19:もし、生きてるなら…
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二度目の集団自殺事件から、月日が流れる。
東京のとあるファミレスのテーブル席には、“アクロの心臓”があった湖周辺を傍観していた女が座っていた。
褐色肌の女は、二十代前半のアメリカ人だ。頭には黒のヘッドスカーフを髪、耳、首を隠すように巻き、薄紫のワンピースを着ている。
コーヒーカップを片手に、苦々しい顔をしていた。
「【あれから数ヶ月…。ようやく“片腕の少女”を見つけたと思っていたのに…】」
呟きながら悩まし気に肩を落とし、宙を見据えながらコーヒーを一口飲む。
(【能力者同士が戦ってたり、山が大きく抉られたり、落ち着いたかと思ったら噴火…。辺りが騒然とする中、片腕を抱えた少女が、森から出てきたのは見た…】)
本物の人間の片腕を胸に抱いていたのだ。
双眼鏡越しに見つけた時は酷く驚いた。
消防車・救急車・パトカー、様々な車が押し寄せる場所へ、レンは疲労困憊の様子で森からふらふらと現れた。
消防隊のひとりがそれに気づき、ぎょっとして急いで周りに知らせる。
近くには、一般人と、二人の記者がいた。先程まで湖から逃げてきた雨宮今日子と小田正志。雨宮はレンの様子に気付き、レンも雨宮と目を合わせた。
レンはゆっくりと雨宮に近付きながら、声をかける。
『……こ…、ここに…、ツナギの男…来なかったか…? あいつ…、片腕をなくしたばかりなんだ…』
雨宮と小田は怯えた様子で首を横に振った。
雨の中に置いてけぼりにされた子どものように悲しげに目を伏せるレンに、見兼ねた雨宮はおそるおそる声をかけようとしたが、その前に救急隊が人数を引き連れてレンを囲んだ。
由良の片腕を取り上げられたレンは錯乱状態だ。「返せ」と叫びながら救急隊員につかみかかるが、満身創痍なうえに数人がかりに太刀打ちできるわけもなく、救急車の中へと引きずり込まれるように連れていかれたのだった。
レンを追っていた女が、レンが連れていかれた病院へと赴いたが、すでに病室はもぬけのカラ。
ある程度回復したレンは、地元警察が来る前に逃走していた。
そこから先は行方知れず。
探し人の大体の特定はできても、見つからなければ振り出しだ。
女はコーヒーのおかわりを注文したあと、大きくため息をついた。
「【第二の自殺騒動で“先生”も亡くなったし…。あの人、自分のことも能力で占っておけば、死なずに済んだかもしれないのに…】」
遺されたのは、“先生”の占い結果だけだ。
箇条書きのせいで詳しい内容がわからない。
第二の自殺騒動を彷彿とさせる文章のあとに続くのは、“2 years”。
(【2年…。まさか、次の変化があるまで2年かかるってこと?】)
嫌な予感はしたが、もしそうだとしても、結果を望んだのは自分なのだ。
(【時間もあるし…。もう少し日本を探し回って…、ついでに日本語も身に付けようかな…】)
ん~っ、っと伸びをした女は、おかわりのコーヒーを飲んでから店を出ようとした。
「【……あの子、だいぶ傷ついてる様子だったけど…、元気にしてるのかな…。自分の体は大事にしないと、カミサマが怒るのに…】」
*****
心地の良い青空の下、とある丘のベンチには、レンが脚を伸ばしてひと眠りしていた。耳には音楽プレイヤーのイヤホンをつけっぱなしにしている。
傍には赤の大型バイクを停めていた。
そよ風が吹き、近くの桜の木から桜吹雪が舞い、一枚の花びらがレンの頬に落ちる。
ゆっくりと目を覚ましたレンは、寝ぼけ眼を擦り、欠伸と共に伸びをしてから半身を起こした。その際に、頬にのっていた花びらがどこかへひらひらと舞う。
遠くの景色に、広瀬の能力で崩れた山が見える。ほとんど元の原型を失っていた。
「……………」
再び強い風が吹き、遅咲きの桜から風に乗って花びらが舞う。
美しい光景のはずなのに、レンの心はどこかぼんやりとしていた。
ふと、自身の頭に触れる。
ほんの少し伸びた茶髪、左側頭部には森尾の眼帯をかけていた。眼帯の生地には、遺された華音の髪が縫い込んである。
大切な友人を失った湖の戦いから、8ヶ月の月日が経とうしていた。
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