20:もうすぐ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夜、横須賀基地の近くの所々が崩れている古びた廃倉庫に、地味で目立たない服装を着た外国人の男が、怯えながら足を踏み入れた。
(【そ、そろそろ、時間だが……】)
外国人の男は、人を待っている様子だ。
警戒して、辺りを見渡す。
「【Mr.クレイ】」
「【!!】」
外国人の男―――クレイの背後にある入り口から、女が英語で声をかけた。
「【よく来てくれたわね。感謝するわ】」
ハイヒールの音とともに、チャイナ服を着て、眼鏡をかけた女が建物内に入ってきた。
なによりも印象的なのが、その女の胸の大きさだ。子供ひとりは入っているかのように大きい。
クレイはおそるおそる振り向くと、大事な物を隠している懐を抱えながら声を震わせて言った。
「【か…、金は、持ってきたんだろうな…】」
「【もちろんよ】」
女は札束の入った封筒を、クレイの懐に軽く放り投げて渡す。
「【私は決して約束を破らない。安心して、全て話してちょうだい】」
腕を組みながら不敵な笑みを浮かべた女の正体は、雨宮だ。
その雨宮の肩越しに、2人の黒ずくめが、入り口の壁にもたれてかかって立っていた。
一人は長い黒のロングコートを着て、黒の帽子を被り、険しい顔で煙草に火をつけて吹かしている小田。
もう一人は黒のスーツを着て、黒ネクタイを締め、黒髪のカツラを被り、サングラスをかけて男装しているレンだ。
「【ヘタなマネは考えねえほうが身のためだ】」
レンはサングラスをずらしてクレイを睨みつけ、ドスを効かせて言った。
「【……………】」
クレイはその雰囲気に、慄然とする。
それから、震える手で懐に隠し持っていたものを取り出した。A4サイズの封筒だ。
「【や、約束のモンだ…】」
その封筒を雨宮に手渡す。
「【北海道の噴火現場から、軍が運び出した―――“生きている岩(Living Rock)”だ】」
クレイが説明すると、封筒の中身から写真を取り出した雨宮の指の動きが、一瞬止まった。
「【生きている(Alive)…? これが?】」
雨宮が取り出した写真に写っていたのは、研究施設で保管されている巨大な岩だ。
クレイは説明を続ける。
「【この岩は脈打ち、日々、形を変え、成長を続けている。それだけでなく、細胞分裂・自己修復能力も確認…。従って、我が軍はこの岩を生命体と断定した】」
(ということは…、これが“アクロの心臓”…?)
雨宮は写真から目を離さなかった。
(生命体っつーのは…、広瀬か…)
レンはもう一度サングラスをずらし、遠目で雨宮の持っている写真を覗き見る。
クレイはさらに続けた。
「【具体的な方法はわからないが…、国はそれを軍事利用しようとしている】」
「「!!」」
((あの力を兵器に…!?))
レンと雨宮は大きく目を見開く。
2年前、広瀬が見せつけた山を抉りとるほどの能力を思い出し、あれが兵器に利用されるというのならゾッとする話だ。ミサイルよりも恐ろしい。
「【全ては能力者(P.S.N.P.)に対抗するためだ】」
「「!」」
レンと雨宮は同時に、写真からクレイに視線を移した。
「【……能力者のこと、知ってるの?】」
「【知ってるさ】」
雨宮の問いに、クレイは静かに答える。
「【じゃあ、なんで……】」
レンは疑問を口に出せずにはいられなかった。今にもつかみかかりそうなレンの雰囲気に、雨宮はクレイから視線を外さず手で制した。
クレイは静かに話す。
「【多数の検死体もあれば、表に出ずに潰された目撃証言もある。人間の全てが彼らの存在に気づいていないわけじゃない…。知らないフリをしてるだけだ。軍はこの2年、極秘裏に能力者の研究を重ねてきた…。……噂じゃあ、それに協力する能力者もいるって話だ。彼らを味方につけ、その能力(ちから)を平和利用する。……それが、“自由の国”としての、我が国の務めなのだろう。これで話は終わりだ】」
「……………」
(………まさか、協力する能力者って…、勝又? ……それとも……)
レンは一瞬、脳裏で由良の顔をよぎらせたが、コブシを強く握りしめ、その予感を、握る痛みで払うようにした。
(まさか…な。あいつが人間に協力するわけねえし…)
クレイから情報を聞き出したあと、廃倉庫の外に出るとクレイは強く吹く海風に構わず、逃げるように走り去った。
クレイの後ろ姿が見えなくなると、雨宮は自分の胸元に手を置く。
「……もういいわよ」
雨宮が合図をかけると、液状化していた論が、滑るように雨宮の胸と服の隙間から出てきた。
「きっ、緊張した~~~っ」
雨宮は緊張の糸が切れ、腰を抜かして座り込んだ。
論が出たため、大きかった巨乳も、元の貧乳へとしぼむ。
「ゲェ――ホ、ゲェ――ホ!」
小田は煙草を捨て、膝と手を地面について噎せた。
「吸えもしないクセに、ムリして煙草吸ってカッコつけるから…。はぁ…。首、キツかった」
レンは呆れながら、右手でカツラをとり、左手でネクタイを緩める。
「足元見られないように、こんなカッコまでしたけど…、成功してよかった~~~! 怖かった~~~」
雨宮は泣きながら喜ぶが、体が震えている。
「なんでボクまで自腹切るハメに…、返済計画ズタズタです…。ケポケポ」
小田は噎せながら、涙を流してブツブツとこぼした。
(借金して出したのか、あの金…)
レンは小田と雨宮を哀れむような目で見下ろす。
「大体、あたしはなんでサングラスにスーツ? どこのマフィアだよ…」
レンがカツラを軽く振り回しながら文句を呟くと、
「だったら、雨宮さんみたいにチャイナ服にしたらよかったのに…。似合うよ! 絶対!」
小田はどこから出したのか、もう一着のコスプレグッズのチャイナ服を取り出し、レンに見せつけた。
レンは露骨に表情で拒否を示す。
「死んでも着ねーよ」
「気合入ったのも、論君(による巨乳)のおかげ…! あらナイ」
雨宮はしぼんだ胸を、残念そうに見つめた。
「雨宮さん、プライドは…?」
小田がツッコむ。
そこで雨宮は論がいないことに気づいた。
「……論君?」
論は瓦礫の陰で、うずくまりながら震えていた。
「こっ…、ココ、怖い…。“心ぞう”のこどうが強い…!」
論が震えた声で訴える。
「……ああ。あたしも…感じてる…」
レンの身体もわずかに震えていた。
パシンッ パシッ
横須賀基地の方角から、恐怖を思い出すほど強い“アクロの心臓”の波動を、肌に感じていた。
思い出したのは、去り際のクレイの言葉だ。
『【オレは国に帰る。あんたらも日本を離れた方がいい…。アレはもうすぐ、動く…!】』
(もうすぐ…、会えるのか……)
徐々に“心臓”に近付けたことで、恐怖の中にある確かな期待に、レンは口元を歪ませ、頭にかけた森尾の眼帯に手を触れた。
.To be continued