08:じぇらしぃ
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セイウチは、その下に重ね着をしていたのだ。
ルビーに捕まった際に隙を見てセイウチの体から脱出した男は、今度は2mのペンギンの姿で海を泳いでいた。
頭部には黄色の冠羽があり、見た目はイワトビペンギンに近い。
その目には、セイウチの時に使用していたサングラスがかけてある。
(やれやれ、酷い目に遭ったペン…。あの赤いシャチの皮も欲しかったのに…、クソ!! ……でももうあの女と関わりたくないペン…)
未だにルビーへの恐怖が余韻として残っていた。
あの赤い目を思い出すだけで身震いが止まらなくなる。
(半年前も十分怖い目に遭ったけど、あの女とはいい勝負だ…。……あ~~~~。でもでも~~~やっぱり皮…欲しい…っ! シャチの皮って持ってないし…。手に入れるなら珍しい皮がいい…! せめて、あの船がおれ達のいる島についてくれたらなぁ…ペン)
赤シャチがもう一度目の前に現れたのなら、今度こそ逃がしはしない。
(今回のこと…、船長にも報告しておこうか悩むところだペン)
報告には、必死に逃げたことまで喋らならければならないので、億劫になるペンギン男だった。
*****
日が沈みかける頃、甲板は修復作業でクルー達が動き回っていた。
慌ただしそうな中、ルビーは、大きな桶に入れられたリコに声をかける。
「…リコ、大丈夫?」
「ピュロロ…」
ルビーの声に一瞬怯えるリコだったが、こちらを労わる優し気な顔を見て、少し落ち着いた様子だ。
「あのセイウチに追われてたの?」
「ピュー…」
「……そっか」
弱弱しい鳴き声を肯定と捉える。
ここに来るまでよほど怖い思いをしたのだろう。
体の小さな生傷もセイウチにつけられたか、逃げ惑う際に岩にぶつけたらしい。
さすがにルビーも同情する。
「ひとりだから不安だったでしょ…。群れとはぐれたの? …でも、名前のついたタグを持ってたから、人間と暮らしてた?」
首にかけられたタグ付きのネックレスに触れるルビー。
リコは嫌がる素振りも見せず、沈黙した。
「……………」
応えない代わりにじっとルビーの横顔を見つめ、意を決したリコは「ピュロッ」とルビーに声をかけ、自ら桶を飛び出して欄干まで移動する。
他のクルー達も何事かとリコの行動を見守った。
「リコ?」
リコはセイウチに破壊された欄干に近付き、もう一度ルビーに向かって鳴き声をかけてから海へと飛び込んだ。
逃げ出したのではないかと他のクルー達は騒ぎ、ルビーは呼ばれた気がして欄干に走り寄る。
少し間をおいて海面から顔を出したリコの口には、大きな魚が食わえられていた。
自分が食べるわけではない様子だ。
安堵したルビーは小さく笑って声をかける。
「みんなのごはん、捕まえてくれてるの?」
「ピュロッ」
「あたしも行く。魚捕り対決ね」
ルビーは両脚を人魚に変えて飛び込む。
すると、リコはルビーの傍に近付き、背中にすり寄った。
「ピュロロ」
「え? どうしたの?」
「ピュロッ」
先程まで船長室で休憩していたバギーは、騒ぎを聞きつけて欄干に近寄ってルビーとリコを見下ろした。
「なんだ、どうしたァ?」
「あ、せんちょ。リコがついてきてほしいって!」
「? そっちにお宝でもあるってのか?」
「!! ピュロロ!」
リコは立ち泳ぎをして返事を返す。
途端にバギーの目の色が変わった。
「よォしお前らァ!! リコに続けェェ!!」
「バギー船長が凄く元気だ…」
「おれ達ケガしてるからもうちょっと休みたいけど…」
「ゴチャゴチャぬかしてるとバギー玉をハデに食らわせるぞ!!!」
「「「はいィィィィ!!!」」」
面舵一杯。ビックトップ号はリコに案内されるまま、航路を進むのだった。
ブゥゥ―――ン…
水平線の向こうから、あの海鳴りが、再び聞こえた。
.To be continued