05:死ぬべきだった…
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屋敷を訪れて3日目の夕方、屋敷の庭で、レンはスタンガンを手に持ち、手首に当てていた。
息を吸い、ゆっくりと吐いたあと、スタンガンのスイッチを入れる。
バチバチッバチッ!
思わず手放してしまいそうなほど激しい電気が走る音が鳴る。
普通の人間ならば痺れて痙攣しているところだろうが、レンに痛みはなく、ほどよい熱を感じるだけで済んでいた。
あっという間にスタンガンの全ての電流を自分の体に流し入れる。
使い切ったスタンガンは後ろに放り投げ、左手のひらを見つめた。
「………」
能力発動のトリガーは未だに感覚に反応している。すぐに思い通りに使いこなせるわけではない。
考えたくはなかったが、兄の水樹が殺された時の状況を反芻してみる。
あの時湧き上がった怒り、憎しみ、悲しみ、後悔、殺意、マイナスの感情のどれかに反応したのではないかと考えた。
銀夜の顔を思い浮かべてみる。人間をオモチャのように壊して楽しそうに笑みを浮かべる、あの表情を。
瞬間、強烈な怒りによって目の前が真っ赤になり、レンの体から溜めた電気が決壊する川水のように漏電した。
(……感情で勝手に発動したりするのか…)
明らかにデメリットだ。
自身のメンタルをそぎ落とすやり方であり、必要以上に漏電すると吸収した電気をすべて使い切ってしまう。
蛇口をひねるように自由に出せるまで少し時間がかかるかもしれない、と考えながら、レンは能力の放出を確認したあと、左手のひらを見つめながらもう一度集中力を高め、頭の中で溜めた電気が左手に集まるのを想像する。
「…っ」
集中力を保つことは体力を消耗する。額に浮かんだ汗が頬を伝い落ちた。
呼吸は止めずに深く吸い、ゆっくりと吐き出す。これは喧嘩の際も使用したやり方だ。
(よし…。昨日よりも深く集中できる…)
能力者として導かれ、その力を必要とされているのならば、すぐにでも使えるようにならなければこちらに来た意味がない、と昨日から能力発動の練習を行っていたのだ。
休憩と練習を繰り返し、レンの足元にはいくつもの使用済みのスタンガンが転がっていた。
パチ、パチ、と小さな電流が5本の指先で線香花火のように弾けだし、レンは息をゆっくりと吐き出しながら指をわずかに折る。
すると、手のひらから漏電する電流はひとつに集まり、やがてそれは青白く光るソフトボールサイズの球体となった。
「………できた」
(これが…あたしの“能力(ちから)”……)
消滅する前に、試しに出来上がった球体を近くの木に向けてボールを投げるように放った。
球体が当たったその木は破裂音が鳴ったあと小さな火を灯す。
「おお!」
思わず声を上げたが、
「まずい! 火事! 火事になる!」
慌てて庭に転がっていたバケツを拾って庭の水道で水を汲み、燃え広がろうとした木にかけた。
間もなく、火は簡単に鎮火する。
レンがホッと胸を撫で下ろすと、唐突に背後から笑い声が聞こえた。
「はははっ、そーゆーのは準備してからやらねえと…」
後ろから、由良が大口で笑いながらやってきた。
「うっせー。ずっと見てたのかよ?」
レンがバケツを足元に転がして口を尖らせながら尋ねると、由良は「うん」と頷く。
“仲間”の気配を察知しづらい距離で見ていたのだろう。
「おまえの能力(ちから)は“電球”か!♪」
「やめろそのネーミング。…もうちょっといい名前ないか考えたけど、とりあえず、さっきのは“プラズマ”って呼ぶことにする」
「……“プラズマ”がどんなのか知ってんのか?」
嫌な質問だったのか、直後に「うっ」と唸った。
「か、形ぐらいは…。物理…だっけ? そんなのでやった覚えはある…」
レンは体育などの実技は得意だが、机に向かう勉強は苦手だ。
物理であっているかさえレンにはわからない。
「他にもできるのか?」
「……んー…。大量の電気で充電したら、けっこう威力はある」
もう一度、手のひらにプラズマを作ってみると、集中力が低下したせいでピンポン球サイズが生まれる。
「プラズマだったら、電気の加減で殺傷能力が変わる。これくらいなら、スタンガン1スイッチ程度。人間1人痺れさせる程度かもしれねえ」
そう言って、作り出したばかりのプラズマを分散させて消した。
「成長してんじゃねーか。兄ちゃんは嬉しい!」
前のめりでじっとプラズマを見ていた由良は、バンバンとレンの背中を叩いた。
レンは痛みで顔をしかめ、「誰が兄ちゃんだ!」と言い放って距離をとる。
まるで夫婦漫才のように一日も欠かさず2人はこのやりとりを繰り広げていた。
「レンの能力(ちから)が“電流”とわかったところで、んじゃ」
レンの能力の向上を見届けた由良はレンに背中を向け、手を振りながら屋敷の外へ出ようとした。
しつこく絡んでくるだろうと構えていたレンは「え」と怪訝な表情を浮かべる。
「おい、どこ行くんだ」
「おでかけ~。ついてくるか?」
「またなんの情報も言わねえなぁテメーは…。あたしは忙しいからひとりで勝手に行ってろ」
虫でも払うようにしっしっと冷たく言い返し、感覚を忘れてしまう前にもう一度プラズマを作ろうと集中した。
「冷めてんなぁ、ホント」と肩をすくめる由良に、レンは由良の方に向かず、淡々と言い返す。
「言っとくけど、あたしをここに連れてきたからって、調子に乗るなよ。あたしはただ、あの世界から抜け出る機会がほしかっただけだ」
「あー、そ。次はもうちょっと素直な“仲間”連れてこよーっと」
その言葉を背中で受け、レンの膨らんだプラズマが弾け散った。
無意識の動揺を見られたと思って振り返ったが、由良の姿はすでにない。
「………」
庭にひとり残されたレンは、じっと作り出したプラズマの集中を続ける。
(あの時は、あいつしかいなかったから、仕方なくついてっただけだ。ああいうお調子者は、苦手だし、調子狂うし……嫌いだ。嫌いすぎ)
自身に言い聞かせるように内心で毒づくが、手のひらのプラズマは大きくなったり小さくなったり思い通りに安定しない。
何十分か粘ったが、これ以上は集中できない精神状態に白旗の舌打ちが出た。
しばらく考えたあと、練習を止めて屋敷の中に駆け込んだ。
(あ゛―――ッも゛―――ッ!! あたしはあたしが一番嫌いっ!)
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