30:ここまで来れたのも
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雨の中を走ってきた勝又は、アジトに帰ってきた頃には、書類を手に、びしょ濡れになっていた。
「ふう」
(やれやれ……)
予期せぬ雨だった。濡れた袖を擦りながら、軋む廊下を渡る。
「勝又さん、おかえりなさーい」
廊下の先にあるランドリールームから、恵に声をかけられた。姿は見えない。
廊下を曲がってランドリールームに足を踏み入れると、恵が乾燥機からベッドシーツを取り出しているところに出くわす。
「ああ、落合さん。………よく私だとわかったねぇ」
恵はランドリールームから顔も出さず、廊下にいる勝又に声をかけたのだ。
「足音で、だいたいわかりますよ? タマちゃんはペタペタ歩くし、ミッキーは足音大きいし、逆に、天草さんはみんなより足音小さいし、ジャスパーは床を蹴るように歩くし、勝又さんはのんびりしてるから、足取りがゆっくりしてます」
「はい、コレ」と乾燥機から取り出した、乾きたての温かいタオルを、目を丸くしている勝又に手渡す。
「そしてハンさん、摺り足ぎみに歩く…!」
恵はずばりと人差し指を立て言い切った。
「へえ…」
「ハンさんて姿変えられるから、私、よくからかわれるんです。でも、見分けるコツ発見したので、もう騙されない!」
感心する勝又に、恵は勝ち誇った顔を浮かべながら、シーツを畳み始める。そこで「……あ、でも」と足取りがつかみにくい人物を思い出した。
「もうひとり…、あの人はわからないなー。急に後ろに立ってたりするし…」
そう言いながら後ろに振り返ったが、ランドリールームの小窓があるだけだ。
窓の向こうは、雨脚が強くなっているのが見える。
「……ハンさん、最近帰ってきませんね…。次は、どんな姿で帰ってくるのか楽しみなのに…」
アゴでシーツの中央端を押さえ、両手を使って畳みながら呟く恵は少し寂しそうだ。
「ああ…。無事、戻るといいね」
この時、勝又は胸騒ぎを覚えていた。
「え?」
「ああ、いや、こちらの話……」
そう言いながら、頭を拭き始める。
雨の音が、心なしか大勢の拍手のように聴こえた。
深夜、マンションの屋上では、ジャスパーが傘もささず雨に包まれた街並みを眺めていた。
「【……キミは今、なにを感じている?】」
「【!】」
そこへ、突然後ろから、ルドガーに声をかけられた。
ジャスパーは一瞬目を見開いて驚いた表情をしたが、すぐ後ろにいるルドガーには振り返らない。「【ハハッ】」と一笑するだけだ。
「【相変わらず気配ないな、あんたは…。……心地いい雨なのに、不思議と胸が痛いんだ。まるであの時のように……】」
ジャスパーの茶褐色の瞳に、悲哀が帯びる。
胸をよぎるのは、かつてのスラムの仲間達と、雨の中、汚泥に積み上げられた死体の山だ。
「【キミも不思議な男だ。意味があるようで、意味のない言葉を無意識に並べ、自分を痛めつける】」
「【感傷的になってんだよ。明るいオレ様でも、そういう時はひとりで浸らせてくれ。……あーあ、辛気臭ぇ】」
不貞腐れて口を尖らせるジャスパーは、ルドガーに振り向き、「【風邪ひくなよ】」とその肩に手を置く。
「【ハンも頑張ってるし、そろそろオレ達も動こうぜ…】」
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