27:忘れられてもいい
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辺りがゆっくりとオレンジ色に染まり始めた頃だ。
殺気立つレンと天草の気配に、危機感を覚えたカラスの群れが一斉に飛び立った。
臨戦態勢のレンに、天草は腰に差した鞘から小太刀を抜いて構える。
「日本に残って正解だ…。やはり、貴様はここで消しておくべき存在のようだな」
「いきなりお別れはないだろ。焦るなよ…。久々の再会を噛みしめさせてくれ」
挑発的に笑うレン。表情とは裏腹に感情が高ぶり、身体から電流が漏電していた。
天草は先程のレンを動きを見て、2年前より手強くなっていることを悟る。
「勝負…!」
天草が突進してきた。
あっという間にレンの懐に潜り込む。
袈裟に振り上げられる小太刀の切っ先が、咄嗟に頭を傾けたレンの右頬を掠めた。
レンは眉一つ動かさず、接近した天草の顔面に左手を伸ばし、手のひらに野球ボールサイズのプラズマを発現させる。
「!」
天草は反射的に後ろに飛び退いた。
焦げ臭い匂いが鼻をつく。前髪が一束ほど、わずかに焦げたからだ。
「一応当たるんだな。最近、人間相手に苦戦して自信失くしてたんだ…」
手の甲で右頬から伝う血を拭うレンは、そう言いながら薄く笑った。
「……………」
天草は冷静な面持ちでレンを見据え、力量を測る。
(能力(ちから)の発動が、格段に上がっているな…。のんびり過ごしていたわけではなさそうだ…)
レンから馬鹿にできない執念を感じた。
レンは「ふぅ」と一息つき、自身の目前で両手のコブシを構え、天草が小太刀を振り上げる前に一気に距離を詰める。
「!」
最初にジャブ、フック、ストレートと天草の顔面目掛けパンチを繰り出した。
素早い動きに舌を打ちながらも、天草は目で追って上半身を反らしながら紙一重でかわし続ける。
(当てさせてやろう…!)
口角を上げ、わざと顔に当てるように誘い、動きを止めた。
しかし、レンの左コブシは天草の鼻先で制止する。
「え…」
ドゴッ
フェイントと理解する瞬間、レンの振り上げた左足が天草の腹に決まった。
「ぐ…ッ!」
天草は咄嗟に後ろに跳んで衝撃を殺すが、レンの足先が思った以上にめり込んだ。
「同じ手は食うかよ…」
レンは2年前、天草の誘い込みで左コブシを破壊されているのだ。
同じ誘いには乗らない。
「テメーの力について、あたしなりに考えてたんだ…。たぶん…、テメーの能力(ちから)は、身体の一部を岩みたいに“硬化”させる…。違うか?」
それを聞いて、天草は蹴られた腹を左腕で抱えながら肩を震わせて笑った。
「…くくく…。私から味わった苦汁は、そんなに苦かったか…! ただの野蛮な女かと思えば、学習している…!」
久々に味わう痛覚に、胸が弾んだ。
「その意気やよし。ギアを上げてやろう」
上から目線の言い方にレンは苛ついたが、すぐ目の前に天草が迫ってきたため応戦する。
振り続ける刀身を目で追いながらかわし続け、隙を窺った。
ガッ!
「っ…がは…!」
刀身に目を奪われたせいで、死角を狙った天草の打撃には備えられなかった。
左脇腹に、天草の硬化した右コブシが打ち込まれた。
内臓がダメージを受け、強烈な衝撃と共にせり上がった血を吐き出す。
よろめく余裕もなく、天草が左手に持ち替えた小太刀を突き出した。
レンは右腕を出し、あえて前腕を貫かせる。
「っ!」
バチッ!
奥歯を噛みしめて痛みに耐え、刀身が引き抜かれる前に放電した。
「く…!」
天草は目前の電流と電熱に耐えきれず、柄から手を放し、左手のグローブが溶けたことで素早く脱ぎ捨てる。
だが、その際、すぐさま左足を振り上げて足裏で柄の底を蹴った。
「い゛…っ!」
前腕に突き刺さったままの刀身の切っ先は、蹴られた勢いでレンの右肩に突き刺さる。
レンは左手で柄をつかんで勢いよく引き抜いた。
天草が右手を伸ばしたところで、レンは右足で地面を蹴る。
飛ばしたのは、土だ。
乾いた土はもろに天草の顔にかかり、天草が「う」と呻いて右目を瞑った瞬間、レンは死角となった右目側から回し蹴りを食らわせた。
アゴを蹴り飛ばされ、天草の脳は揺れたが、続いて奪った刀を振り上げたレンの姿を視界に捉え、黒曜石のように変色させた左腕を振り上げる。
パキンッ!
首目掛けて振り下ろされた刀身は、持ち主の左腕によって呆気なく砕けた。
レンと天草は同時に飛びのき、一度距離をとる。
折れた刀を後ろに投げ捨てるレンは血液交じりの唾を地面に吐き捨て、天草は痛む首を鳴らして相手の出方を窺った。
睨み合い、どちらも視線を外さない。
その間、「暑…」とこぼし、レンはレザージャケットを足下に脱ぎ捨て、半袖シャツになる。
先に口角を上げたのは、天草の方だ。
「呆れたものだな。2年もあって…、まだ己の“能力(ちから)”を自覚していないのか」
「……?」
「だから貴様は誰も守れず、見殺しにしたのだ」
カッと一気にレンの頭に血が昇り、身体から激しく電流が漏電し、周囲を青白く照らす。
「……死に急いでるみたいだな…」
眉を顰めながら、レンは口角を上げて唸り声を出した。
「テメーが死んだら、勝又は悲しむかな…。……悲しむわけないよなあ? 死ぬのがわかってて、あたしらのこと、利用したんだもんなあ!?」
仲間の死に様を思い出すに伴い、レンの周りに火花が弾ける。
「貴様はやはり勝又様のことをなにもわかっていない…。私のことも…。私の存在は、必要とされてこそ価値を見出せる…。それが、たとえ最期に死ぬとわかっていても…。だから…、勝又様は私に大役を任せてくださったのだ…」
恍惚気な天草に、レンは「はあ?」と不快さを顔に出した。
「貴様は一生理解できないだろう。…なにも理解できず死んでいった、愚かな仲間達と同じように」
挑発とわかっていても、限界だった。
「勝又のジジイにお熱なのだけはわかったよ…。―――精々、妻子持ちジジイに色目使って構ってもらえよ、枯れ専不倫女」
最後に「オエッ」と舌を出して付け加えたその言葉に対し、表情が消えた天草の顔に、ブチッ、と青筋が浮かび上がる。怒りのあまり、見開かれた目は血走り、唇は震えていた。
下品な挑発に慣れていない天草の様子に、レンは内心でほくそ笑む。「ムカついてるのはお互いさまだ」と。
レンと天草が動いたのは、ほぼ同時だ。
一瞬で互いの距離を詰める。
天草の硬化させた左コブシがレンの顔面を狙った。
レンは歯を食いしばって負傷した右腕でそれを下から跳ね上げ、左手で拾った、先程脱ぎ捨てたはずのレザージャケットを天草の顔に投げつける。
「!?」
ジャケットが天草に頭部を覆った瞬間、素早く天草の後ろに回り込んだレンは、両腕の袖同士を縛って天草の視界を完全に奪った。
「むぐ…っ!」
「安物だけど、けっこう気に入ってたんだぜ、このジャケット」
ボッ!
電流を流し、ジャケットに火を点けた。
「うああ!!」
堪らず悲鳴を上げる天草。
すぐに取り去ったが、着ているシャツにも引火し、地面を転がった。
隙だらけだ。逃すレンではない。
左手にプラズマを固め、天草にぶつけようと振り被った。
「!」
その間に割り込むように、レンガが投げつけられた。
反射的に下がるレン。
そこで気付いた、仲間の反応。
「【おっかない女】」
「!?」
男の声に、レンの動きが止まる。
「【迎えに来たぜ、アキセンパーイ♪】」
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