09:大根役者
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
バギー達がやってきたのは、モニカ島の南にある港町・キーポートタウンだ。
港には商人の貿易船や一般の船が停泊していた。
ここに海賊船が停泊していれば騒ぎになっているだろう。隠しておいて正解だ。
町の大通りを通れば人々で賑わい、小さな露店にはハーモニカ、笛、カスタネットなど、子どもでも買える値段の小型の楽器が並べられ、建ち並ぶ工房からは楽器の出来を確かめる音や、楽器作りの金属音や木を削る音が聞こえる。
工房に併設された店には、出来上がった楽器が並べられ、店主が「うちの楽器がこの海で一番いい音を出すよ」と客引きしていた。
ルビーは目についた露店を覗いては、手に取り、実際に音を鳴らして楽しんだ。
バギーは、遠慮なく視界の端をうろうろとするルビーに「遊ぶな!」と叱る。
それに対して口を尖らせるルビーは、たまたま手に取っていたカスタネットをカチカチと鳴らして返事を返す。
「カスタネットで不満げに返事してんじゃねェ…」と呆れるバギー。
露店から離れたルビーの次の目に留まったのは工房だ。
工房のほとんどは職人の作業が見やすいように、大きなガラスが張られてある。
ルビーはわくわくした表情で中を覗く。
「……………?」
違和感を覚えたのは、中でバイオリンを作る職人の表情が、集中しているというよりは疲労感が浮き出ていたからだ。眠っていないのか、目の下には濃い隈がある。
バイオリンの弦を張る指は小さく震えていた。
同じような服装で隣に立つ男は心配する素振りも見せず、ただじっと腕を組んで職人を見下ろすだけだ。
ふと、職人の視線が窓越しのルビーを見る。何か言いたげに口を開こうとしたが、すぐに目を逸らして作業に集中した。
「ルビー!!」
不意にバギーに声をかけられ、振り返る。
「いい加減こっち手伝え!! 食材と酒運び!!」
バギーは食材と酒を多く載せた荷車を軽く叩いた。
そうしている間も、次々にクルー達が買い出しの追加を荷車に載せていく様子に、ルビーは当たり前みたいに力仕事要員となっている自身に小さくため息をつく。
「りょーかい、せんちょ…」
どこか後ろ髪を引かれる部分はあったが、ルビーは踵を返してバギーのもとへ行く。
その際、細い路地の前を通過した。
「……………」
遅れてその路地からひょっこりと、♪の模様が連なる黄色のワンピースを着た茶髪でおさげの少女が顔を出す。
目で追っているのはルビーの背中だ。
「あ…、赤い目…だった…。あの女の人…、海賊…?」
意外そうに凝視し、興奮で身体が震えている。
「もうっ、バギーせんちょ、最悪に人使い荒い!」
腰に手を当ててバギーに文句を言うルビー。
せっせと荷車に物資を積んでいくクルー達は「また始まった」「おれ達でも口にしないのに」とその様子を見守っている。
バギーは「船長に口答えたァ、ハデにいい度胸しやがる…」と青筋を浮かべ、ルビーの頭に軽くチョップを食らわせた。
「見習いのくせに文句言ってんじゃねェよ! あと前々から思ってたがお前のその「せんちょ」の言い方、バカにされてる気がしてムカつくんだよ!」
「い、だ、だ、だっ」
切り離された右手がしつこくチョップしてくるのでルビーは「せんちょーやめてー」と両手で頭をガードする。
「!!!!!」
会話を聞いていたおさげの少女は口をあんぐりと開け、思わずたじろいだ。
「み…!!!」
思ったより大きな自身の声に慌て、両手で口を塞ぐ。
「見習いって言った…!!」
こうしてはいられない、と路地の奥へと走り出した。
「トラン―――ッ!! みんなァ――――ッ!!!」
「…?」
何かを察知したルビーは振り返り、なんだろう、と首を傾げる。
クルー達が歯を食いしばりながら2・3人係で重い荷車を引いている傍で、たったひとりで別の荷車を引くルビーの顔は涼し気だった。他よりも荷物が多いというのに。
気にせず、周りを見回す余裕もある。
何も荷車を引いているのはバギー海賊団だけではない。
商人も、店で買った楽器を荷車に載せて部下に運ばせているのだ。
意外と目立たないものである。
「うわ、凄い! ライオンがいる!」
「サーカスでもあるのかしら…」
「ガウ…」
リッチーは別だが。
ルビーは、あれ、と気付いたことがあった。
休業中の店が何軒か見当たり、工房の窓もわざわざカーテンで中が窺えないように隠されている。
「休みとは、楽しみに来たのに残念だ」、「フォニアムさんの楽器を買う予定だったのに怪我なんてな…」、「宿もいっぱいだとよ」、「楽器の質も落ちた気がするし、がっかりだ…」、「急に商談を断るなんて…」。
よそから来た通行人の声を拾い、ルビーは「やっぱり何かおかしいんだ…」と呟いた。
ド~♪
「え!?」
急に足下から聞こえた音に立ち止まる。
いつの間にか大通りを抜けて町の中心部であるグイター広場に来ていた。
広場の石畳の床には鍵盤の模様が描かれ、ルビーがもう一度同じところを踏むと、ド~♪とピアノの音が鳴った。
次を踏むと、レ~♪と続く。
ルビーは「あはっ」と笑い、荷車を一度置いて鍵盤の床を踏み鳴らした。
それを見ていたクルー達も物珍し気に見たあと、ルビーに続いて鍵盤を踏み鳴らす。
「なんだこれ面白れー!」
「おい、こっちはギターみたいな音がするぞ!」
「こっちは木琴だ!」
広場の各所にあらゆる楽器の音を鳴らせる床があった。
リッチーも面白がってピアノの床を踏み鳴らす。眺めている誰もがピアノの上で遊びだすネコを想像した。
はしゃぎだしたルビーとクルー達に、バギーは「ガキかお前ら!!」と呆れた。
ルビーは、近くでこちらを眺める、オカリナ専門の露店の店主に「これ面白いね!」と声をかける。
どこか疲れた顔をした天然パーマの中年の店主は小さく笑って「そんなに喜んでもらえるとは…」と首を掻き、「フォニアムさんが作ったんだ」と言葉を継いだ。
「フォニアムさん…?」
大通りでもその名前を何回か耳にした。
「この町じゃ、有名な職人だよ。あらゆる物を楽器にしてしまう。彼に作れない楽器はない。……20年以上前、当時の世界的有名な歌姫と音楽家に、彼のピアノが使われたんだ。おれもその演奏を聴いたことがあってね。体が震えるほどの素晴らしい音色だった…。世界中に知れ渡ったことがきっかけでこの町に腕の立つ職人がどんどん集まったんだよ」
「へー…」
どんな音色だったのか、ルビーは興味が湧く。
「あ…、でも、その人…、今ケガしてるって聞いた…」
その言葉に、微かに店主の肩が震え、ルビーから視線を逸らした。
「そ…、そうなんだよ…。町の顔でもあるのに…、みんな…心配してて……」
「ねェ、顔色悪いけど、大丈夫?」
顔を覗き込んでくるルビーに、店主は「ああ…」と小さく苦し気に返事を返すだけだ。
ふと、ルビーはシートに並べられたオカリナに目を留め、手に取った。
「これ…、口の部分の穴が空いてない…」
作る際にミスをしたのだろう。
ルビーは試しに別のオカリナを吹いてみる。音は出るものの、どこかお粗末だ。
職人らしい手をしているのに、と店主の手を見つめると、店主が片膝をついた。
「ちょっと…っ」
「ごめんごめん…。最近眠れなくて…」
引きつった笑みを浮かべ、心配するルビーを手で制し、店主は「あはは…」とゆっくりと立ち上がって首を掻く。
「!」
ルビーは店主の首に殴られたような痣があることに気付いた。
「その傷…」
「パパ!」
指摘しようとすると、ルビーの横を小さな影が走り抜け、店主に駆け寄る。
「フルット…」
天然パーマの髪型に、少しふくよかな少年―――フルット。
裾の長い白いシャツと、右肩から大きなベルトを斜め掛けにしている。
「パパ、寝てなきゃだめだよ…。店番ならぼくがするから…」
「ごめんなァ…」
店主は困ったように笑ってフルットの頭を優しく撫でるが、フルットは顔をくしゃくしゃにしかめるだけだ。
「あ…!!」
そこでフルットはルビーの存在に気付き、目が合った瞬間思わず声を上げた。
「え?」
「ど、どうした? フルット…?」
「パ……ッ!! か…ッッ!! きゅ…ッッ!!」
言葉が詰まりすぎて何を言っているのかわからない。
「お、落ち着け、なんでお前はいつも慌てるとそうなる…」
「ど…、どうしたの?」
ルビーも困惑して話を聞こうとしたが、
「“バラバラパーンチッッ”!!」
ゴンッ!!
「!!?」
後方から飛んできたバギーのコブシに頭をどつかれた。
「いつまでサボッとんじゃあああ見習いィィィ!!! 行くぞ!!!」
「あああぁぁ」
バギーの右手に後ろ首をつかまれ、本体までずるずると引きずられていくルビー。
バギーの右手を見ていない店主とフルットは、奇妙な動きで連れていかれるルビーを不思議そうに眺めていた。
.