29:忘れるわけねえだろ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
勝又はその様子を、部屋の窓から窺っていた。
立ち去る由良は勝又の視線に気づかなったようだ。
(由良君か……)
窓に背を向け、眼鏡を拭く。
(彼も生きていたとは驚いた。由良君と北条君(2人)に、私はすっかり嫌われたようだがね…)
そこへ、部屋の扉が開き、御霊がすたすたと入ってきた。
「ねえ勝又、私の“心臓”はまだ―――?」
怒鳴ることなく、子どもらしく甘えた声を出し、勝又に近付く。
勝又は苦い表情で眼鏡をかけ直した。
「御霊、それはまだ……」
ドスッ
「……!?」
至近距離に立つ御霊が、勝又の胸を素手で突き刺した。
弄ぶように、体内で手を動かす。
「なあ勝又」
先程の甘えた声とは違い、低い声で御霊は言う。
「私の“心臓”は、まだか? 早く欲しいんだが」
嘲笑うような、不気味な笑みを浮かべる。
「おまえのこの“心臓の欠片”は預けてあるだけだ。“心臓”回収にあてるためにな。おまえの自由は私から与えられたもの。今“欠片”を取っても、いいんだぞ?」
勝又は自身の胸に刺さる御霊の手首をつかみ、窓にもたれ、足が崩れるを耐えた。
「この状態で治癒能力を失ったら、どうなるかなぁ?」
御霊の冷徹な目は続いている。
“心臓の欠片”を失えば、ただの人間に戻り、出血多量で死ぬことになるだろう。
勝又の胸から、血が床にボタボタと落ちた。
「“心臓”は…、人の手から離すために、海に、沈めました…」
灼熱の激痛に耐えながら、言葉を継ぐ。
「御霊…、あなたにはまだ、時間が必要なのです……」
「そう言われて待たされてる間に、見ろ」
針で縫った、御霊の腹の傷口から新たな血が流れ始めた。
「成長に追いつかず、体が裂けてきた。“心臓”が先か…、腐って蛆(むし)にたかられるのが先か…。もし、間に合わなかったら、おまえか天草の“欠片”を取り上げるからな」
冷たく言い放つと、胸から乱暴に手を引っこ抜く。
「っ……」
御霊が部屋から出て行くと、勝又は窓際に崩れるように座り込んだ。
「……………」
傍にあったカーテンをつかみ、留め具から無理矢理引き剥がし、自分の胸の止血にあてる。
自身の心臓の鼓動が、うるさいほど聞こえた。
「ぐっ…、はあ、はあ…」
ふと、レンと由良の言葉を思い出す。
『どうせまた新しい仲間を道具みたいに使うんだろ!? それしかできねーもんな!』
『抗うこともできやしねえだろが』
ぐうの音も出ないほどの現状だ。
天井を見上げ、失笑した。
(……北条君も由良君も、痛いところを突くね。そんなことはわかってる…。わかってるが)
「ゴホッ」
(それでも私は―――、やらなければならないんだ…)
.