22:泣かせてみろよ
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病院をあとにしたレンは、バイクに乗って市街地を訪れていた。
(雨宮の家の近くだし、あとで小田に顔出すか…)
パーキングエリアにバイクを停めたあと、買い出しのために大通りの歩道を歩く。平日の昼過ぎは行き交う通行人がまばらだ。
どの店に入ろうかと歩きながら視線を彷徨わせ、ふと、足を止めて通り過ぎようとしたブティックのショーウィンドウに振り向く。
今流行りのレディースやメンズの服を着たマネキンが見えた。
2年前、由良達と買い出しに行った時のことを思い出す。
ショッピングエリアのショーウィンドウの商品に目移りしては、「この服かわいい」と華音に袖を引かれたり、森尾も「新しい靴が欲しいな」と悩む姿を見せたり、なかなかショーウィンドウの前から動かないレン達に「まだかかるのかよ~」と由良が欠伸をしたり、レンも自分から「これが似合うんじゃないか」と言ってみたり。
すぐ横を見れば、由良達がいる気がした。だが、当然、いるはずもない。
(……………)
どこへ行っても何をしていても、眩しい記憶が蘇る。それはレン自身も自覚していた。
そしていつも、少し間を置いて胸の内にあるカサブタを無理やり引き剝がされる思いをするのだ。
呼吸が乱れそうになるのを堪える。顔に浮かぶ冷や汗も手の甲で拭った。
「!」
ショーウィンドウに映る自分の背後で、数人の外国人が向かい側の歩道からこちらを窺っていることに気付く。
「…………」
ショーウィンドウから離れて気付かないふりをしてから数歩歩いたあと、ある程度の距離であえてスピードを落として走り出し、付近にある人通りの少ない脇道へと曲がった。
後ろから慌ただしい足音が遅れて聞こえる。尾行されていたことが確信になった。
尾行をしている連中がこちらの背中を見失わない程度にしばらくじぐざぐに走り、やがてブロック塀の行き止まりにぶつかる。
足を止めると同時に、背後の足音も止まった。
「【……なにか用か?】」
振り返らずにレンが英語で尋ねると、背後にいる外国人達は驚いた顔をして互いに顔を見合わせたが、開き直ったようにレンに近付こうとする。
「【はぁ、はぁ、オ…、オレ達についてきてもらうぞ】」
「【ふぅ…。逃げられると思うなよ?】」
「【泣いて叫んだところでムダだ…】」
(【こ…、この女、あれだけ走ったのに疲れてねえのか…?】)
強がりながらも、レンを追うのに必死で汗を垂れ流しながら肩で息をする外国人達。内心では息一つ上げていないレンの様子に動揺していた。
「……泣く?」
「【!!】」
その時、空気が凍り付く。
レンの表情は、真っ黒な瞳で冷笑を貼り付けている。
「【泣かせてみろよ。ここ2年…、どれだけ苦しくても、涙が出ねえんだ…】」
2年前の湖の戦いのあと、レンは泣くことができなくなっていた。
怯む素振りを見せていた外国人達だったが、数では有利と判断してレンに躍りかかる。
レンは後ろに振り返り、大きな白人の男がナイフを片手につかみかかろうとした。
「【!?】」
レンは右足に勢いをつけ、ナイフを持った男の腕を蹴り上げる。
ナイフは宙を掻き、レンは目の前の男の肩を踏み台にしてジャンプすると、それをつかんだ。
素早くナイフの持ち主の男の背後に着地し、喉元に突きつける。
「【動くな】」
「【ぐ…】」
全員が動きを止める。
レンはゆっくりと男達を眺めた。一般人の服を着ているが、体格も良く鍛えられているのがわかる。軍服はさぞや映えることだろう。
(……女1人、男4人、合わせて5人か…。他にいたとしても、さすがに街中じゃハデには動けねえもんな…)
納得すると、レンは薄笑みを向け、挑発を込めて言い放つ。
「【軍人さん達が私服でおつかいか?】」
レンと向き合う軍人の一人が悔し気に歯軋りしながら、手にしたナイフの刃先を彷徨わせている。
「【うっ…】」
「【銃なんて、こんな街中で使ったらすぐに通報だ。あたしから見れば、ただの国籍違いのヤンキーに絡まれたのと一緒だよ】」
図星を突かれた軍人達が殺気立った。
「【聞きたいことは、山ほどあるけど…】」
レンの目付きが鋭くなった瞬間、目の前の男に一直線にナイフを投げ飛ばす。
「【ぐあ!】」
男の肩に見事にナイフが刺さった。
「【誰にケンカ売ってんのか、思い知らせてやるよ】」
レンは身を屈め、人質にしていた男に足払いをかける。
「【うがっ】」
人質にしていた男は情けなく地面に背中を打った。
「【ナメるんじゃねえ…!】」
腰から警棒を取り出した男が突っ込んでくる。
勢いをつけて振り落とされたそれを、レンは上半身を右に反らして紙一重で避けた。
「【!?】」
バチッ!
驚いている隙に、警棒ををつかんで電流を流す。
「【ギギッ!】」
警棒の男は白目を剥いて後ろに倒れた。
あとの2人はその光景を見て、驚愕している。
「【能力者(P.S.N.P.)!? そんなの聞いてないわ!】」
「【て、撤退だ!!】」
2人は仲間を置いて逃げようと走り出したが、レンは両手の手のひらにそれぞれピンポンサイズのプラズマを作り出していた。
「逃がす気はねえって言っただろ」
それらを背中を向けて逃走する軍人2人に向かって同時に投げ飛ばす。
バチッ!!
「【きゃあ!!】」「【ぎゃあ!】」
同じタイミングで喰らった2人は体を痙攣させながら倒れた。
それからレンは、麻痺状態になった身動きが取れない軍人達を引きずって一箇所に集める。
「【全員生きてるな。一時的に麻痺させてるから、動けないだろ?】」
そう言いながら、行き止まりの隅に転がされた5人を見下ろした。
最初に人質にとられた軍人が「【うう…】」と唸りながら芋虫のように身をよじったが、レンからすれば面倒で無駄な足掻きにしか見えない。
小さくため息をつき、人差し指を突き付けて低い声を出した。
「【妙な動きしたら、迷わず殺す】」
人差し指から軽く火花を散らして見せるだけで、すぐに軍人達が恐怖で動きを止めた。
「【なにが…、望みだ?】」
警棒の軍人が声を震わせながら尋ねる。
「【言っただろ、情報だ。なんであたしを狙った? 誰の命令だ?】」
投げかけられるレンの質問に、誰が言う、と相談するように目配せをし合う軍人達。
痺れる手を小さく上げたのは、レンにナイフを投げつけられた軍人だ。
「【あ、雨宮今日子の、同居人だからだ。雨宮今日子の居場所を吐かせろ…、そう…マクファーソン軍曹が……】」
「【……へえ? あの鼻なしヤロウか…】」
予想していたことだった。思ったより早く生存がバレたのだろう。
雨宮の家の周辺の聞き込みなどでレンの存在も知られている様子だ。
(……素性がバレてる。雨宮が危ない…。命狙ってんなら…―――こいつら…片付けとくか…)
ピリ、と空気が張り詰める。
軍人達を見下ろすレンの瞳が虚無になったことで、殺意を感じ取った軍人達は喚き出した。
「【う、うわああッ!】」
「【しゃ、喋ったんだ! 逃がしてくれよ! なあ!?】」
「【死にたくない…!】」
「【脅すだけのつもりだったんだよ!】」
情けなく命乞いする男達に対し、レンは一言。
「【不運な奴ら】」
左手のひらからバチバチと電流を漏らすと、男達の顔が絶望に染まった。
そこで果敢に声を張ったのは、この中で唯一女性の軍人だった。
「【待って! あなたが能力者(P.S.N.P.)だなんて知らなかったの! お願い、待って!! みんなを…殺さないで…!】」
(………「知らなかった」…)
涙を流しながら懇願する女の軍人を見下ろすレンに、小さな迷いが生じる。
(そういえば、あたし達も……)
湧き上がる苛立ちで舌打ちし、背を向けた。
「【次はないと思え…!】」
そう脅して軍人達をそのままにし、その場をあとにする。
*****
「胸クソ悪い…!」
ひとりごちりながら、バイクを停めた場所に戻ろうと走り出す。
雨宮の生存が軍に知られた以上、無防備に放ってはおけなかった。
(あーあ、あいつがいたら絶対「なにやってんだ」って言われる…。あの時の学生じゃねえんだから、殺しとくべきだった…! ほんと!)
意見の相違で由良と本気で喧嘩した出来事を思い出し、後悔ばかりが追いかけてくる。
気付けばまた思い出に浸ろうとしたところで、そんな自分自身に対しての苛立ちと苦しさが募るばかりだ。
(なあ…、今、どこにいるんだよ…)
「……会いてえよ…」
思い返しては胸を締め付けるほど苦しいはずなのに、やはり涙は流れない。
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