33:相変わらず
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太輔と一緒に買い出しを終えたレンは、別荘に入る前に太輔と別れ、夕暮れの砂浜を歩いていた。
波打ち際に沿うように歩を進め、オレンジ色の空が広がる海の方を見ると、夕陽がゆっくりと沈もうとしているのが見えた。
レンの右手には、菓子類が入ったビニール袋を提げている。歩くたびにカサ、カサ、と音が鳴った。
太輔は、チョコレート、キャラメルポップコーン、ケーキなど、買ってきた菓子類で別荘の殺伐した空気を緩ませようとしているのだ。
「プッ、ハハハ…」とレンは思い出して笑う。
「由良(あいつ)に吹き込まれたな…。嫌いなクセに、素直なことで…」
でも、心のどこかで上手くいくような気はしていた。
「よう、ご機嫌だな」
「!」
後ろから声をかけられて振り向くと、ニヤニヤと意地悪そうに笑う由良が立っていた。海風で左袖が揺れている。
「…よー。おまえもな」
由良の右脇にはスケッチブックが挟まれていた。別荘から拝借したのだろう。
平静を装ってはいるが、レンはまだ、まともに由良の目を見ることはできなかった。どこか気まずく、無意識に視線を逸らしてしまう。
「タイスケのとこに戻んなくていいのか?」
「いいや…、ここから先はソロだ。由紀恵さんの傍にい続けるのがきつくなった。一度、ホテルに戻って考える」
「ホテル~?」
「ここに来た時に長期滞在でとったんだよ。勝又の二の舞が嫌だから宿泊先は別にしたんだ」
「ちょっと怪訝そうな顔すんな」と由良を軽く睨むレン。
「その方がいいだろうな。…ケガの方はもういいのか? さっきまで寝たきりだったろ」
「おかげさまで治りましたー」
「ふぅん?」
すぐ間近に由良の顔が近づき、由良は、レンの前髪に指をかけて傷の具合を見た。
突然の至近距離に固まるレン。驚きのあまり、由良の顔から目が離せない。
「ほとんど塞がってるみたいだな。さすが能力者」
ニッと笑う由良の顔は、夕陽に照らされたオレンジ色だ。黄色の瞳もキラキラと反射している。
キレイだな…と魅入ってしまう。こんな気持ちが湧くのはいつぶりだろうか。
不意に由良の指が、前髪からレンの左頬に移り、むに、と軽くつねった。
「昨日の仕返し」
意地悪く舌をベッと出して笑う由良は、2年前と何も変わらない。
微かな痛みに伴って由良の指先の熱がじわりと頬に伝わり、波紋のように拡がって目が熱くなった。
由良の指に、玉のような雫が一粒。
それをきっかけに、一粒、また一粒とポロポロ零れ、レンの頬と、由良の右手を濡らした。
不意打ちの涙に、目を丸くする由良。
「なんだよ、まだ傷が痛むんじゃ…」
「由良…」
頬から離れようとした由良の右手を、レンは押さえつけるように両手でつかみ、右手のひらの確かな温もりに浸る。
「―――会いたかった…っ」
肩を震わせて堰を切ったように泣き出したレンを、由良はしばらくぽかんと眺め、やがて、やれやれと笑った。
「レン…。相変わらず、泣き虫だな」
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