09:大根役者
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時は遡り、数時間前。
木製の椅子に座って足を組みながら本を読んでいた男は、古びた本を片手に、トラン達の見張りをしていた仲間から報告を聞いていた。
『大道芸人?』
振り返らず、本の文字に集中しながら尋ねる。
『そう名乗ってはいましたが…』
『ガーリィーさんが言ってた、ピエロみたいな男と、やばそうな赤目の女でした!』
『……我らのことは知ってる様子だったナイか?』
『いえ…。宿を探しているようでしたが、引き上げる様子でもありました』
『ガキ共がいらねェことを口走らせてない限り…』
『ザッギ船長…、やはり、見せしめでもガキ共は何人か殺すべきだったのでは』
クルー達の言葉に、男―――ザッギは「ハッ」と一笑し、読んでいた本を勢いよく閉じて立ち上がり、ようやく振り返る。
頭の右半分は包帯で巻かれ、顔面にはおしろいを塗りたくった、中華風の黒い服と青いスパンコールのマントを纏っていた。
『それはもったいナイ!! 新たな船と武器が完成した時の試し撃ちが減ってしまうではナイか! 逃げ惑う小さなガキ相手にどこまで当たるのか…! 今夜にでも使用するつもりだったんだ。余計なことを言うんじゃナイッ!!』
怒鳴りつけられたクルー達は、『失礼しました!! ザッギ船長!!』と背筋を伸ばした。
『ザッギ船長…』
『おお、バンシュ』
他のクルー達よりもザッギに近付いて声をかけたのは、背中に1mほどの鉄棒を携え、丸坊主で半裸の男―――バンシュだった。両耳には耳たぶが千切れそうなほど大きなリングをつけている。
腰布に吊り下げる大量の円月輪は、動くたびに金属音を立てた。
『それで、自称・大道芸人はどうします? ガーリィーが思わず逃げ帰るほどの人間…いや、人魚もいるそうですが…』
『人魚か…。うまく捕まえて商人に売りつけるのもいいことだ。はく製でも売れるんだぜ。海軍ではなく、海賊ならば好都合だナイ…。奴らが消えても不審に思う奴はひとりもいナイ…! ついでに財宝や船の部品もいただいてくれるわ…!!』
乗り気なザッギの様子に、バンシュは口角を吊り上げる。
『一度、ルルアンを忍び込ませるのは?』
『なるほど、あいつはゆっくりと内側から壊してくれるナイ…。あとからガーリィーも送り込むか…』
*****
時間は戻る。
ビックトップ号の船内にある、格納庫のドア付近には小さな宝箱が置かれていた。
それを見つけたのは、ルビーが運んでいた荷車から格納庫に荷物を移動させていた3人組クルー達だ。
「おい、こんなところに放置してんじゃねーよ。バギー船長に怒鳴られるぞ」
「いや、さっきまでここにはなかったはず…」
「よく見たらこれ、宝箱じゃねーか?」
見るからに怪しいのだが、中身を確認する他はない。
カギはかかっておらず、箱の蓋は簡単に開いた。
入っていたのは、オレンジ色の中華風の服を着、頭にはクジャクの羽がついたヘルメットを被った美女だ。うつ伏せの状態でアザラシのように体を限界まで反らしている。
人間が折り畳むように入っていたのだ。一度見れば誰もがあとずさるほど仰天するだろう。
顔を上げた女―――ルルアンが妖しく笑う。
「アチャー、見つかっちゃった」
数分後、背骨や肋骨をへし折られて気を失ったクルー達が床に転がっていた。
「アチャー、どいつもしなりが足りないね!」
ルルアンは腰を反らして頭を床につけ、嘲笑する。
その頃、ビックトップ号の甲板には半数のクルー達が集まっていた。
モージとカバジがバギーから事情を聴いている間、リッチーはテントの後ろで大きなおにぎりを食べていた。
「しかし、バギー船長…、半年前に“アクターズ”に襲撃されたのなら、奴ら財宝を奪われてるはずじゃ…」
カバジが指摘すると、バギーは「そこは心配するな」と悪い顔して声を潜める。
「奴らだって金目の物がないのは不安だろう…。おそらく、この島の連中からたんまり奪ってるはずだ…。それをおれ達がハデに横取りしてやろうじゃねェか」
「なるほど! さすが船長! 考えが小賢しい!」
モージは褒めたつもりだったが、バギーに頭を殴られた。
少し離れたところで、ルビーの傍にいるトランはその様子を怪訝な目で眺めている。
「……あいつら何の話してんだ?」
「んー? トランは聞かなくていいよー」
むしろ聞かせない方がいいことだ。
ルビーは夜食のおにぎりを頬張りながら、「そういえばアル姉は?」と近くにいたクルーに話しかける。
「寝てると思うぞ。起こすと金棒で撲られそうで…」
一度経験している言い方だ。身震いしている。
「まー、急に決まったことだからね…」
肩を竦めると同時に、おにぎりを食べきったルビーはトランを見下ろした。
「トラン、ザッギ海賊団ってどこを本拠地にしてるの? まさかキーポートタウンを根城にしてるわけじゃないでしょ?」
「……あそこだよ」
トランが指さした方角は北にある岩山だった。
外壁のところどころに大きな穴が空いていて、まるでオカリナのようだ。
「あの山の裏手に回り込むと入り江があるんだ…。島の町の人間は脅されて、夜は…そこにある海賊船の修理をさせられているんだ…」
「……なるほどね。そういえば、半年前に半壊させられたんだっけ…」
海賊船は、見るも無残な姿だっただろう。
遠くへ船出することも叶わず、怪我人ばかりのクルー達だけでは船大工がいても修理はほとんど出来なかったはずだ。
たまたま近くにあったこの島に上陸し、もう一度船出するためには、海軍を呼ばれないように上手く脅し、見張りも配置して手伝わせるしかない。
島の人間達はどこか疲れきっていて、寝不足で目の下に隈がある者もいた。
逆らったり、十分な仕事ができなければ、フルットの父親のように暴力を振るわれる。
店や工房には女性の姿をほとんど見かけなかった。どこかに囚われ、脅しのネタにされているのだろう。
想像したルビーの目が据わる。
「中途半端なことするから…」
「…っ!?」
呟いた独り言にはわずかな怒気が含まれていた。
傍にいたトランは思わず一歩離れる。
「ルビー! 本陣はどこだって?」
そこでバギーが声をかけてきた。
ルビーはトランの真似をして岩山を指さす。
「あの岩山の裏手だってさ。入り江があるからそこをアジトにしてるらしいよ」
「よォし!! 行くぞォ―――ッ!!」
バギーが号令をかけると、船が進みだした。
「ね、ねェ!」
そこでトランは不安げな調子でルビーの右手首を握り、声をかける。
「できれば…、岩山を傷つけないで…」
「? あんなに穴だらけなのに?」
「あの穴は父ちゃんが空けたんだ…! ……リコのために…!」
「リコって…。トラン、何であの時…リコに石を投げたの…? リコと何が……」
「あいつはリコじゃない!!!」
トランがそう声を張り上げた瞬間、
「ピュロ!!」
海面から大きくジャンプしたリコが、甲板に飛び乗った。
着地場所は、バギーのすぐ後ろだ。
「おおっ。リコ! どうした…」
振り返ったバギーが声をかける同時に、リコは大口を開けてバギーの脚を咥えた。
「は?」
リコの動きは素早かった。
バギーを捕まえるやいなや、すぐに尾を弾いて海へと飛び込んだ。
甲板にいた者は、ルビーを含めて何が起きたのかすぐには理解できなかった。
「バ…、バギ――――ッ!!?」
叫んで甲板の欄干に慌てて走ったのはルビーだ。
「「「「「バギー船長――――ッッ!!?」」」」」
それをきっかけにモージ、カバジ、他のクルー達もあとに続いた。
「ギャアアアアア~~~~~!!!」
バギーの叫び声が遠のいていく。
足を咥えられているのでバラバラになって脱出もできず、岩山へ向かって真っすぐに泳ぐリコの頭部に必死にしがみつくしかなかった。
「あいつ何のつもり…」
襲撃してきたセイウチよりリコの方が速い。
「赤鱗(グルナ)!!」
欄干に飛び乗ったルビーが脚を人魚に変えて追いかけようとした時だ。
銃声が聞こえた。
「!!?」
船のすぐ近くだった。
その場にいた全員が急いで反対の欄干に移動して顔を出すと、中華風の服を着た男達が松明を手に、こちらにやってくる。
ザッギ海賊団のクルー達だ。
ブゥゥ――――ン…
強い風が吹き、岩山からあの音が鳴り響く。
今は、開戦の合図のように聴こえた。
.To be continued