22:泣かせてみろよ
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雨宮のマンションが放火され、小田が雨宮の私物を入れた紙袋抱えて付近の道路に戻ってきた時には、マンションはあっという間に炎上していた。
雨宮の部屋のトイレから逃げ出さなければ巻き添えになっていただろう。
野次馬達も集まってきている。
「はぁっ、ひぃ、たっ…、助かった…!」
「小田!」
背後から名前を呼ばれ、ビクリと体を震わせて振り向くと、レンが駆けつけてきた。
「レンちゃ…!」
駆け寄ってきたと同時に、レンは小田の口を片手で塞ぎ、野次馬の中に紛れ混もうと引っ張る。
「!」
レンと小田の後ろには、ニット帽を被った黒人の外国人と、フードを被ってサングラスをかけた白人の外国人がいた。会話がレンと小田の耳に入る。
「【……やりすぎじゃないのか?】」
「【徹底的にやれと言われたろ。マクファーソン軍曹の指示に従え!】」
((マクファーソン))
脳裏にマクファーソンの顔がよぎり、小田が小声でレンに言った。
「“レイン”の素性が、もうバレてる! なんで……」
「……クレイのケータイから割り出したんだ」
レンも小声で返す。
小田は、殺されたクレイの足下に落ちていた携帯電話を思い出した。クレイを使って雨宮を呼び出したのだ。連絡先は把握されている。
「そんな…!」
「ご丁寧に、さっき、あたしのとこまで挨拶に来たぜ。同居人だからってな」
「! 大変だ! 雨宮さんが危ない!!」
気付かれないようにレンと小田は駐車場へと走った。
*****
予定より早く雨宮が退院するため、レンは、病院の前で雨宮と論が出てくるのを待っていた。ヘルメットも雨宮の分は用意してある。
小田には一足先に、雨宮の勤め先の様子を確認しに行ってもらっている。
辺りに目を配り、怪しい人物がいないか捜すが、今のところ、それらしい人物はいない。
雨宮の家を放火した軍人達とレンを襲ってきた軍人達の顔は覚えていた。
見かけたら、即座に対応できる自信はある。
「レンちゃーん!」
退院手続きを終わらせた雨宮が、病院の前から声をかけた。傍には論もいる。
合流すると同時に、雨宮の携帯電話が着信音を告げた。
雨宮は通話ボタンを押して耳に当てる。
通話の相手は小田だ。レンも雨宮に近寄り耳を澄ませた。
電話の向こうから、慌てた様子で捲くし立てる。
“雨宮さん、会社に来ちゃダメですよ! 会社は放火犯の外国人、2人組に張られてます! あの、マクファーソンの部下ですよ!”
その声を聞いて、レンははっと雨宮の顔を見た。
顔から血の気が失せ、その場に崩れそうになった雨宮の体を反射的に支える。
「雨宮!」
傍で論がおろおろとする。
雨宮は通話中の携帯電話を持ったまま、押し寄せる恐怖で体を震わせていた。
「ダメ…。完全に…私の素性が……」
事態は最悪だ。相手の行動力は早く、雨宮を容赦なく追い詰める。
「と…、とにかく、小田と合流しよう」
雨宮の手から携帯電話を取り、レンは小田に落ち合う場所を伝えた。
通話も盗聴されている可能性も疑い、できるだけ短く言ったつもりだ。
「雨宮、ほら、立って…」
雨宮の腕を引っ張り、無理にでも歩かせた。論も優しく雨宮の手を取る。
レンも内心焦っていた。
警察に雨宮だけでも保護してもらえないかと考えるが、クレイとのやり取りで無意味なことは明らかだ。味方になってくれるとは到底思えなかった。
(一刻も早くここから離れないと、この病院に入院していたことがバレてる可能性は十分ある。今、やってきてもおかしくない…)
ふと、バイクのミラーに視線をやると、病院の駐車場に停められた、グレーのSUVが映っている。
運転席側の窓はわずかに開いていた。
スモークフィルムで中は見えなかったが、窓の隙間から覗いていたのは、銃口だ。
「雨宮!!」
「え…」
レンは咄嗟に、半ヘルを着用しようとしていた雨宮に飛びつき、地面を転がった。
パンッ、と銃声が鳴ったのはほぼ同時だ。
外れた銃弾はレンのバイクのミラーに当たった。
細かいガラスがレンと雨宮に降り注ぐ。
「きゃあああ!!」
雨宮の悲鳴が響き渡った。
辺りにいた通行人もざわつき、医者も携帯電話を取り出して警察を呼ぼうとする。
「【クソ! 気付かれたか!】」
「【頭に眼帯をつけた女に気を付けろ! あいつはおそらく…】」
「【わかってる! まとめて始末してやるぜ…!】」
運転席と助手席には軍の男達が2人座っていた。
運転席の男が再び拳銃でレンと雨宮を狙うため、窓をもう少し開けようとする。
「【早く始末しろ!】」
「【急かすんじゃねえ!】」
銃口を向けようとしたその時、車体の下に潜り込んでいた、液状化した論が、窓が開いたことを機に飛び込んだ。
「「【うわああああ!?】」」
「雨宮とレン…うたせない…」
「【ガボボボボ!?】」
運転席の男が液状化の論に包まれ、溺れかける。引き剥がそうとしても、水をつかもうとするようなものだ。
「【ヒ…ッ!】」
助手席の男が慌てて拳銃を取り出して論に向けるが、下手をすれば味方に当たる。
バリン!
「【!?】」
引き金を引くべきか躊躇っていると、助手席側の窓が蹴り破られた。
砕かれた窓から伸ばされた手が助手席の男の首をつかみ、無理矢理上半身を引きずり出す。
助手席の男が見たのは、鬼の形相をしたレンだ。見下ろす瞳は明らかに人間のものではない。
「【ギャアアア!?】」
「同じ言葉を使う気にもなれねーよ。ここで死ね」
「【ぐ…】」
首をつかんで感電死させようとするが、「ダメ!!」とレンの腰に雨宮が飛びついた。
「レンちゃん! 殺さないで!」
レンは「ああ!?」と声を荒げる。
「本気で言ってんのか!? 命狙われてんだぞ! 死人がひとりでも出ないとこいつらは…」
「レンちゃん!!」
必死の形相で訴える雨宮にレンは露骨に舌打ちし、涙目の助手席の男にスタンガン程度の電流を流して気絶させた。だらりと助手席の窓から垂れる恰好は無様なものだ。
「論」と声をかけると、論も運転席の男を気絶させるだけで済ませている。
レンは騒ぎが大きくなる前に、液状化した論をリュックに入れ、雨宮をバイクの後ろに乗せてその場を去った。
できるだけスピードを上げて病院を離れる。少ししてパトカーとすれ違った。
それまで黙ったまま走行していたが、雨宮はおそるおそる口を開く。
「あの…」
「わかってる…。ひとりふたり殺したところで、あいつらは躍起になって追ってくるだろうな…」
今は冷静だが、レンは、雨宮が撃たれそうになった事実に目の前が真っ赤になったのだ。
腰に抱きつく雨宮の身体は未だに震えている。
「レンちゃんは撃たれてない…?」
「あたしは大丈夫だけど、大事なバイクのミラー壊された」
「クソが」とこめかみに青筋を浮かべた。
「怖くないの…?」
「今まで何度か拳銃で殺されかけたし、なんだったら撃たれたことある」
2年前の戦いの話だ。
雨宮は真っ青な顔で「日本に住んでてそんなことある!?」とつっこまずにはいられない。
「―――で、どうする? さっきみたいに奴ら執拗に追い回してくるし、小田と合流したところで解決策はなにもないままだ。身を隠したところで長くはもたねえだろうな…。だから最悪……」
(……最悪…、あたしひとりでも基地に突っ込んで、“心臓”を……)
“アクロの心臓”を直接狙えば、雨宮に構っている場合ではないと判断させるためだ。
早まろうとするレンの考えを阻止するように、雨宮の腕に力がこもる。
「……味方を…増やしましょう」
雨宮はそう言って、諦めたように目を伏せた。
「……味方って……」
その時、レンの脳裏に太輔達の姿がよぎる。
「ちょっと待て、あいつら帰って来てるのか!?」
「……住所は知ってる。そこを当たってみるしか……」
確かに、同じ能力者で心強い存在だが、レンとしては2年前のことがあるため、顔を合わせづらかった。
結局、勝又に恵を連れ去られてしまったのだから。
それに、雨宮にとっては今まで避けてきた最後の手だ。
不発に終われば今度こそ、あとがない。
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