は正解の翻訳を口にした。
「“私は彼の×××××を××××××で、×××××××××…”」
「わ゛ぁ゛――――ッッ!!」
官能小説のような文章を読み切られる前に阻止する。
「バッッカじゃねーの!? 誰がわかるかそんなの、バーカバーカ!」
「ぎゃははっ!」
「邪念全然落ちてねーじゃん!」とタオルを振り回しながらがなるレンのリアクションが面白くて、由良は「オレのはこびりついてしつこいんだよ」と腹を抱えて笑った。
落ち着いたところで、「さて…」と咳払いする由良。
「約束、覚えてるよな」
「クソ、やっぱり覚えてたか…」
「当たり前だろ。おまえの大事なモンだってずっと預かってたんだからな」
「そ…、それはありがとな…」
「礼はいーから、ほらほら脱げ脱げ」とバスローブの裾を引っ張る由良に、レンは「引っ張んな」と抵抗する。
「約束した以上は守るけど…、これってやっぱり割に合わない気がする…」
ブツブツと呟きながらバスローブを脱ぎ、少しでも羞恥心を紛らわせようとベッドシーツを引っ張り出し、「ここに座んの?」と確認しながら窓際近くの床に腰を下ろした。下半身に申し訳程度のシーツを纏う。
「なあ、こんなカッコだからって、ちょっかい………」
「ちょっかいを出すな」と言おうとした言葉がふわついた。
スケッチブックと鉛筆を手に、こちらを見る由良の目付きが変わったからだ。
レンの輪郭を真剣な眼差しでじっくりと観察し、見たまま鉛筆を紙に走らせる。
いっそちょっかい出される方がいいくらいの雰囲気にレンは居たたまれず、頬を紅潮させて硬直してしまう。
今、由良と目を合わせると、心まで丸裸にされて全部描かれる気さえした。
心臓の音がうるさく、静寂な部屋に反響しそうだ。
「もっと楽にしろよ」
「プッ」と噴き出した由良は頬を緩ませて笑う。
顔から火を噴きそうなレンは、うつむき気味に小さく手を挙げた。
「か…、会話していいデスカ」
「いいぜ。…なぜ敬語?」
ホテルへの道中も軽く話したことだが、互いに今まで何をしていたのかをもう少し詳しく語り合う。
湖をどう生き残ったのか、華音のこと、森尾のこと、他の能力者との出会い、互いの目的…。
夜はゆっくりと更けていく。
「…レンも“心臓”を狙ってんのか?」
「欲しいけど…、あたしの願いが叶えられるか…、少し…望み薄になってきたんだよな…。由紀恵さんにそこそこはっきり言われてるし…、暴走しないって意地になって素で暴走しかけてみんなに怪我させそうになるし…」
「死者の蘇生ってなかなかでかい望みだな」
「ん…」
「……仮に、カノンとモリヲの蘇生が成功したとして…、はたしてそいつらが本当に本人なのか…。血や髪の毛の情報で蘇らせようとしてんだろ? それって要はクローン…」
「……………」
「……どこかで理解してるみてえだから、これ以上は言わねえけど…」
「……由良も追ってるんだろ…、“心臓”」
「ああ」
「なんで…」
「オレももしかしたらで動いてるが、アレを手に入れれば…、オレの穴が埋まるかなって…。そしたら……」
(……死ぬかもしれないのに?)
レンは言葉を呑み込んだ。
華音の死に様は由良も目撃している。わからないはずはないのだ。
由良はいつの間にかスケッチブックから視線を外し、待ちきれないのか、うっとりとした表情でどこか彼方を見つめている。
その様子が、レンにとって癇に障った。
「……由良、そのジュース、飲みたいんだけど」
のそりと立ち上がったレンは由良に近付く。
「えー。もうほとんどねえぞ」
「いい」
レンの伸ばした両手が由良の両頬をつかみ、強引に自分の方に向かせ、
「!」
そのまま、由良の唇に押し付けるように自身の唇を重ねた。
勢い余って舌先が由良の唇と舌に触れ、チョコレートの味を覚える。
「……………」
目を丸くする由良に対し、顔を離したレンはだんだん恥ずかしくなってシーツをすっぽりと頭から被った。
ユウレイのような格好になったレンを前に、由良は「……あ―――」と頭を掻きながら、鮮明に蘇った記憶に声を漏らす。
「……もしかして、オレ…、2年前におまえに同じことした?」
酔い潰れていたあとのため覚えていなかったが、先程のレンの行為で思い出した。
レンは黙ったまま頷く。
「そのまま手とか…」
「出されてないってば」
シーツの中からくぐもった否定を返したあと、ため息を漏らして一度間を置いた。
「……よそ見すんな。ムカつく」
顔が見えなくても、拗ねているのがシーツ越しにわかる。
呆気にとられていた由良は、手の甲で口元を押さえて込み上げる笑いを堪え、スケッチブックをその場にそっと置き、レンが被っているシーツの端をめくってゴソゴソと中へと入る。
「お邪魔シマス」
「は!?」
「うはっ、顔真っ赤」
「やめろやめろ見んな!」
「よそ見すんなっつったのはおまえだろうが」
「ち、近すぎ…」
「思いっきりチューしてきたくせに。人には「ちょっかい出すな」って言っといて煽りやがって」
「うるさい…っ。あれはいつかの仕返しだし…」
「仕返しでヤロウにキスすんの?」
「~~~~っ!」
「ははっ、さっきのはちょっとシビれた」
「本気で痺れさせるぞ」
「マジの感電やめろ。そういうことじゃねーよ…」
「…………続き…どうする…?」
「どっちの?」
「ど、どど、どっちって…!」
「オレはどっちもやりたい。据え膳食わぬは…ってやつ」
「正直すぎてむしろ清々しい…。……欲張りすぎ」
「人のこと言えねーだろ。オレから見れば、レンもガキみたいに相当欲張りな奴だと思うけどな。…我慢が毒になるタイプ」
「分析すんな…。ガキって…、もう20の大人だっての」
「オトナ、ねぇ…。たしかに身体は色っぽくなってるけど…、まだまだ、出会った時から見せる怒り任せのガキっぽいとこはぬけきれてねえよ。出会った当初は逆ギレでリュックぶつけられるし、昨日の再会だってブチ切れで思いっきりほっぺ引っ張られたし…」
「ぐ…。ホントだ…変わってない…」
「すねてチューしてきたし」
「うッ」
「そういうとこ、嫌いじゃねーよ、オレは」
「……………」
「オトナなところは、そうだな…。なんだかんだ文句言いつつ、ちゃんと約束守る律儀なところか…。本当に脱ぐ気があったのは驚いた」
「……由良じゃ…」
「?」
「あたし…由良じゃなかったら脱いでないし……」
「……へぇ―――?」
「なしなし。余計なこと言った」
「……………」
「……………」
「……シーツの中…熱くなってきたな」
「……うん…」
被っていたシーツが床に落ちる。
どちらが先だったのか、互いの唇を重ね合わせ、由良の右手とレンの左手も自然と合わさり、指と指を絡ませた。
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