23:優しそうな人
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その夜、太輔と陽子が再会したことで太輔の記憶が無事に戻ったことを祝い、砂浜は花火の音や賑やかな声に包まれる。
「ユータ、そっち持て!」
太輔は丸太を持ち上げ、はしゃぎながら勇太を促した。
太輔達の頭上に、伶が着火した打ち上げ花火が光りながら飛んでいく。
「重てえよ―――っ」と声を上げながら、勇太は重そうに丸太を運んでいた。
太輔は自分の周りに丸太を積み重ね、組み木を作っていく。
その周りでは、奈美、杏、伶、由紀恵の子ども達が花火を楽しんでいた。
「太輔の奴、はしゃいじゃって……」
陽子は缶ビールを片手に、その様子を眺めていた。
「叶君…、無事でよかった。私てっきり、ハルちゃんみたいに……」
雨宮は缶ビールを両手に、感極まって涙を流しながらその様子を眺めている。
「もう泣かないの貧乳―――!」
同じく酔っている様子の陽子。雨宮の肩に手を置くと、悪気なく励ました。
「ひ~~~」
その言葉で、雨宮はさらに泣き始める。
「笑い上戸と泣き上戸だ…。すっかり打ち解けてんじゃん」
防波堤に座りながら、レンはその様子を眺め、呆れていた。
視線を太輔に移すと、たまたま目が合い、太輔の方から声をかける。
「レン!」
「!」
こちらに駆け寄ってきて、何を言われるのかと、レンは思わず身構えた。
近寄ってきた太輔の目は憎しみどころか親しみが込められ、空気が少し和らぐ。
レンは、それでもずっと目を合わせることはできず、視線を逸らしながらも口を開いた。
「……あたしの名前、覚えててくれたのか…」
「うん。雨宮さん達と一緒だとは思わなかった」
「………恵のことなんだけど…、その……」
申し訳なさそうな表情をしていると、太輔は「……ずっと気にしてたのか…」と目を伏せ、もう一度視線を上げて「悪いのは勝又だ」とそれだけははっきりと言った。
「雨宮さん達からさっき話聞いたし…。あ、酔う前にな。……レンだって、色々あったんだよな? ユータとナミも、悪いと思ってないって!」
「けど……」
「レンも花火、やる?」
差し出される1本の花火。
思い起こされるのは、屋敷の思い出。すべてを奪われる前夜。
「……………」
レンは花火の先端に人差し指を向け、バチッ、と軽く放電する。
「!?」
突然、シュワシュワとオレンジ色の火花を散らす花火に驚く太輔。
レンは、「ライター代わりなら」と小さく笑った。
レンと太輔は肩を並べ、花火に熱中している勇太達の元へと歩む。
由紀恵の子ども達はレンの元へと駆け寄り、「花火を点けて」と強請った。
レンも「はいはい」と屈み、順番に放電して火を点けていく。
それでも、レンは花火を受け取ろうとはしない。
「じゃあ、シメはキャンプ―――…」
キャンプファイヤー用の組み木を内側から完成させた太輔は、組み木に手を触れて能力を発動させて火をつけようとした。
「待て、それだと……」
勇太は止めようとしたが、遅かった。
「ファイヤー!!」
太輔が火をつけると、組み木に囲まれていた自分自身も巻き添えに炎上してしまう。
「ぎゃ―――!?」と太輔は叫び声を上げ、「きゃ―――っ」と子ども達も大慌てだ。
「ばかやろう―――」
勇太と奈美は呆れていた。
「あはははは」
陽子は雨宮の背中を叩きながら、小田と共に大笑いをしている。
「太輔、能力(ちから)も記憶も戻ってよかったわね」
「……………」
「あらあらまたコゲちゃって」と微笑ましく笑っている由紀恵に、純は何もツッコまなかった。
「悲惨だ…」
手のつけようのない状況に、レンはどうしようもない思いで呟いた。
少し離れた場所で砂山を作る葵だけは、面白くなさそうに顔をしかめている。
*****
太輔が陽子をトレーラーハウスまで運んでいくのを見たあと、レンは砂浜に座り、ポケットの中に入れたものを出そうか出すまいかといじった。
しばらく、太輔が火をつけたキャンプファイヤーを眺めていると、防波堤の向こうから何かが見えた。
太輔と、その頭上に不吉なものが飛んでる。
(あ…、悪魔!?)
よく見れば勇太だ。
悪魔化してる勇太から逃げようとする太輔は、防波堤から飛び降りようとした。
「あら~~~」
完全に酔っ払っている雨宮が缶ビールを片手に持ちながら、ヘラヘラした顔で太輔を見上げ、「カレー君らー、飲むぅ~~~?」とろれつの回らない舌で声をかける。
「カノーです…。ここにも酔っ払いが…!」
「カレー君、あなら、よく生きて……。ひ~~~っ」
再び、太輔の無事に雨宮は泣き出した。
「な、なに、雨宮さん、どうしたの?」
太輔は突然泣き出した雨宮に動揺する。
すると、ほろ酔いの小田がやって来て太輔に説明した。
「ま―――、いろいろとあったんだよ。北海道以来、ずーっとキミらのこと気にかけてたから」
「ひ――――っ」
雨宮は、まだ泣いてる。
「そ、そうなんだ」と太輔は目を丸くして頭を掻いた。
「しかも、あのあと“アクロの心臓”追いかけてたら、今やこの人、軍人に追われる身さぁ~~!」
「貧乳がらによ~~~っ。うい~~~」
「小田、笑いごとじゃねえ」
雨宮のよろめく体を支えながら言った小田に対し、レンは肩を落としながらツッコんだ。
笑い事ではない物騒な言葉に太輔は驚愕する。
「軍人…!? “心臓”を追ってて? なんで、そんなことに……」
「やっと本題に入れる…。それが……」
レンが、話に食いついた太輔、勇太、奈美を見上げながら説明しようとした時だ。
「“アクロの心臓”は今、横須賀基地にあるの」
先回りされるように言われ、レンは驚いて由紀恵に振り返った。
太輔達の目が大きく見開かれる。
勇太は「………基地?」ときょとんした表情で聞き返した。
太輔の記憶が戻ったことで、ようやく由紀恵は話を切り出すことができる。
「北海道の現場から発見された“心臓”を、軍が持ち帰ったのよ。彼らの意図はわからないけど、奪還するなら“心臓”が眠ってる今しかないわ。太輔…、あなた方には“アクロの心臓”を取り戻してほしい。それが終わったら、帰っていいわよ」
由紀恵の背後にあるキャンプファイヤーの火の明かりにつられ、蛾が集まってきた。その中の一羽が由紀恵の目の前を横切る。
「そ…、そんなの無理だ!」
無謀だと思える要求に、すぐさま勇太は声を張り上げた。
「軍だろ!? 国だろ!? いくら“心臓”のためでも……」
「私も、反対です!」
勇太と奈美が血相を変え、防波堤から同時に飛び降りる。
「杏の調べだと……」
防波堤の階段に座りながら花火をしている伶は、煙草を吸いながら弾け散る火花を見つめ、警告するように言葉を継いだ。
「基地内の軍人は艦隊勤務を除いて、およそ2千人。在日海軍の指令拠点となる、重要施設だ。忍び込むにはそれなりの覚悟が、必要だ」
それを聞いた小田は酔いが覚めて真っ青な顔になり、防波堤にもたれて座っている酔い潰れた雨宮に指をさしながら反対する。
「ム、ムチャですよ。この人、殺されかけたんスよ!? 殺しのプロん所に行くなんて……」
「いいよ。オレのった!」
太輔は顔色ひとつ変えずに言った。
「!?」
太輔の即答に、話を聞いていた葵は思わず立ち上がる。
「なに言って…。おまえ、わかってんのか!?」
怒鳴る勇太に、太輔は防波堤から飛び降り、真っ直ぐな目を向けた。
「もちろん。広瀬がいる。オレが行かなきゃ」
「叶…、波動がわかるの?」
尋ねる奈美に、太輔は「ああ…」と頷く。
「これは北海道で広瀬と対峙した時と同じだ。あの時の比じゃないけど、広瀬は“心臓”といる…。…また、大ゲンカになるんだろうな…」
夜空を見上げながら呟くように言って、「次は、負けられないな」と目付きをわずかに鋭くした。
(メグも探さなきゃなんねえし…)
記憶を取り戻した今、やるべきことは山積みだ。
一度間を置いたあと、太輔は由紀恵に振り向き、由紀恵に応える。
「……ユキエさん、オレ行きます」
「……そ。助かるわ」
由紀恵は視線を合わさず静かに返した。
「「……………」」
奈美と勇太は、納得できない表情で互いの顔を見合わせる。
「だったら、早めに出発した方がいい」
黙って聞いていたレンは太輔達に歩み寄り、ポケットからボイスレコーダーを取り出した。
「レンちゃん、それ……」
小田は、初めて見る、と言った表情でレンの顔を見た。
「悪い、雨宮達にこれ以上動いてほしくなかったから黙ってた。聞くか? これ」
こうして話している間にも、キャンプファイヤーの火の明かりにつられた蛾が、何匹も火の中へと飛び込んでは燃え、地に落ちていた。
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