19:もし、生きてるなら…
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あの日、レンは由良の左腕を抱きしめ、喪失感と絶望感に耐えきれず圧し潰されて動けなくなっていた。
(このまま…消えないかな…。……もう…、無理……)
その時、突然湖が噴火した。太輔が広瀬をつかまえ、自分ごとマグマに呑み込まれようと能力を発動したからだ。
赤く噴き上がる火柱。
広い範囲で辺りが真っ赤に照らされた。
(噴火……?)
目を閉じていてもわかる光と轟音に、レンは薄目を開ける。
視界に入ったのは、誰かの足先だ。レンはぼんやりとした思考で、なんとなく視線を上げた。
森尾がこちらを見下ろしている。眼帯も、火傷の痕もない。
「森…尾……?」
レンと目を合わせ、穏やかな笑みを浮かべる森尾は、どこかを指さした。
レンは痛む体をわずかに動かし、森尾が指した方へ視線を向ける。
目先の地面に、森の中へ点々と続く血痕の跡を見つけた。火柱の光がなければ見えづらかっただろう。
「…………!!」
虚ろだったレンの瞳に、小さな光が灯る。
思い出したのは、室組との戦闘後、街灯のすぐ下で、迫る暗闇に不安になって膝を抱えていた時、街灯の灯具とアームの部分にのってレンを見下ろし、「よう」と声をかけてきた由良の姿だ。
森尾に振り向こうとしたが、もうそこに森尾の姿はなかった。
「うぅ…」と呻き、体を無理やり起こすレン。
血痕の跡は、この場所から逃げるように続いている。
レンは地面の血に触れた。少し乾いているが、わずかに人差し指に付着する。匂いも鉄臭く、幻ではない。
決定的だったのは、血を踏みつけたことでできた、大人サイズの足跡がひとつ。足裏の上部分だ。足指の跡が、途中で踏みつけられただろう葉っぱに付着していた。
残されていた足跡は、足指の先が湖とは反対の方向を向いている。
レンが知る限り、湖の戦いの最中にいた、裸足の人間はひとりしかいない。
傷口が開こうと、血反吐を吐こうと、躓こうと、意識が朦朧としようと、レンは由良の左腕を抱きしめながら必死に血痕の跡を追いかけた。
火柱から離れたことで跡を見失おうとも、けっして足は止めない。
暗闇に対する恐怖など、知ったことではなかった。
一番失って恐ろしいものを知ってしまったからだ。ただただ会いたい一心で足を進める。
足先は自然と、森を抜けた先にある車道に向けられていた。騒々しく、サイレンや人の声が聞こえる。
誰かが彼を見ているかもしれない、彼を保護しているのかもしれない、と希望を抱き、レンは森から抜け出したのだった。
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