30:ここまで来れたのも
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
三日月の夜の下、別荘のリビングでは全員が集合していた。
純は壁にもたれ、レン、太輔、葵、勇太、奈美が椅子に座り、テーブルの上には“アクロの心臓”と現在地と海軍基地がある場所にマークが書かれた地図を広げられ、伶はその傍にある別のテーブルの椅子に腰かけながら説明していく。
「いいか…、ここが“心臓”。現在地。そして、海軍基地…。今回も二手に分かれて陽動作戦な」
「また? 伶君…、この間それで失敗したじゃん! うまくいきっこないよ!」
ひねりもなくあっさりとした投げやりのような作戦説明に、勇太が声を上げ、勇太の向かい側にいるレンは厳しい口調で勇太の意見に同意する。
「敵だって、そんなにバカじゃねえんだぞ」
「……いや、これでいく…」
伶は、自分の座っている椅子のテーブルの上に並べられている、解体状態の拳銃を磨き、組み立てながら言葉を継いだ。
「幸い軍(やつら)も、夜は回収作業をしてない。警備も手薄で狙い目だ。純、おまえと奈美、勇太、レンは……」
地図の上に並べられている海軍基地の写真を指す。
ちょうどこの別荘とは反対の海岸にある。
「ここの通信施設をぶっ壊して、空・海軍のレーダーを潰せ。終わったら、さっさと引け。いいな」
そう言って、純と目を合わせた。念を押すような目つきだ。
「………わかってる…」
目を合わせながら、純は静かに短く答える。
その様子を見ていたレンは、不満そうに顔をしかめた。
伶は、あからさまなレンの態度に構うことなく続ける。
「その間、オレと太輔は沖へ向かう」
「回収班ってことだな!? でもよう……」
願ってもない担当に太輔は声を張り上げたが、ひとつの心配があった。
「引き上げる気? あれを…!?」
太輔と同じことを思った奈美は、太輔の心配を口にする。
引き上げるといっても、“心臓”は岩に包まれている状態で海底に沈んでいるのだ。数人の力では到底無理な話である。
「どう考えても人数足りないだろ。あたしも回収班に……」
レンは立ち上がって、自分も回収班に加わるように申し出た。
だが、被さるように伶に遮られる。
「大丈夫、考えはある」
「……どうするつもりなんだよ?」
どうしても回収班に入れたがらないような伶の言動が気に食わず、低い声を出しながらレンは伶を睨んだ。
「私が“心臓”を引き上げるわ」
そこへ唐突に、隣の部屋から出てきた由紀恵が言った。
太輔は驚いて椅子から立ち上がる。
「ユキエさん!?」
「ママ!」
葵も、レンと勇太と奈美と同じく目を丸くした。
「足手まといになったら、ごめんなさいね。けれどもう…、日に日にささやきが強まってきてる。もう目覚めの頃だわ…。ママ、正直、焦っちゃってるの」
由紀恵は自分の頬に手を当て、困ったように微笑む。
緊張感のないリアクションに、呆気にとられた勇太が「え…」と零した。
「大丈夫よ。私の中にも、“心臓の欠片”がある」
由紀恵は自身の胸に手を当て、視線を太輔に移して言葉を継ぐ。
「それに、太輔、あなたもいる……。…やってみましょう」
「……わかった」
由紀恵の表情にわずかな陰を見た太輔は、素直に答えた。
葵は勢いよく椅子から立ち上がり、伶に向かって声を上げる。
「あたしは!?」
「葵は、お留守ば……」
「やだ!!」
すぐに駄々をこねる葵に、伶は呆れながら煙草の煙をふかす。
「……ちゃんと言うこと聞けるか?」
「はい!!」
葵はぱっと顔を明るくさせ、元気よく返事をする。そんな葵に対し、伶はしれっと答えた。
「じゃあ、留守番」
その言葉に、葵ははめられたと声を張り上げる。
「あ―――!! 大人って」
「わかったよ。葵は純とこ! 逃げ足は天下一だしな」
「やった!!」
諦めたように言う伶の言葉に、葵は両腕を上げて喜び、両手でガッツポーズをとった。
(よかった…。もう、おいてかれない!)
「よーし、じゃあ決まりだな。次の新月の夜に決行する。以上、終わり」
拳銃を組み立て終えた伶は、スライドを引いて調子を確認する。
作戦会議が終了しても、レンと奈美と勇太の3人は腑に落ちない顔をしていた。
*****
作戦会議終了後、レンと勇太と奈美は外に出て、別荘のすぐ横にある小さな石垣に腰掛けていた。
すっきりしない顔が並んでいる。
ふと、勇太は考え事をするように空を見上げ、レンと奈美に話しかけた。
「なんか、おかしくない? 伶君…。作戦も強引に決めちゃうしさ。あれじゃ、回収班が人手不足だ」
その言葉に、レンは伶の言動を思い出して腹を立て、眉をひそめる。
「確かに。なんだったら、陽動班の方が多い気が…」
宙を睨みつけたところで、ふと疑問が浮かんだ。
(なにか…、隠してる…?)
「太輔も黙ったまんまだし、いったい、なに考えてんだ…」
不満を口にする勇太の横で、奈美は一言も喋らず、ただじっと自分の太ももに頬杖をつき、宙を見つめながら考え込んでいる。
「……作戦の日まで、まだ少し時間もある…。伶の気も途中で変わるかもしれないだろ…」
石垣から立ち上がったレンは、そう言いながら両腕を上げて伸びをした。
「時間も遅いし、一度ホテルに戻って寝るわ」
「あ…。そっか…」
レンは由紀恵達の別荘ではなく、バイクで10分ほど走ったところにある、小さなホテルの一室に泊まっていた。
由紀恵は太輔達のように部屋を貸す予定だったが、レンは「衣食住まで世話になるのは悪い」と断ったのだ。
「レン姉ちゃん…、お金大丈夫なの?」
この旅の旅費もほとんどレンが出費している。安くはないはずだ。
別荘ならほとんど無料なのだが、レンは「大丈夫大丈夫」と手を横に振る。
「そりゃー、こっちは20になったばかりのいい大人だし、バイトとか、裏ファイト…いやいや、カツアゲのカツ…いやいや。…………まあいろいろ頑張って稼いできたから」
「いやいや」の度に首を横に振り、言葉を選ぼうとしばらく間を置いたが、親指を立てて誤魔化すことにしたレン。
「そ…、そう…?」
(今なにか不穏なこと言いかけた?)
聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたが、「いいおとな…?」と首をひねりつつ、勇太は大人びているのでスルーすることにした。
「奈美」
「!」
声をかけられ、はっと我に返る奈美。レンがホテル戻ることに今気付いた様子だ。
「また明日な」
「あ、ああ…。気を付けて」
レンは別荘の傍に停めた黒のハーレーに跨り、エンジンをかけて走り出す。
ふと、砂浜の波打ち際に立ち尽くし、海の向こうを眺める太輔の背中を見つけた。
何かを見ている。何かを聴こうとしている。
レンの耳に入ってくるのは、腹まで伝わる心地のいいエンジン音と、海風の音、そして、闇色の海が奏でる静かな波の音だけだ。
.To be continued