04:苦手だ
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由良と共に家路に着いたレンは、自室で私服に着替えるため、血が付着した学生服は無造作に床に放り投げた。
由良には自室のドアの向こうで待機してもらっている。
部屋の中を覗こうとしたので黙ってカギをかけると、間髪入れずにガチャガチャとノブを不満そうに回された。
「なあ、これからどこ行くんだ?」
「北」
「北ぁ?」
ドア越しに聞こえたあまりにも適当な返答に、素っ頓狂な声が出た。
気持ちが困惑したまま着替えは終わり、必要なものをリュックに詰めていく。
「え、北のどこ?」
音楽プレイヤー、着替え、他に必要なものはないかと考えながらレンは由良に尋ねた。
ドアの向こうからガサガサ、バリバリ、と咀嚼音が聞こえる。
由良は勝手にレンの家にあったビスケット袋を開けて中身を貪っていた。
「モゴモゴ…、知るか。オレが聞きてえよ」
少し遅れた投げやりな返答に、支度途中のレンはドアをバンッと勢いよく開ける。
「まさかおまえ、なにも知らなくてあたしを自分でもよく知らんとこ連れていこうとしてんのか!?」
こちらは一大決心をしたというのにいくらなんでも勝手が過ぎる、と青筋を立てた。
今にも躍りかかりそうな怒鳴り声と圧に由良がわずかに仰け反るが、ビスケットは離さない。
「いや、勝っつんからそれしか聞いてねえんだって」
「………勝っつん? 誰のニックネームだよ」
「勝又って言ってな、オレ、そいつに誘われてついていくことにしたんだ」
「へぇ…、他にも仲間いたのか…。……聞いてねぇけど?」
「まあ、おまえを誘ったのはオレの独断だけどな」
「え、じゃあ、あたしのこと、向こうも知らねーんじゃねえか!?」
「…………そだな。まぁ、今日会った時に言うから大丈夫♪」
「今日ぉ!? 待て待て待て、情報伝達が乏しいにもほどがあるだろ!!」
行き当たりばったりな由良の発言に頭痛と眩暈を覚える。
この短期間で、由良の性格は人の都合などはお構いなしな性格だということは理解した。マイペースすぎてツッコむのさえ疲れ、落ち度は自身にあるのではないかと思ってしまう。
(具体的な内容をちゃんと聞いてなかったあたしが悪いのか、これ…)
「準備できたんなら、行くぞー」
呑気な由良は促す言葉をかけながら、さっさと玄関に向かって歩き出す。
やはりビスケットは離さない。
どちらにしても乗りかかった舟だ。今更取りやめることはできず、先行きの見えない不安に包まれながらレンは支度を済ませたリュックを肩にかけて自室を出た。
「……………」
リビングの前を通ろうとしたところで足を止め、小棚に飾られた写真立てを見る。
家族4人で海に行った時に撮った写真だ。
「……行ってきます」
写真立てに向かって小さく言った。
「? なんか言ったか?」
玄関にいた由良が肩越しに振り返って聞くが、「いや…」と前に向き直って再び歩き出し、スニーカーに履き替えた。
スニーカーの紐を結びながら、ふと、思う。
(もしかしたら…)
カギは外側からしめたあと、役目を終えたそれをドアのポスト受けに入れた。
(2度とこの家に帰ってこれないのかもしれない)
もう誰も待っていない家だが、後ろ髪をひかれるような寂しさはあった。
(捨てるのって難しいな…)
気持ちを切り替えるために、小さく首を振り、由良に顔を向けて尋ねる。
「で、由良、仲間ってのはどこにいるんだ? これから向かうんだろ?」
「ん?」
ビスケットを食べ終わった由良は、いつから持っていたのか片手に缶クッキーを抱えて中身を食べ始めていた。
「さっきから人んちのお菓子かっぱらうな!!」
もう我慢ならず取り上げようと正面から手を伸ばすが、由良は、向かってくるレンの顔面を左手で押さえつけ、クッキーを食べる右手を止めず野良犬のような唸り声を出しながら缶クッキーを死守する姿勢をとったまま先程のレンの質問に答える。
「中央警察署に行くぞ」
「……………」
(……自首しに?)
レンはポストに入れた家のカギを拾い直したくなった。
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