32:望み
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ジャスパーと距離をとるレンだったが、切りつけられた右こめかみの傷口が痛み、思わずよろけてしまう。
(しくった、最初の傷がけっこう深い…!)
体勢を戻し、右手で目にかかる血を拭った。
こめかみからのどくどくと流れる血が顔と首を伝い、黒のタンクトップに付着し、黒い染みが拡がる。
そんなレンを見て、ジャスパーは不気味な笑みを浮かべた。
相手が仕掛けてくる前に、レンは弾かれたように突っ込み、ジャスパーが伸ばした右腕を体を半回転させることでかわし、前屈みになった顔面を蹴り飛ばそうとした。
「!」
しかし、ジャスパーは素早く空いた左手でレンの足をつかみ、回転をつけてレンの体を、勢いよく投げ飛す。
ドッ
「が…ッ!?」
レンは近くの木に背中を強く打ちつけた。
すかさず、歯を食いしばって身構える。
余裕の笑みを浮かべたジャスパーが、ゆっくりと向かってきた。楽しんでいるのは見て取れる。
太輔と奈美の様子もわからず、レンは苛立ちが募るばかりだ。
「こっちにはなぁ…、んなヒマねえんだよ!!」
最悪勝利はできなくても、少しでも動きが止めることができればこの場を離脱して太輔と奈美のもとへ駆けつけることができる。
プラズマを投げつけながら移動するが、ジャスパーは怯むことなく、俊敏な動きでレンが投げ飛ばしたプラズマをことごとくかわしながら接近してきた。
両手首から骨の刃を伸ばし、躍りかかる。
「ミュータントかよ!」
「【アメコミヒーローみたいだろ?】」
とてもヒーローとは思えない悪い顔をしながら両手の骨の刃を振り回すジャスパーに対し、レンは刀身の動きに気を付けながらかわし続けた。
その際、頬や腕に切っ先が軽く掠り、動きが鈍りそうになる。
「【諦めろ】」
そう言って、ジャスパーは筋肉質な両腕を振り上げた。
筋肉が軋む音をたて、腕の筋肉が強化される。
「【脆いんだからさぁ、楽にしろよ!】」
レンの体に飛びつこうとした。
抱きしめられれば最後だ。全身の骨を折られてしまうだろう。
「【あ?】」
ジャスパーの視界からレンの姿が消える。
ゴキッ!
「【ぶ!?】」
素早く身を屈めて両腕を避けたレンが、両手を地面につけて逆立ちする勢いで、前傾姿勢のジャスパーの顔面を蹴り上げたのだ。
「【ぐぅ…!】」
後ずさって脳が揺れる感覚と鼻が骨折した痛みに顔を歪めるジャスパーを見て、レンは確信する。
(顔は変形するからやらない…、ってことはつまり…、顔面は普通に攻撃が通る…!)
「【ハッ…。やるじゃん、センパイ】」
「!?」
鼻と口から血を流しながら、ジャスパーは不敵に笑った。
レンは気を抜くことなく、すぐに距離をとって構える。
ジャスパーが再び骨の刃を両手首に構え、レンに突進し、レンは再びかわしながら隙を窺った。
(速い…!)
先程よりスピードが上がっている気がした。
顔面目掛けて伸ばされた骨の刃を顔を逸らして避ける。
その時、ブツ、と紐が切れる音が聞こえた。
頭にかけていた眼帯の紐に骨の刃が引っかかり、切れたのだ。
レンの意識がそちらに持って行かれる。
ドス!
左脇腹を、左の骨の刃が貫いた。
「う……ッ」
込み上げた血を吐き出し、片膝をつく。
ジャスパーは骨の刃を抜かず、「【やっとつかまえた】」と笑った。左腕を捻れば、レンは歯を食いしばって呻く。
「【これ、センパイの落とし物】」
右の骨の刃で、レンの眼帯を拾い、レンの顔近くへとやる。
レンは手を伸ばしたが、「【おっと】」と上へ上げて距離を離した。
「返…せ……」
「【大事な物? そういえば、アキセンパイから聞いたけど、レンの昔の仲間ってさ、けっこう個性的なセンパイがいたって…。って、うちもそっか。ハハ…。……その中のひとりが眼帯してたって聞いてたし…。これってそのセンパイの?】」
ジャスパーはレンの両目を覗き込む。
「【目が悪いってわけでもないし、そもそも眼帯を目につけないのって変だと思ってたんだ…。レンセンパイ…、形見持ちとか重すぎー】」
露骨な嘲笑だった。
「【オレも生きてるうちに会いたかったんだけどな~。赤毛のカノンセンパイ、眼帯のモリオセンパイ、それから…、ユラセンパイ。死んじゃったんなら仕方ないか―――。みんな、脆いな―――】」
「死んで…ねえよ…。あいつは……由良だけは……」
(本当に…? あたしが…そう思い込みたかっただけじゃ……)
極限状態だった。あまりにも絶望に押し潰されていた。
だから、森尾の幻覚と、由良が生きているかもしれない希望の幻覚を見たのではないかと考えなかったことはない。
そんな事実を受け入れてしまえば、立っていられなかった。
「【わかるぜ。受け入れたくないよなー。誰だってそうだ】」
ジャスパーは故郷を思い出し、目を伏せる。
「【だから安心しなよ。勝又のおっさんが忘れさせてくれる。全部…。昔の辛かったこと…全部を…】」
「……………」
(ああ…、耳障りだな…)
すべてがノイズに聞こえた。
レンは自身の左脇腹に食い込んだ、ジャスパーの骨の刃を左手で握りしめる。
「つかまえた」
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