25:返せ!
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太輔によってコンテナが開けっ放しとなり、レン、奈美、伶にも脱出の機が訪れる。幸い、他の兵士達がこちらに駆けつけてくる気配はない。
「太輔の奴、行く前にオレ達のも解いてから行けってんだ!」
伶が怒りを込めてぼやいた時、火花が散る音が聞こえたかと思えば、伶の傍に焼き切れた結束バンドが投げられた。
レンに振り向くと、今まさに足首の結束バンドを電熱で溶かして焼き切っているレンの姿が目に入る。
「レン! こっちも頼む!」
「ちょっと待って」
伶はレンに背中を向け、結束バンドがレンから見えるようにした。
レンは電流の強弱に気を付けながら伶と奈美の結束バンドを外す。
ドンッ!!
その時、少し離れた場所で大きな爆発音が聞こえ、辺りが騒然となる。
「なんだ!?」
先に自由になった伶が先にコンテナから外を窺った。
“アクロの心臓”を載せたコンテナが爆発したのだ。
トラックは横転し、爆発した衝撃で剥き出しになったコンテナから、“アクロの心臓”である大岩が晒されている。
奈美の足首の結束バンドを焼き切っていたレンは、並々ならぬ波動にあてられ、勢いよく振り返った。
この感覚を、一度たりとも忘れたことはない。
自身の心臓が、殴られたように跳ねる。
「“心臓”…!」
レンは急いで伶と奈美と共にコンテナから脱出し、騒ぎのもとへと駆けつけた。
周辺は大惨事となっていた。
たくさんの兵士の死体が地面に転がっている。
体中の穴から見て、広瀬の能力だとすぐにわかった。
そこから少し進むと、太輔と葵とD4の姿が見えた。
「あのコ、なんでここに…!」
レンが葵がいることに驚いていると、レンと肩を並べて一緒に走っていた奈美が太輔達のところへと駆け出す。
レンが少し遅れて向かっていると、葵がスピードの能力を発動させ、D4の銃を取り上げたのが見える。
D4の背後に奈美が近付いた。
「ぜっ、はっ」
苦しそうに呼吸をしながら、奈美はコブシを構える。
D4は振り返ると同時に、ホルスターから素早く拳銃を取り出した。
今度は実弾だ。
スライドを引き、引き金を引いた。
それと同時に、奈美もコブシを振る。
パァンッ
銃声とともに、D4の右頬に、赤い一筋の線ができた。
「はぁ、はぁ。……真剣勝負に手を抜いて…、悪かった」
奈美は首を傾けて銃口から避けていた。
「次は、全力でいく…!」
口から伝う血を拭った奈美の手の甲には、氷の爪が作り出されていた。
素手で間合いを取れない分、コブシを振ったと同時に氷の爪を作り出し、D4の頬に一筋の傷をつけたのだ。
D4は呆然としたまま、拳銃を構えない。
ドンッ!
「!」
とんでもないモーター音が近づき、そのモーター音を発していた車が、消火栓に激突して停まった。
レン達が乗ってきた、FJクルーザーだ。車はフロントが少し凹んだだけで済んだ。
「みんな、早く乗って!」
その車の助手席の窓から、勇太が顔を出してレン達に叫んだ。
運転席には、純が血色悪く呼吸しながら、ハンドルを握っている。運転にはまったく慣れていない様子だ。
「ユータ!?」
太輔の腕を、追いついてきた伶が引っ張り上げる。
「助かったぜ、純…!」
その後ろについていたレンは、剥き出しとなったトラックの荷台に積まれた“心臓”に目をやった。
(…!!)
伶はそんなレンの様子に気付かず、急いで車のバックドアを開け、先に太輔を乗せようとした。
葵と勇太も車から太輔の腕を引っ張るなどをして手を貸す。
「なんで葵がいんだよ!?」と勇太。
「家(うち)から走ってきた!」と葵。
伶はそんな2人に構わず、次に奈美を乗せようと後ろを振り返る。
その時、レンがよろめきながら、“アクロの心臓”を目指して歩んでいるのを見つけた。
「レン、なにやってんだ!? 」
伶は走り寄り、レンの腕を引っ張ろうとつかむが、バチンッと強めの静電気が流れて弾かれる。
「……痛っ!?」
まるで手のひらを鞭で打たれた感覚だ。
レンは振り向かず、それどころか伶に気付かないまま、ふらふらと“アクロの心臓”である大岩へと向かう。
「レン!」
「レン姉ちゃん!」
太輔と勇太が車から叫んだ。
レンの耳には、水底から聞こえるようなくぐもった声にしか聞こえない。
(すぐそこにあるんだ…。“アクロの心臓”…!)
口元が狂喜に歪んだ。目は正気を失っている。
森尾と華音と水樹がすぐそこにいるようだった。
(広瀬…、もう充分堪能しただろ? 遊んだだろ? ―――だから、もう…返してくれよ…。なあ…、返せよ。返せ!)
“アクロの心臓”に左手を伸ばす。
(テメーが、勝又が、“心臓”が奪ったもの、全部…!!)
目の前に映るのは、由良のアトリエ。
大きなシャボン玉越しに見える、絵と向き合う由良の背中。
「アレは、あたしの…!」
ドッ
「!?」
“アクロの心臓”の大岩に手を触れようとした瞬間、みぞおちに鈍い衝撃が打ち込まれ、倒れる寸前、その顔を見た。
「奈…美……」
「すまない…」
レンのみぞおちにコブシを腹に打ち込んだ状態で、奈美はレンに小さく言った。
倒れる前に、奈美の腕に支えられる。
「でかした、奈美!」
駆けつけた伶はレンと奈美を支え、車に乗り込んだ。
「純、出せ!」
再び、騒音のモーター音を立てながら、バックして消火栓から離れると、そのまま正面ゲートに向かって発進する。
『レン』
薄れゆく意識の中、レンは、こちらに振り返った由良の顔と言葉を思い返した。黄金色のアトリエで、部屋の物をすべて壊していた由良のシャボン玉に触れようとして、止められたのだ。
『ケガすんぞ』
「それでも…あたしは……」
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