29:忘れるわけねえだろ
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急に当てがなくなった由良は、腹の虫を鳴らしながら、フラフラと街を歩いていた。
(まったく、ツイてねー…。“心臓”を追って、ヨコスカに辿り着いたまではよかったんだがなぁ…)
由良の腹は、空腹でうるさいほど鳴り響いている。
文無しになってしまい、店の裏に設置されてある、業務用の大型ゴミ箱を漁り始める。
見かける通行人は、物珍しそうな目で見たあと、関わらないようにと通過していく。
そんなことにかまわず、由良はゴミ箱の中に上半身を突っ込んだ。
(ったくよ~。まさか船が事故るとはなぁ~~~)
中を漁るが、どれも腐った物ばかりだ。
最後には、かき混ぜるように探し始める。
(事故っつっても、あの穴はヒロセの能力(ちから)だ)
記事に載っていた、穴の空いた空母を思い出した。
(“心臓”は、ヒロセと共にあり…、か。むやみに近づくのは危ねえ。危ねえが…、ひと目、また“心臓(アレ)”に会えたら……)
その時、ゴミ箱が由良の重さでバランスがとれなくなり、傾いた。
ゴミ箱の底には、車輪がついていたからだ。
足が浮き、空を掻く。
「あ、ヤベ…ッ」
傾いていることに気づいたが、遅かった。
ガシャアンッ
見事に、大きな音を立て、ゴミ箱と一緒に倒れた。
中身のゴミが散乱し、由良は傍で仰向けに倒れている。
倒れた音を聞いたのか、店裏の扉の向こうから声が聞こえた。
「【また犬か?】」
「【おい、誰か追っぱらえ!】」
(厄日だな)
次々と起きる災難に、呆れてそう思った。
そんな由良の顔の横を、ゴキブリが通り過ぎる。
そして、扉の向こうからこちらに向かって、騒がしい足音を立てながら、店のスタッフが近づいてくるのがわかった。
「こら犬ぅ―――!」
女の店員が日本語を叫びながら、勢いよく扉を開け、モップを構えた。
由良は頭にバナナの皮をのせたまま上半身を起こし、ため息をつく。
「わあ、人!?」
全体が目に入った女の店員は驚く。
由良は女の店員を見上げた。
「……あれ?」
見覚えのある顔に、目を見開く。
「恵(メグ)姫?」
モップを持って店裏の扉から飛び出してきたのは、店員の服を着た、恵だった。
*****
「助かったぜ、姫~!」
恵がバイトしているカフェで、由良の目の前のテーブルには、店のケーキがあるだけ並べられていた。
恵の奢りだ。
恵はトレーを抱えたまま、由良の傍に立ち、困った顔をする。
「あ、あの、由良さん、その「姫」っていうの、やめてもらえます?」
「あ―――、はいはい、仰せのままに♪ で、メグミは、なんでこんなトコに? 留学?」
「はあ…、まあ、そんなとこです」
恵はジロジロと由良を見つめながら、曖昧に答えた。
由良は手掴みでケーキを口に入れ、もごもごと頬張りながら言う。
「ふうん…。広瀬と勝又(あいつら)からは解放されたってわけか…、ってなんスか?」
そこで、怪訝にこちらを見つめる恵の視線に気付いた。
「思ってたより、怖い人じゃないのかなあって…???」
犯罪者のような顔をしている人物が、今、目の前で子どものように美味しそうにケーキを頬張っている姿に、どうしても「怖い」という感情が浮かんでこない。そもそも由良には危害を加えられたこともないのだ。
「おまえからすりゃ、おまえを監禁してたのはオレ達ってことになるもんなぁ」
「お兄ちゃんは怖くないヨ~~~」と由良は意地の悪そうな笑みを浮かべる。
監禁していたのは、あくまで広瀬と勝又だ。
由良自身は監禁していたつもりはない。脱走の手伝いをしていたレンのことも広瀬に告げ口することなく成り行きを見守っていた側だ。
「じゃあ、あのお屋敷のみんなはどうしてます? みんなもここに?」
何気なく言った恵の質問に、一瞬黙ったが、由良は答えた。
「……ああ、あいつらなら、みんな死んだぜ」
「!?」
「カンタンなもんだ」
驚く恵をよそに、由良は遠くを見つめるような目で、口元についたチョコレートのクリームを親指で拭って口に運んだ。
「……レンさんは…?」
「…あー…。レンの奴、よくメグミんとこに顔出してたな」
無意識に、左袖につけた星形の缶バッジを指先でいじる。
それは恵の目にも留まった。かつてレンの帽子に付けられていたものだと思い出す。
「……あいつは…どうだろうな…。わかんねーけど…、預かってるモンもあるし……」
(そりゃあ…、生きてるなら……)
未だに、レンが死ぬことが想像できないまま、2年が経過した。
最後に何を伝えたかったのかも、わからない。
由良の中で、レンの生死は曖昧なままだ。
ガシガシとフォークでケーキを突き出す由良に、見兼ねた恵は「そうだ」と思いついたように声を出し、由良は恵の顔を見上げる。
「ウチ来ます?」
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