22:泣かせてみろよ
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レン達は訪問者に案内されるまま、目的地へと移動していた。
陽子の家を訪れたのは軍人ではなく、手塚杏(てづか あんず)と名乗る女だった。
杏は「叶太輔に会わせてあげる」と言った。
状況説明を聞く過程で、現在太輔は記憶を失っていることを知る。
レン達はその話に驚きを隠せなかったが、真っ先に「会いたい」と名乗り出たのは姉の陽子だった。
密かに軍と繋がっているかもしれない、と杏のことを警戒したレンだったが、能力者どころかコブシ一発でのしてしまえそうなほどか弱い人間だ。
目を光らせながら、杏の案内されるままについていくことに決めた。
小田が運転席、杏が助手席、雨宮と陽子は後部席に乗り、レンは小田の車で後部席に乗るには狭いため、持ち前のバイクで小田の車を後ろから追いかける。
「……………」
記憶を失っているとはいえ、レンは太輔に会うのは億劫だった。
*****
数時間後、夕方を迎え、フルフェイスヘルメットのシールド越しに、レンの目の前にはオレンジ色に染まる海が広がっていた。
そこから防波堤沿いの道を走っていくと、トレーラーハウスが見えてくる。
先の防波堤沿いの道に視線を移すと、勇太と奈美がいた。
1週間前に合流していたのは杏から予め聞かされていた。
小田の車はその付近に停める。レンもその後ろにバイクを停めた。
小田の車から杏と陽子が降りる。
「!」
足早に真っすぐにどこかへ向かう陽子を目で追うと、その先には座りながらぼんやりと救急箱を見つめている太輔がいた。
「こら、太輔!!」
太輔に接近するなり、陽子はいきなり太輔の頭を叩く。
「痛たっ」
突然陽子が現れ、勇太と奈美は驚愕していた。
「陽子さん!?」
「あ、姐さん、なんでここに!?」
陽子は太輔の胸倉を両手でつかんで強く責め立てる。
「記憶がないなんて、仮病使って!」
「!?」
太輔は何事かと驚いていた。太輔にとっては面識のないはずの女性にいきなり凄い剣幕でつかみかかられている状況だ。
陽子の勢いは止まらない。
「こんな所でなに遊んでんのよ。あんた、そんなコだった!?」
つかみかかられた勢いで太輔は尻餅をつき、太輔の座っていた椅子も大きな音を立てて倒れた。
ガクガクと手荒く揺さぶられる太輔はされるがままだ。
「留年よ、このおバカ! あんたの頭じゃ取り返すにも、何年かかると思って……っ」
「……!?」
不意に動きを止めた陽子の目には涙が浮かんでいた。
「2年間も、なんで……」
陽子の顔を凝視していた太輔の額に、陽子の零れた涙が落ちた。
この涙を、太輔は覚えている。
『たいすけは、しなないでね』
雨に打たれ、両親の遺骨の入った箱を小さな腕に抱え、大粒の涙を流しながら懇願するように言う、幼き日の姉の姿。
その過去を思い出した瞬間、太輔の脳内では、まるで、失われた記憶がビデオテープのように巻き戻され、早送りされるように蘇っていった。
陽子、恵、勇太と奈美、広瀬との記憶。
2年前のあの日、溶岩に囲まれて包まれる前に、広瀬は叫喚しながら狂ったように能力を暴走させた。
『ああああああああ!!』
次々と溶岩の壁に穴が空いていく。
太輔の背後にも大きな穴が空き、爆発と同時に、太輔はその穴から外へと吹き飛ばされた。
広瀬はそのまま溶岩に包み込まれ、吹き飛ばされた太輔は、着地できずにそのまま落下して背中を地面に強く打ち付けた。火傷を負った自分の体の周りに、血が広がっていくのを感じる。
『……………』
仰向けの状態で朦朧とした意識の中、駆け寄ってきた由紀恵の姿を見たのを最後に記憶を失ってしまったのだ。
「ねっ…、姉ちゃん!」
記憶を取り戻した太輔は、陽子を見上げて声を上げた。
「そっか、オレずっといろんなこと忘れて……」
「やっぱり仮病か!」
陽子は太輔に容赦なく頭突きをお見舞いする。
「あ!」と太輔が振り向いた先には、驚いた表情をした奈美と勇太がいた。
「 ナミとユータ! なんか2人とも、変わった―――!?」
指さして呑気なことを言う太輔に、勇太は「なんだそれ」と呆れたように漏らしたが、そんな勇太と奈美は嬉しそうな顔を浮かべる。
「まず2人に謝りなさい!」
怒った陽子が太輔を叩く。
「てっ」
「どんだけ迷惑かけたと思ってんの!(私が)」
「このバカこのバカ」と太輔を何度も叩き、太輔は「ぎゃ―――」と懐かしい仕打ちを受けて叫んだ。
「ごめん。本当(ホント)ごめん! ちゃんと謝るから…。それから…、たっ」
太輔は恥ずかしそうに言葉を溜めると、
「ただいま…!」
照れくさそうに、そして、満面の笑顔で言った。
「……………」
レンはヘルメットをはずして太輔達に視線を移し、その光景を眺めながらホッとした表情を浮かべ、目を伏せた。
ふと空を見上げると、夕闇が近付いてきているのに気付き、わずかに胸が苦しくなる。
目の前の光景にある今の太輔達は、レンにとってはただただ眩しく、羨ましかった。
.To be continued