29:忘れるわけねえだろ
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バイトを終えた恵は私服に着替え、由良と一緒に店を出た。
「家帰ったら、まず、お風呂入ってくださいね」
由良の左袖を持ち、「スッパイです」と背中のゴミを叩いて払った。
「それから、鍵欲しかったら言ってください。あと靴! 靴買いましょう!」
そう言ったが、由良にケーキを奢ったせいもあり、由良に背を向け、ガマ口の財布を開けて金銭の心配をしている。
その後ろで、由良は期待と関心の目で恵を見つめた。
(これは正式なおさそいか?)
目を輝かせながら、ツナギのチャックを下ろす。
(監禁されてた時と大違いだな。意外に勝気な娘かも)
屋敷では怯えている姿しか見たことがないため、内心驚いていた。
「……………」
チャックを戻し、指をアゴに当てて恵を上下に窺う。
「一度、あんたを描いてもいいか?」
「は?」
唐突に言われ、恵が振り返る。
由良は躊躇いもなく尋ねた。
「脱げる?」
途端に、顔が赤くなった恵は顔をしかめ、由良を睨みつける。
「なっ、なにを…。あなたバカですか!?」
怒鳴ったあと、しかめっ面のまま、先に歩き出した。
その反応を面白がりながら、由良は恵についていく。
恵に案内され、大通りを外れて路地に入り、曲がって別の路地に出てきたところで目的地が見えてきた。恵が指をさす。
マンションの玄関の前に、バイクと一緒に、2m以上は優に超えているだろう巨漢の外国人がいた。
日本で買ったのか、日の丸のバンダナを頭に巻いてる。
「メグミ―――!」
巨漢の外国人は恵に気付き、手を振った。
恵も手を振り返しながら、巨漢の外国人に駆け寄る。
「おかえり、ミッキ―――!」
「サムライもニンジャもいなかったで―――」
「日本語、うまくなったね」
巨漢の外国人―――ミケーレ(ミッキー)は下手な日本語で日本のことを話した。日本へ出向く前より上達している。
その光景を眺める由良は「ヤロウも一緒かよ」と露骨に残念そうに肩を落とす。
「それで、太輔には会えた!?」
「もらった旅費(おかね)は無駄におわったヨ。多分、残念」
肩を竦めるミケーレに、恵が不安な表情を浮かべた。
「え、なに…?」
「タイスケわ! イナカで女と暮らしてた―――!!」
ミケーレは唾を飛ばしながら声を張り上げ、恵にきっぱりと報告する。
懐かしい名前を聞き、由良は驚いた顔をした。
(タイスケ? ―――へえ! まさか能力者(仲間)が生き残って……)
「お?」
その時、恵の表情に気付く。
「……え?」
恵は口をポカンと開き、唖然としていた。
ミケーレは状況を思い出しながら説明する。
「長ェ髪のコと一緒デナ―――。名前は~…、タシカ―――……」
記憶をたどった挙句、
「イノキナミ?」
「強そう!」
恵は信じて真っ青になる。
ふと、思い当たる人物を思い浮かべた。
(長い髪の…。あのコかな?)
2年前、湖で太輔と別れたとき、自分の手を引っ張って走った奈美を思い出した。
「……別に~。私は太輔が元気でいれば、なにも言うことないし……」
恵は残念そうにうつむき、口を尖らせながら、自分の髪の毛先をいじる。
そこへ由良が恵の背後に近づき、再びイジワルそうな笑みを浮かべて声をかけた。
「ウッソツキ―――」
恵は何も言わず怒った様子で、先に家の中に入っていく。
「ありゃ」とその背中を見送る由良。
ミケーレはハラハラした顔をしながら、由良に近付き、窘めようとした。
「オマエ、メグミ怒らすとミタマより怖エってのに~。……あれ?」
「!」
目を合わせる由良とミケーレは、互いの能力者の反応に気付いた。
「オマエ、能力者(仲間)か…?」
同時に、由良はミケーレにギュッと抱きしめられる。
「【スバラシイ!】」
「う!?」
突然の行為に、抵抗できなかった。
ミケーレは由良を放すと、GAHAHAHAと大口で笑いながら興奮気味に由良の背中を大きな手のひらで力強く叩き始める。
「生き残りは少ない聞いてる。会えて嬉しい、兄弟!!」
鼓膜が悲鳴を上げるほどの声量だ。思わず耳を塞ぐ由良。
解放されたあとは、噎せて唸りながらミケーレを睨みつけた。
「げほ、ごほっ…………」
「そうか! ココに来たってことは…、勝又さんに呼ばれたのか!?」
その名前に、大きく目を見開いた。
「勝……」
瞬間、由良の目が険しくなる。
その時、上から刺すような視線に気付き、はっと見上げた。
不気味な笑みを浮かべた子どもがこちらを見下ろしている。
だが、その姿はすぐに消えた。
「勝又さんに、会いにキタロ?」
「……………」
ミケーレに尋ねられ、由良は無意識に左二の腕部分に手を添えた。
その先は空虚だ。左袖に付けた星形の缶バッジが切なく揺れる。
「……冗談じゃねえ」
唸るように漏れた。湧き上がる怒りに声が震える。
「奴に使われて、裏切られたんだぜ、オレ達は…!」
うつむき、触れた二の腕を強く握りしめた。あの時の痛みは忘れるはずもない。
由良の言葉には憎しみが込められ、ミケーレに顔を上げ、険しい表情で吐き捨てた。
「レン(アイツ)だって…!」
そこでミケーレに怒りをぶつけても無駄だと思い、言葉を切り、再びうつむいて奥歯を噛みしめる。
(そう思うほど、奴を気に入ってたオレにも腹が立つ…!)
再度、顔を上げて感情のままに捲し立てた。
「ジジイに言っとけ! 今度はなに企ててんのか知らねーが、パシられてんのはテメーだ! 抗うこともできやしねえだろがってな!」
それだけ吐き捨てたあと、踵を返してその場を去った。
「お…、おーい…?」
状況が把握できないミケーレが心配そうにその背中に呼びかけるが、由良は足を止めない。
由良は、屋上に見えた、子どものことを思い出した。
一目見ただけで、何者かわかってしまった。
すぐにその場を去ったのは、勝又よりもその存在の恐ろしさが大きい。
(あれが勝又の言ってた、“あの方”。オレ達(能力者)の主だ。血と腐臭をたれ流し、“心臓”を欲しがる ただの死肉…! 穢れたものを見た。吐き気がする!)
「ベッ」と唾を吐き、路地から出て行こうとする。
「【んあ?】」
曲がり角を曲がろうとしたとき、牛乳瓶を片手に中身を飲みながら歩くジャスパーと擦れ違った。
ジャスパーは思わず立ち止まって由良に振り返る。
仲間の反応は確かにあったはずなのに、由良はこちらに振り向こうともしない。
片眉を吊り上げるジャスパーに、
「【あ、ジャスパー!】」
背後でミケーレが声をかけた。
ジャスパーはミケーレに足を向けて駆け寄る。
「【よー。や~っと帰ってきたか。さっきの奴、仲間じゃねーの?】」
「【それがよー。勝又さんの名前出した途端、急に怒って行っちまって…。裏切られたーとか、パシられてんのはテメーだーとか…】」
「【……ふーん…。最近…どっかで聞いた話だな…】」
「【へ?】」
「【オレ達のセンパイかもよ、ミッキー】」
牛乳瓶のミルクを飲み切り、手の甲で口元を拭った。
その視線は、由良が去った方向を見据え、口角を上げる。
「【裏切られただけで…、脆いよなあ。あのセンパイも、レンセンパイもさぁ…】」
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