31:一度だってない
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またこの夢か、とレンは途中で気付く。
食卓には自分を含めて4人。
三角型のペンダントライトがどこか薄暗い。
自分から見て、左に座るのが森尾、右に座るのが華音、そして向かいに座っているのが兄の水樹。ほとんど、席に変わりはなかった。
すべてを覚えているわけではないが、雑談の内容はバラバラだ。
水樹、森尾、華音の会話に耳を傾け、その光景を眺めるばかりのレンだったが、今回は違う。
3人の視線が、レンに集中していた。
言いたいことがある。そんなレンの思いをあらかじめ知っている態度だ。
一度間を置き、口を開いた。
「……もうすぐで手に入れられるかもしれないんだ。待っててくれ…。また会えるよ。今度は、夢(ここ)じゃなくて……」
ペンダントライトが仄かな優しい光を放つ。
“アクロの心臓”の光だ。
魅せられるレンは薄く微笑み、それに両手を伸ばす。
「兄貴…、また…友達ができたから紹介したいんだ…。華音…、おまえとも一緒に海に行きたいな…。海外旅行もいいもんだよ…。森尾…、火傷はきっと消えてるはずだから…、今度太輔に会ったら、ちゃんと話し合ってくれ…。いい奴だよ、あいつ…。―――それと…、いつか由良に会ったら…」
「レン」
発したのは水樹だ。
ライトがチカチカと点滅する。
夢から覚める合図だ。
「悪いな…。たぶん、無理だ」
水樹の表情は寂しそうだ。
森尾は目を伏せ、華音は天井を見上げながら自身の毛先を人差し指でくるくるといじる。
「おまえは、オレ達を追う必要はないんだ…」
「なんで…そんなこと……!」
勢いよく席を立った瞬間、ライトが消えて闇に包まれ、足下の感覚がなくなった。
落ちる、と思った時、びくりと身体が大きく跳ねて目を覚ます。
そこは、宿泊しているホテルの一室だ。ひとり部屋で、ダブルベッドと冷蔵庫、小さなテーブルとイスがひとつずつ、シンプルなトイレとシャワールームも完備されてある。カーテンとカーペットは濃い青色だ。
目覚めたばかりのレンの目先には、天井にあるシーリングファンがくるくると静かに回っていた。
海が見えるバルコニーから差し込む朝陽に、眩しそうに顔をしかめる。
下着とTシャツ姿のレンは、だるそうにダブルベッドから半身を起こし、大きなため息をついた。
「無理じゃない…。無理なわけが…」
珍しく夢の内容を覚えていた。しかし、気分は最悪だ。
その場でシャツを脱いでシャワールームへと向かい、熱いシャワーを頭から浴びた。
冷え切った身体はゆっくりと温まるが、付き纏う苛立ちは流れ落ちない。
(“心臓”があたしの願いを叶えてくれるなんて保証はどこにもない…。わかってる…。独りよがりな願望だってことは…わかってんだよ…)
シャワーを浴びたあと、コンパクトな冷蔵庫から、昨日スーパーで買った缶ジュースを取り出し、ごくごくと音を立てて一気飲みする。
「……甘」
何度飲んでも、溶かしたミルクチョコレートをそのまま入れたようなチョコレートジュースはもったりとした味で慣れない。飲みすぎると胸やけを起こしそうだ。
海外製品のせいか、さらに甘く感じた。
『イライラした時は糖分とっとけ』
菓子を頬張りながら言った由良の言葉を思い出す。
レンは手の甲で口元を拭い、「バーカ…」とこぼした。
「誰のせいで……」
甘いものを口にするたびに思い出しては胸が苦しくなるから、タチが悪いのだ。
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