22:泣かせてみろよ
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とある病院の個室部屋にテレビの音が響き渡る。ニュース番組が点けられていた。
“―――…です。横須賀の廃倉庫で、外国人男性の刺殺体が発見され、この身許不明の遺体を―――”
その病室のベッドで寝ている雨宮は、音に引き寄せられるようにゆっくりと意識を取り戻す。
窓から差し込む陽の光に、眩しそうに目を細めた。
「―――雨宮起きたっ」
「! 雨宮!」
室内にいた、レンと論と小田がベッド脇に近寄る。
「大丈夫ですか? 胸のキズは軽傷ですんだらしいんスけど…」
廃倉庫で自分の身に何が起きたのか、思い出した雨宮は自分の胸部分の服を無意識につかんだ。
「………そ…、そうだわ…。倉庫でクレイが死んでて…、そしたら……」
自身の胸が、背後にいた何者かによってナイフで突き刺された瞬間まで蘇り、恐怖で体が震えだす。
あの時、ショックで気を失ったおかげで、相手に死んだと思わせることができたのだ。
「………なぜ私、助かったのかしら……」
顔を強張らせ震える声で疑問を口にする雨宮に対し、雨宮が無事だったことに感極まって嬉し涙を流しながら小田がはっきりと答えた。
「貧乳だからです!!」
「がはっ」
きっぱりと発された悪気のない言葉が、雨宮の胸を鋭く深々と貫いた。マクファーソンのナイフよりも鋭利である。
小田は嬉々としてホワイトボードにわかりやすく図を書いた。
雨宮さん+論くん=レイン
ナイフ<レイン
「論君で豊胸してたからっスよ!」
ホワイトボードをまじまじと眺めるレンは、わかりやすい、と感心するが口にはしない。
「ボカァ、犯人見ましたよ!」
興奮気味に言いながら、小田は一枚の写真を取り出した。
「こいつです!」
写真に写っていたのは、鼻のない男だ。
小田は誇らしげに説明する。
「鼻のない男で―――、マクファーソン軍曹って呼ばれてました!」
「よく、そこまで、見てたわね…」
怒りと嫌味を込めて「見てた」の部分はあえて強調し、唸るように言う雨宮は、レンから手渡された眼鏡をかけた。
「てへ。逃げずに隠れてましたしねぇ!! 車(2号)も見つかってませんし、安心してください!」
照れながら言い切る能天気な小田に、雨宮は「ほめてないっての」と呆れる。
しかしそこではっと気付いた。
代わりに刺されたのは豊胸部分の論ということになる。
「! 論君こそ、平気なの!?」
「ボクは、すぐなおるから…」
論が微笑みながら髪をかきあげると、左腕の袖から包帯が巻いてあるのが雨宮から見えた。健気な論の姿に込み上げるものがある。
「……っ。痛かったね…。ごめんね…」
「……!」
優しく論を抱きしめる雨宮をよそに、小田は病室の戸棚を漁っていた。
「そうだ―――、なにか欲しいもの、ありますぅ?」
「―――別に…。着替えぐらいかしら…」
声をかけられた雨宮が思い当たる物を答えると、「了解!」と元気良く返した小田は雨宮の持ち物をさらに漁り、目的の物を取り出す。
「これ、雨宮さんの家の鍵であります!」
ウサギのキーホルダーがついた鍵を見せつけた。
「あ」と思わず口を開けるレン。
「え!?」と青ざめる雨宮。
「では♪」
「小田ちゃん!? だめぇ――」
スキップでもしそうな小田の背中に手を伸ばして叫ぶ雨宮だったが、構わず小田は病室から出て行ってしまった。
「?」
論は、何が「だめ」なのかわからない様子だ。
レンは雨宮の家に置かせてもらっている自分の荷物が少ないので対して気にはしなかった。
一方、病院の駐車場に停めていた車に乗り込んだ小田は、運転席に着いて手にした雨宮の家の鍵を見つめ、「でも…」と独り言を漏らす。
「ホント無事でよかった…」
眼鏡を外し、目元から零れる安堵の涙を手の甲で拭った。
レンは雨宮の病室の窓から、小田の車が病院の駐車場から出て行くのを眺めていた。
連絡を受けた時の小田の慌てようは、尋常ではなかったことを思い返す。
先程ヘラヘラしていたが、一番雨宮の身を案じていたのは小田だ。
心底安堵しているだろう小田の心中を察したレンは、深くため息をこぼした。
「………雨宮、悪かった」
「え?」
突然のレンの言葉に、雨宮は顔を向けた。
レンは窓に映る雨宮と視線を合わせて言葉を継ぐ。
「あの時、せめて…あたしがついていたら……」
自嘲するような言い方に、雨宮は慌てて否定した。
「そんな、レンちゃんのせいじゃ―――」
「また、大切なモノをなくしかけたんだ!!」
肩越しに振り返って声を荒げるレンに、論がビクリと体を震わせ、思わず液状化する。
それに気付いたレンは「ごめん、論…」と謝った。
「雨宮や小田にはずっと世話になってるし…、恩人なんだ…。守れなかったらって思ったら……」
そう言って、物悲しそうに目を伏せる。
「レンちゃん…」
レンにかける言葉が見つからず雨宮がしばらく黙っていると、レンは病室の扉に近付いてその取っ手をつかみ、「なにか…買ってくる…」と言って病室から出ていった。
「……………」
見送る雨宮は思い出す。
2年前、満身創痍で、大切な人の片腕を宝物のように抱えて現れた、レンの姿を。
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