10:“リコ”
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ルビーとトランは大人2人並べるほどの道を歩いていた。
洞窟の中にはところどころ松明があるものの、たまに通過する、子どもが通れるほどの横穴は先が見えないほど暗かった。
トランは「どの穴だったっけ」とポケットを探り、手のひらサイズの可愛らしいトランペットを取り出した。
ルビーが、何それ、と声をかける前に、トランペットの口の部分を近くの横穴に向けたトランがピストン部分を指で押すと、カチッという音と同時に口部分から火が点く。
「ライター? へェ! 最高に面白いね!」
トランペット型の物珍しいライターに目を輝かせるルビー。
トラン自身は不満げに口を尖らせた。
「面白くないよ。父ちゃんのマネして作ったんだけど、完全に失敗作。本当は、吹いたらちゃんと音が鳴るはずだったんだ。―――で、捨てるのもったいないからそのままライターに改造した」
どちらにしても、子どもにしてはとても器用である。
トランは「こっち。通れる?」と肩越しに振り返って小さな穴を通ろうとした。ルビーは「たぶん行ける」とトランのあとに続く。
途中で、担いできた大砲の砲身が引っかかるため、片手を後ろにして引きずりながら運んだ。
横穴は大人の男性で苦労するほどの大きさで、細身のルビーでなんとか通れた。
だが、その顔には冷や汗を浮かべている。
心配になったトランが振り返ってライターの火で照らすと、わかりやすいほど汗の粒が光った。
「ねェ、やっぱり道変えようか? 顔青いけど」
ルビーはゆっくりと深呼吸を繰り返しながら手の甲で汗を拭う。
「気にしないで。その気になったら無理やり周辺の岩を壊す」
「だから壊すなっつってんだろ!! 父ちゃんがめっちゃ怒るんだって! この岩山で楽器を作ろうとしてんだぞ! 10年以上頑張って掘ったり削ったりしてるのに…」
歯を剥いてがなるトランに、ルビーは「へー」と岩肌に空けられた数々の穴を思い出した。
「だから色んなところに穴を空けてるのね。…おとうさんってフォニアムさんって人?」
「知ってんの!?」
「何でも楽器にできるって町の人に聞いた。…今、ケガしてるって言ってたよね?」
『お前のせいで父ちゃんがケガしたんだぞ!!』
そう言ってリコに石を投げつけていたトランの姿が頭をよぎる。
「……そうだよ」
「……リコのせいって言ってたけど…。……いや、リコじゃないんだっけ?」
石を投げたが、トランはリコに当てるつもりはなかった。
眉根を寄せ、バツが悪そうに話し始める。
「……本当は、あのシャチのせいじゃないんだ。わかってる…。全部ザッギって奴らが悪い。……あのシャチも、父ちゃんも、ただ…取り返したかっただけなんだ」
「取り返したかった? 何を取られたの?」
「……それは……―――」
「―――え?」
それを聞いたルビーの目が大きく見開かれた。
「静かに」
トランは一度立ち止まって身を引くし、声をさらに潜める。
横穴の先には少し広めの空間があった。
奥には鉄格子の嵌められた穴がいくつかあり、町民が何人かに分けられて監禁されていた。ほとんどが女性だ。
トランの視線がその中にあるひとつの檻に留まり、「母ちゃん…」と呟いた。
檻の前に立つ、見張りのクルーは5人。全員得物を手にしている。
ルビーは目で数え、見張りの会話に聞き耳を立てた。
「なァ、この女共、船が完成したら何人か連れて行くのか?」
「ああ。綺麗どころはよく売れる。赤ん坊もな。ザッギ船長はとにかく金が欲しいんだろうよ」
「持ってた金銀財宝はほとんど“アクターズ”に奪われちまったからな。船長の恨みは底知れねェよ。準備が整ったら復讐しに行くんじゃねーか?」
「うう…。おれはもう2度と関わりたくねェよ! バケモノ集団だぞ! 生きて逃げ切ることができたのが奇跡と思ってんだ。それにもう、同じ場所にいるのかさえ…」
「その弱音、絶対船長の前でこぼすなよ! ハチの巣にされるぞ! いるのかいないのかはともかく、またあの場所には行くだろうさ。あそこには武器に関する貴重な書物がたくさんあったんだ」
「あの場所に行くのも命懸けだったじゃねーか! おれ達の邪魔をしたのだって…、“アクターズ”は雇われてたに違いねェ…。あいつらは5人組のはずだろ? なのに、たった2人におれ達の船が…」
「怯えるなって。船長の新しい武器と海賊船なら今度こそ…」
「ああ。特に船長は“赤の仮面”と“青の仮面”にご執心だ。真っ先に殺しにかかるだろうよ…」
「今はとにかく試し撃ちがしたくて疼いてるみてェだ。船の完成まで間もなく…。役目が終わった町民は皆殺しだろうよ。新たな海賊船の大砲で町も破壊するらしい」
「はははっ! 見物だろうよ。町の職人共が自分達の作品で血の海にされちまうんだからな!」
「話が違う!!!」
黙っていられず横穴から飛び出したのはトランだった。
クルー達の視線が一斉に集中する。
「海賊船が完成したら、町のみんなは解放するって言ったじゃねェか!!!」
「トラン!!?」
鉄格子をつかんで叫んだのはトランの母親だった。
監禁されている他の女達もどよめく。
クルー達は一度互いの顔を見合わせ、腹を抱えて笑い出した。
「ハハハハッ!! 何だ、聞いてたのかよ!? 今更驚くことか!?」
「話が違うって? 当たり前だろ! 本気で信じてたのか! 律儀に約束なんて守るわけねーだろ! ガキじゃねーんだ!」
「ププッ! そう言ってやるなよ、ガキだから信じたんだろ!」
「どうせこの島の奴らは、おれ達が出航したらすぐに海軍に連絡するだろうが! 使い捨てはハナから決まってたことなんだよ!!」
「女共はいい値で売らせてもらうぜ。お前も奴隷として売ってやってもいいんだぜ? 少なくとも長生きはできる!」
「~~~~っ!!!!」
感情の高ぶりのあまり、歯を食いしばり、トランの目に涙が浮かんだ。
下品な笑い声を聞き、トランの頭の片隅に数年前の記憶がよぎる。
『泣き喚くんじゃねェ!! お前のことはいい値で売ってやるからよ!!』
無理やり、今よりも小さなトランを荷物のように脇に抱え、声を荒げながら小舟に乗り込もうとする男。
今の記憶は、とトランの中に疑問が浮かぶと同時に、背後から頭に手を触れられた。
「言ったよね。海賊と交渉なんてしない方がいい。…でも、わかってたから助けてほしかったわけでしょ? こんな、馬鹿笑いしてる奴らのことなんて誰も信用してないだろうし」
横穴から出たルビーは、トランの前に立ってクルー達と向かい合う。
クルー達の顔色が一気に変わった。
「おいおい…、何でテメェまでここにいやがる…!! 船に乗ってたんじゃねーのか!?」
「襲撃されて逃げてきたのか!?」
「ちょうどいい。ザッギ船長が欲しがってた奴なら、今ここで…」
クルー達が武器を構えても、ルビーは臆さず、一歩前に踏み出すと同時に一気に距離を詰める。
「素手で十分」
そう呟き、突き出した両手ですぐ目の前にいた2人のクルーの顔面をつかんで後ろの鉄格子に叩きつけた。
鉄格子が曲がるほどの衝撃だ。内側にいる町の女達が驚いて悲鳴を上げる。
「「「!!!??」」」
他のクルー達は目を剥いて仰天し、反射的に飛びのいて壁に背中をぶつけた。
「うわああ!!?」
「何だこの女!!?」
「見習いだけど? ……そこ。いい位置ね」
ルビーの視線が上に向くと、クルー達も視線を追って見上げようとしたが、
ゴゴゴンッ!!
3人のクルー達の頭上付近には小さな横穴があった。
そこからひょっこりと上半身を出した、ポルン、フルット、ザクスの3人が金管楽器の部品であるパイプを大きく振りかぶり、クルー達が気付く前に渾身の力で脳天を撲りつけたのだ。
クルー達はほぼ同じタイミングで地面に伏して気絶した。
「お前ら!! ついてきたのか!?」
ザクス達を見上げて声を上げるトラン。
「責めるなよ」とザクスは持っているパイプを小さく振った。
「家を抜け出すお前の姿を見かけたんだ。最初はおれだけ追いかけようとしたが、同じく目撃してたポルンとフルットも「ついてく」って聞かなくてな」
「み…ッ!! ト…ッ!!」
水臭いよトラン、と言いたいフルット。ポルンも涙を浮かべながら責める。
「ほんとにほんとに心配したんだから!!」
「………ッ!!」
頼もしいトランの友人に、「最高にやるねェ」と口角を上げるルビー。
「「ザクス!?」」
「ああ…っ、フルットかい…!?」「フルット!」
「ポルン…!!」
声をかけたのは、監禁されている母親・兄弟だった。
「母さん! 姉さん!」
「ママー!! ばあちゃーん!!」
「おかあさん!!」
ザクス達は穴から出ようとする。トランも自分の母親のいる檻に駆け寄った。
「トラン!!」
「母ちゃん!!」
「!!!」
近くの穴から、鈍く光る何かが飛んできたことに真っ先に気付いたのはルビーだった。
すぐさまトランに駆け寄り、その体を抱えて横へ飛んだ。
ルビーの背中に痛みが走る。
「!!?」
トランは何事かとルビーを見上げるが、ルビーの鋭い目は別の方向を見据えていた。
くるくると宙を回転するそれは、ブーメランのように飛んできた方へと戻る。穴の先からはいくつもの金属音が聞こえた。
「船の完成を伝えにきてやったというのに、無粋なネズミがいたものだ」
現れたのは、ザッギ海賊団のバンシュだ。
片手には投擲して戻ってきた円月輪をつかんでいる。刃には血が付着していた。
トランはそこでルビーがケガを負わされたことに気付く。
「おい…!?」
「大丈夫。傷は浅いよ」
トランを庇った直後、飛んできた円月輪がルビーの背中を滑り裂いたのだ。
「きゃああああ!!!」
「……ッ!! …ッッ!! ッ、ッ………ガク…ッ」
地面に滴る血に、ポルンは悲鳴を上げ、フルットは言葉を詰まらせすぎて気を失った。
「そこ3人、下がってて!」
「…!! わかった」
額に汗を浮かばせながらも冷静に応えるザクスは、ポルンとフルットを回収する。「冷静で助かる」とルビーは呟いた。
バンシュは鼻で笑い、指先でくるくると円月輪を挑発的に回し始めた。
「クク…ッ。ザッギ船長が試し撃ちを楽しみにしているぞ。これから役目を終えた町の人間を順番に…」
わざと急かす言葉をかけている。
「じゃあアンタをすぐに倒して駆けつけるしかないよね」
「そんなガキ(荷物)を抱えてか?」
バンシュが3連続で円月輪を投擲した。
「“月回し・三連月”!!」
ルビーはトランを脇に抱えたまま宙を跳び、円月輪を紙一重で避ける。
「ちょっと!! せめて子ども置いてから相手してくんない!?」
「許すわけないだろう!! おとなしく刺身になれ!!!」
「だよね。最悪」とルビーは舌を出した。
「“月回し・十連月”!!」
時間差で投げ飛ばされる円月輪。
ルビーは目で追いながら避けるが、空間が狭くて上手くかわしきれず、腕、足、頬と浅く切りつけられる。
「“月回し・追い月”!!」
特殊な回転を加えられた円月輪が急カーブし、避けたはずのルビーを顔面を狙う。
ガキンッ!!
「うわあああ!!!」
トランは思わず叫び声を上げた。
監禁されている女達も悲鳴を上げ、顔を真っ青にする。
「……!?」
目を見開いたのはバンシュの方だった。
仰け反った体勢から戻ったルビーの口には、直撃したと思ったはずの円月輪が咥えられていた。歯で受け止めたのだ。
「いい加減にしろ…っての…!!」
歯に力を入れると、バキッ、と咥えた円月輪にヒビが入る。
ルビーの赤い目に鋭く睨まれ、バンシュは唾を吞んだ。
(ガーリィーが恐れたのもわかる…。こいつを本気にさせてはいけない…!!)
「うぐ…っ、苦し…」
「あー…っと、ごめんごめん」
思わず抱えた腕に力が入ってしまい、肋骨が軋む感覚に呻くトランにルビーははっとする。
「どこか隠せるとこ…。あ、ここに隠れてて!」
近くにあった小さな横穴を見つけ、そこへトランを放り入れた。
「ちょっと待…っ、ぎゃあああああ!!」
「え!?」
待ったをかけようとしたトランだったが、放り込まれてそのまま滑り落ちてしまった。
「は!?」
ルビーは穴を覗く。滑り台のように急坂になっていた。
転げ落ちた先がどこに通じているかわからない。誤った穴に放り込んでしまい、焦る。
「やば!! トラ―――ン!!」
先程の横穴と違い、小さな子どもでやっと通れる狭さだ。思わず手を伸ばしたが、肩がつかえてしまう。
「うちの子が…っ」
見守っていたトランの母親は血の気が引いてついに倒れた。
「ごめん!! ちょっと待ってこれどこ通じてんの!?」
「わからない。通るのが危なそうなところはおれ達も調べてないんだ。水路に繋がってたら最悪だ」
「ほんと最悪!!」
ザクスは横穴から顔を出さないように気を付けながら冷静に教えてくれた。
すぐに追いかけたいところだが、バンシュはもちろん許さない。
背中に携えた棒をつかみ取り、腰にかけた数百の円月輪をすべて通し、回し出した。
「“月回し・月刀”…!!」
回転する刀の完成だ。
背後から攻撃されたが、ルビーは横に飛んで避けた。
威力もあり、岩肌が削れる。
「トランが傷つけるなって言ったのに…!」
後ろに跳んで距離をとれば、月刀から円月輪が放たれた。
すぐに決着をつけてトランを追いかけたいところだが、思うように接近することができない。
時間に追われて焦りだすルビーは、こめかみに青筋を浮かばせて不満をたっぷりと漏らした。
「こういう時こそバギー向きなのに、今どこにいるの…、あのふざけた赤っ鼻はァァァァァ!!!」
「誰がじゃあああああ!!!!」
すぽーん!!と突如真上の穴から飛び降りたのは、バギーだった。
鼻息を荒くして露骨に激怒している。
「ルビー!! テメェ今はっきりおれ様の悪口…」
「バギー!! 最高にちょうどよかった!!」
ぱっと明るい表情になったルビーは、胸倉をつかんでこようとしたバギーの両手をつかみ、
「交代!!」
「は?」
半回転した勢いでバンシュに向かってバギーを投げつけた。
「!!?」
「何ィィィィィ!!?」
ルビーは今のうちに、トランを放り入れてしまった横穴の近くにある、別の横穴に飛び込むように入った。
「チッ!! 逃がすか!! 邪魔だ丸鼻!!!」
「ギャアアアア~~~~!!」
月刀に縦に真っ二つに両断されるバギー。
「テメェも丸鼻っつったかコラァァァァ!!!」
“バラバラ砲”!!!
ゴキャッッ!!
「!!!???」
真っ二つのままのバギーのコブシを顔面に叩き込まれるバンシュ。
目玉が飛び出たのはバンシュだけでなく、監禁されている町の女達、横穴から見守っていたザクス達もだ。
「……ッ!!!! ッ!!! ………ッッ…!!!? …………ガクッ」
目覚めたばかりだったフルットは再び気絶する。
「バケモノ―――ッッ!!!?」
「キャー!! ザクスが絶叫するの初めて見た!! 初めて見た―――!!」
悪魔の実の能力者の登場により、周囲は大混乱となった。
「あのハデアホ見習い―――!!! あとで覚えときやがれェ!!!」
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