09:大根役者
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夕方が近づいてきた頃だ。
上陸組のバギー海賊団がキーポートタウンの港に集まる。
荷車に載せた主に必要な物資は大方揃っていた。
あとはログが溜まるまで滞在する予定だったのだが、宿を探しているクルーが戻ると、告げられたのは望まない報告だった。
「ハァ!? 宿がまったくとれねェだと!!?」
声を荒げるバギーに、クルーは委縮しながら「はい…」と肩を落とした。
「こっちもだめでした。満室だから部屋が貸せないと」
別の場所で宿を取ろうとして戻ってきたクルーも報告する。
「どこの宿も満室になるほどのイベントがあるって話は、全然聞かなかったけどな」とモージ。
「むしろあるものだと思われてる側だけどな」とモージを背中に乗せているリッチーを指さすカバジ。
「またかよ…。ハデにどうなってやがんだ!?」
観光地でもあるので宿が少ないわけではない。
「ガラが悪そうだから、遠回しに断られてるとか…」
そう言い出したカバジに「バカ言ってんじゃないよ」と横から嚙みついたのは、明らかに不機嫌なアルビダだった。
「このアタシでも断られたんだよ?」
絶世の美女のアルビダでも断られるのは確かにおかしな話なのだ。
「確かにそれはおかしい」と誰もが納得する。
もしかして、とルビーは頭に浮かべたことを口にした。
「……あたし達だけじゃなくて、島にやってきた人が全員宿泊を断られてるのかも」
「は?」
ルビーの矛盾を思わせる一言にバギーは片眉を吊り上げる。
「何言って…」
「通行人が何人も「宿が取れなかった」ってぼやいていたけど、逆に、「宿が取れた」って言ってた人…ひとりもいなかった」
「……………!!!」
それを聞いてバギーも、見えない気持ち悪さを感じ取った。
他のクルー達も寒気を覚えずにはいられない。
「た、確かに、町の人間に話を聞いたら、せっかく来たのに、早朝からもう予約でいっぱいだって聞いた…」
「おれもそれっぽいこと言われたな…」
「宿の主人に他に泊まれるような宿がないか聞いても、凄んでも、首を横に振られるだけだ。気味が悪かったぜ」
今日を振り返って口々に言うクルー達に、バギーは危機感を覚えて頭を掻きながら内心で舌を打つ。
(クソ…!! 日が出てる間はあんなに騒がしかったのに、急に寒気がしてきやがった…!!)
「……………」
バギーの胸騒ぎを察したルビーも、これ以上長居するのは良くない気がする、と表情に出す。
キーポートタウンに何かが起こっているのだろう、と好奇心は湧くのだが、バギー達が危険に晒される事態になるのなら撤退したほうが賢明だ。
「バギー…せんちょ、ログはどれくらいで溜まりそう?」
「この島のログは1週間はかかるらしい! 1日でこれだと先が思いやられるぜ…。脅せばどうとでもなるだろうが、面倒ごとの匂いがプンプンしやがる! すぐにでも海に出た方が良さそうだ…! どこかで多少値が張ってもエターナルポースでも仕入れてくるしかねェか…!」
夕方のキーポートタウンの店はほとんど閉まっているせいか、嘘のように静まり返り、不気味さが増している。停泊していた船も、半分以上がすでに出港していた。
店が開いてないのならエターナルポースも買えやしない。
「誰か仕入れてねェのかよ!?」
バギーはルビーが引く荷車に飛び乗り、小物類が入った箱を漁りだした。
誰も買ってないよな、とクルー達は互いに顔を見合わせる。
このままだと、明日、日がある内に出直そうと決めて一度ビックトップ号に戻ろうと考えた時だ。
「ピュロッ!」
「! …リコ?」
ルビーが鳴き声が聴こえた方向に顔を向けると、港の奥にある桟橋に、海に向かって何かを投げつける子どもの姿が見える。
瞬時に何をしているのか察したルビーは、バギーが乗ったままの荷車を引きながらそちらへ走った。
突然のルビーの行動にバギーは「うわ!?」と驚き、崩れそうな荷物を咄嗟に両手で押さえる。
気にせず足を止める様子のないルビーに、首を切り離してルビーの耳元に声をかけた。
「おい! ルビー! てめェはまたどこ行くんだ!!?」
「リコがいじめられてる!」
「何ィ!?」
置いて行かれたカバジ、モージ、リッチー、アルビダ、そして他のクルー達は茫然とした顔で、猛スピードで走るルビーとそれに巻き込まれるバギーを眺めていた。
「バギー船長~~~!!」
「見習い~~~!!」
「ルビーちゃ~~~ん!!」
クルー達が大声で呼ぶが、もうすでに豆粒となっている。
アルビダは呆れてため息をついた。
「まったく…面倒が好きだねェ…。アタシは船に戻るよ」
「あ! アルビダ姉さん!」
「……どうする?」
「……おれ達も一度戻るか。この荷物だし…」
船長と見習いのことは気がかりだが、先に船へ向かったアルビダにクルー達はついていく。
それとすれ違いに、3人の子ども達が港の奥へと急いでいた。
港の奥にある桟橋付近の海面から顔を出したリコは、トランに小石を投げられていた。
「島から出てけ!」
「ピュロッ…!」
トランは怒声を上げながらリコに向かって何度も小石を投げ、的外れな小石はリコのすぐ傍に落ちた。
リコはそのたびに怯む動作を見せるが、そこから移動しようとしない。
「お前のせいで父ちゃんがケガしたんだぞ!! 出てけよ!!」
「ピ…ッ」
トランが今度は一回り大きな石を拾い、リコにぶつけようとする。
その振りかぶった腕を後ろから片手でつかんだのは、ルビーだった。
「!!?」
トランは驚いて肩越しに振り返り、鋭く赤い両目を見た瞬間、思わず握りしめていた石を落とす。
「何もされてないのに石投げるなっ!! 最悪に痛いんだぞ!!」
トランが声を出す前に、ルビーは声を荒げた。
少し離れた場所に置かれた荷車から降りるバギーは、ルビーの乱暴な物言いとその様子に目を見開いていた。
「う…ッ」
手を離されたトランは、小さく呻いて尻もちをつき、涙を浮かべる。
それを見たルビーは、込み上げる苛立ちを吐き出すようにため息をついた。
「石ぶつけられる方が泣くんだけど…」
「赤目の…」
「え?」
怖くて泣いているわけではなかった。
「トラン―――ッ!!」
そこへ、こちらに走ってくる3つの影があった。
慌ただしく自分の横を通過する小さな集団に、バギーは「なんだァ?」と首を傾げる。
「トラン!! 見つけたよ!! 赤目の海賊!! あーっ!! そうそうその人その人!!」とおさげの少女。
「ト…!! さ…!! ひ…!!」と広場で出会ったフルット。トランさっき広場で見た、と言いたい様子だ。
「落ち着けフルット」と誰よりも冷静に声をかけるのは、この場に集まった子ども達の中で一番背が高く、色黒で、白黒ストライプのシャツを着た少年だった。
「ポルン、フルット、ザクス!」
トランは涙を手の甲で拭い、目を丸くして駆けつける友人たちを見る。
「お前ら! 一斉に来るんじゃねェよ! 今何時だと思ってんだ!!」
「棚上げしてんじゃねェ」
「そうよそうよ! トランだって勝手に抜け出してるくせに!」
「ひ…ッッ!!」
人の事言えるのか、と言いたげなフルットだったが、いまだに言葉が詰まる。
「……えーと…」
どこからつっこもうか考えるルビーだったが、戸惑っている間に子ども達に囲まれてしまった。
「おねーさんおねーさん!! トランは悪い子じゃないの!!」と泣き出しそうなポルン。
「気に障ったことしたなら謝る」と大人びた雰囲気で声をかけるザクス。
「み…ッッ!! 見逃し…て…ッッ」と声を絞り出すフルット。
「勝手なことすんな!!」とザクスの裾を引っ張るトラン。
「あ―――もう!! 何なの!?」
「ガキに翻弄されとる…」
自分の腰くらいの子どもに囲まれて困惑しているルビーの様子を、バギーは物珍し気な光景を眺めながらそちらに近づいた。
海を見ると、目が合ったリコが嬉しそうに海面を飛んでいる。
「何でこんなところに来てんだ! 船に戻ってろ!」
バギーが声をかけると、リコは小さく鳴いてから海に潜って移動した。
トランが忌々し気にそれを睨み、ルビーを責める。
「お前らが連れてきたのかよ!!」
「連れてこられたんだけど…。……知ってるシャチなの?」
「……………」
トランは一度黙り込み、「そんなことより…」と話題を変えた。
「お前、海賊か?」
「……見習いだけどね」
「「「「!!!」」」」
子ども達の顔が同時にぱっと輝いた。
「ほらほら!「見習い」だって! トラン! やっぱり探してた人だよ!」
「あ…ッ!! か…ッ!! み…ッ!!」
赤目の海賊見習い、と言いたいフルット。
「じゃあ、あいつも海賊なのか?」
ザクスの言葉に、トラン達はバギーに注目した。
バギーは少し戸惑いながら「何だよ」と軽く睨む。
トランは「まさか」と小さく噴き出した。
「あんな面白い赤ハふぶっ」
言い切る前に後ろからトランの口を片手で塞ぐルビー。
「大砲撃ち込まれたいのかなー?」
子どもだろうが容赦しないのは理解していた。
「そいつらなんだって?」
聞き捨てならないことを言おうとしたのを察したのか、バギーがわずかに殺気立っている。
「何でもないけど、あたしのこと知ってるっぽくて…。……いや何で?」
改めて疑問に思ったルビー。
口から手を離されたトランがたどたどしく話す。
「す…、数カ月前に…、変な奴が来たんだ…。「赤目の海賊」がこの島に来たら…、渡してほしい物があるって…」
ルビーは嫌な予感を覚えて目を細めた。
大きく間をおいて「…………どんな奴?」と絞り出すように尋ねる。
「いかにも怪しかったよ。外套着てて、顔に青色の仮面をつけた奴で…っておいおいどこ行くんだよ!!?」
相手の特徴を耳にしただけで、ルビーはトラン達の輪の中から抜け出してバギーの元へと向かい、その背中を押して促した。
「せんちょ、船に戻ろ。リコも離れたし」
「突然どうしたんだ…!?」
「話の途中じゃねェのか」とバギーが喚いてもルビーは「いーから」と歩みを止めない。早くこの場から撤退したい様子だ。
トラン達は急いでルビーとバギーの前に回り込んで通せんぼした。
「待ってくれよ!! コレ! あんたにとって必要な物じゃねェのか!?」
トランが懐から取り出したのは、エターナルポースだった。
「エターナルポース!?」
今一番欲しかった物に飛びつきそうになるバギーだが、ルビーは「これはダメ!!」とぴしゃりと言ってバギーの服をつかんで引き止める。
ルビーの態度は冷ややかだ。潰れた毛虫を見せられたかのような嫌悪感丸出し顔でエターナルポースを見下ろした。
「……“あいつ”が親切心で渡すはずないって…。こっちがちょうど欲しいと思ってたタイミングで見つかるなんて、余計に胡散臭いっての!」
(((((うわァ。めっちゃ嫌そう…っ!!!)))))
予想外の反応に戸惑ったのはトラン達の方だった。
(知り合いなのかもしれねェが、こいつがハデに嫌う“あいつ”って何者だ!?)
クルー達に対してもいつも愛嬌の良いルビーの顔がこれほど歪むのだ。バギーも戸惑いを隠せない。
そこでトランは、「あ」と思い出す。
あの男は自身の口元に人差し指を当てながら言っていた。
『おれのことは話さない方がいいよ。絶っ対機嫌悪くするから、海賊ファンの親切で優しそうなお姉さんから預かった、ってウソついときな☆』
(ウソつけって言われてた~~~~っ!!)
しまった、と頭を抱えるトラン。
しかしどちらにしても適当すぎる嘘なのだ。
「明日また町で別のエターナルポース買いに来ようよ。町に行くのが嫌なら、せんちょが船に残ってあたしだけでも町に買い出しに行くからさ」
バギーを説得しつつ、近くに置いていた荷車の取っ手を片手でつかんで引っ張るルビー。
誰が見てもただの女でないことはわかる。
「ま、待って…」
トランは弱々しくルビーの背中に手を伸ばした。
溺れかけてたところへ投げられたはずの浮き輪が横から取り上げられた気分だった。
ポルン、ザクス、フルットの3人も似た表情だ。
「ねェ、助け…」
消え入りそうな声に反応したルビーが肩越しに振り返ろうとした時だった。
「おい」
「「「「!!?」」」」
ルビーとバギーの前に、険しい顔をした4人の大人の男達が並んで現れた。
工房用のエプロンをかけ、楽器職人の身なりをしている。
ルビーが工房で覗いた、ヴァイオリン職人の傍に佇んでいた男もいた。
「何やってるんだ、こんなところで」
「門限はとっくに過ぎてるぞ」
「うろうろするな、ガキ共!!」
威圧的な雰囲気だ。最後のひとりの声が不必要なほど大きく、ルビーは耳に不快感を覚える。
トラン達の表情が一気に強張り、先程の煩わしいほど騒がしかった空気も萎んでいた。
「? あんたら何だ? 観光客か?」
最初に「おい」と声をかけた男がルビーとバギーに目をつける。派手な見た目のせいか、怪訝な顔をされた。
バギーが「おれ達は…」と言いかけたところで、ああ、と門限を口にしていた男が指さす。
「あ。ライオン連れてた奴らだ。大道芸人でもやってるのか?」
「あ、ああ、ま~、そんなところだ」
さすがに今のタイミングで「海賊だ」と言えば騒ぎになる。
そう判断したバギーに続いて、ルビーは愛想笑いを浮かべて言葉を合わせた。
「最高なイベント会場を探してたんだけど、なかなか場所もとれない上に、どこの宿もいっぱいみたいだし、そろそろ今から引き上げよっかなって。こんな恰好だから子ども達に見つかって色々聞かれてたところなの。……で、おじさん達はこの子たちの親?」
自然な流れで質問を投げたところ、「そうだ」とあっさり返される。
「店が閉まる時間帯に子どもだけがうろつくのは危ないからな」
「人身売買の商人だって最近増えて困ってるんだ。こんな時間の港なんて格好の餌食だぜ」
「アンタらがただの観光客なら良かった。おっと、芸人さんだったな! 大荷物で大変だったろうに!」
「がははは」と一番声の大きい男がルビーの肩を軽く叩いた。
「はは………」
苦笑するルビーは、肩に置かれた手を一瞥したあと、「じゃあ、あたし達はこれで…」と挨拶してからバギーと目を合わせる。
「……そうだな。行くか」
「じゃあね」
荷車を引いて歩きだしたルビーに、トランは「あ…」と何かを言いかけた。
それを遮るように、男達は子ども達の前に立つ。
「帰るぞ」
「………はい…」
トランはエターナルポースを懐に隠し、諦めてポルン達と共に男達について行った。
ポルンとフルットが今にも泣きだしそうだったが、ザクスもぐっと唇を噛みしめて2人の背中を優しく撫でる。
ブゥゥ―――ン…
あの音が聞こえた。
気分を一層沈める、悲しい音だった。
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