29:忘れるわけねえだろ
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その夜、由良は広い公園のベンチに横になっていた。
あちこちにゴミが散らばって衛生的にはよくないが、通りかかる人間もまばらで静かなものだ。
(あーあ、ふりだしか…)
さてお次はどう動いたものか、と目を閉じて思案する。
「!」
(“仲間”の反応…)
仲間同士の反応をキャッチして片目を開けると、すぐそこには、無遠慮にじぃっと穴が空くほど間近に顔を近付ける女がいた。
「おおっ!?」
突然の至近距離に驚き、勢いよく飛び起きる由良。
女は動じる様子もなく、片手に持っている紙と、由良を見比べている様子だ。
「……な、なんだよネーチャン…。ナンパ?」
「ホンマにおった…」
「あ?」
「……ブフッ! KU・RI・SO・TSU~~~!」
ついには我慢できずに噴き出し、ひいひいと腹を抱えて笑い始める始末だ。
「なんだなんだ」と怪訝と不愉快が混ざった顔をする由良。
気になって、女が腹を抱えて前かがみ状態なのをいいことに、持っている紙をひったくる。
「あ」
「……これは……まさかオレのつもりか?」
描かれていたのは似顔絵だ。しかもボールペンで書かれた全身図である。
特徴がよく捉えられており、由良自身もすぐに自分の姿だと気付いた。
ご丁寧に、紙の左下にフルネームがカタカナで書かれてある。
「誰だおまえ。勝又の仲間か? オレのこと呼んで来いとでも言われたか?」
警戒して低い声で言うと、女は首を傾げて肩を竦めた。表情が呆れている。
「揃いも揃っておんなじこと言うんやな。どんだけ嫌われとんねん、ミスター・カツマタ…」
「…?」
「ウチはアンジェラ・イーストウッド。カツマタとは関係なし。あんさんの敵とちゃうってこと。Do you understand?」
「あとなんだそのヘタクソな関西弁」
「ヘタ言うな!!」
「なにがあかんねん」と眉を顰めるアンジェラ。
「オレの敵じゃねーなら…、なんか用? お仲間だから気軽に声かけてきたわけじゃねえんだろ?」
半目の由良は似顔絵の紙をヒラヒラとさせる。
アンジェラはなんと説明したものかと腕を組んだ。
「いやー、会えんかったら会えんかったでしゃーないと思とったけど、日本の空港でダメもとでその似顔絵見せたら、たまたま、あんさんが出国したって情報手に入れてなぁ…。ホンマにこの似顔絵通りで今めっちゃびっくりしてる。ちなみにウチら初対面」
そう言いながら、自分と由良を人差し指でさした。
「そのあと、こっちの空港で続々と目撃情報が手に入ってスムーズに見つかったわ。あんさん…、えーと…ユラ君でええんやな? 税関職員に取り調べされとったんやって? その見た目なら納得やわー。よそさんの国でめーわくかけたらあかんで」
「ほっとけよ」
余計な一言一言に、「なんなんだ、ヒトを見た目で判断しやがって」とイラつく由良。ポケットから飴玉の包みを出して中身を口に放り込んだ。
「それ描いた“あのコ”も、もうちょっと早く見つけられたかもしれへんのに…」
「“あのコ”って…。おまえが描いたんじゃ…………」
もう一度似顔絵を見る。
横文字の名前部分、右寄りにインクが少し擦れていた。利き手の特徴が見える。
(左利き……)
アンジェラと目を合わせた。
こちらを指さしたアンジェラの手振りを思い返し、左利きではなさそうだ。
思わず身を乗り出す。
「……レン…か?」
思い浮かべた顔と共に名前を口にすると、アンジェラは肯定するように優しく微笑んだ。
「…覚えとる?」
「忘れるわけねえだろ」
『由良…、あとでな…』
最後に見た何か言いたげな顔と言葉を思い出し、右手が無意識に左袖の缶バッジに触れた。
「あいつも…生きてんだな」
安堵と懐かしさがこみ上げ、自然と頬が緩む。
「今なにして…」
「探してんでしょーに」
苦笑し、似顔絵を指さすアンジェラ。
「おお…、そっか」と目を丸くする由良。
「ユラ君のことも探しとるし、なんか…“心臓”も追ってるみたいやで」
「! あいつもかよ」
「えー、ライバルー?」と苦笑交じりに漏らした。狙っているものが同じなのは複雑な心境だ。
「ウチが力を貸さなくてもどうにでもなるけど、会うなら早いうちがええやろ? これから一緒に行かへん?」
「…会うって…どっちのこと言ってる?」
「どっちも。たぶん、あちらさんの方が早く動とるんちゃう? 知らんけど」
「知らんのかい」
「うそうそ、言うてみただけやて。見たとこ文無しみたいやし、旅費も出したる。旅は道連れ、言うやろ?」
「世は情けってな。…タダなら甘えようかな~」
遠慮する理由もなくニヤリと笑う由良に、アンジェラも「話も早くて助かるわ」と笑い返す。
(【役者には、早く揃ってもらわないと…】)
「!」
一瞬、寒気を覚えた由良はアンジェラを窺うが、アンジェラはニコニコと笑みを返すだけだ。
「ほな行こかー」
アンジェラが歩き出し、ベンチから腰を上げた由良は大人しくそれについていく。
「……おまえ…アンジェラっつったか? レンとはどういう…」
「まあ、ウチの妹みたいなもん? 最近直接会うたばっかりやけど」
「すごくアヤシ―――」
「レンちゃんにもおんなじ顔されたわ…。話も長なるから、目的地に向かいながら話そーや。ウチがどういう経緯で彼女を追うことになったとか…。レンちゃんが今誰となにしてるんとか…。あ、まず、カノータイスケって知っとる?」
「あいつまさかタイスケといんのか!?」
「Wow。すごい食いつき…」
どういう組み合わせだ、聞かせろ聞かせろ、と食い気味な由良に仰け反るアンジェラ。
その視線は、密かに由良の空っぽの左腕を捉えていた。
思い出すのは、“先生”が最後に記した、“求めた答え、片腕の少女”。
(【片腕…】)
.To be continued