08:じぇらしぃ
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海面から飛び出してきたのは、ずんぐりとした胴体に立派な長いキバを持ち、威圧感のある尖ったサングラスをかけたセイウチだった。
ルビーは咄嗟に傍にいたアルビダをつかんで一緒に離れる。
3m以上あるひと際大きなセイウチが甲板に着地した。
船が激しく揺れるほどの衝撃だ。
突然の襲撃に船上は騒然となる。
「こ、今度はなんだァ!!?」
「バギー船長!! セイウチです!!」
「見ればわかるわァ!!!」
指さして当たり前のことを大声で叫ぶモージを殴ってつっこむバギー。
「ピ…ッ!!」
セイウチの姿を見たリコは激しく怯え、身体を震わせた。
「ど、どうしたリコ!?」
気付いたカバジが声をかけるが、バギー海賊団に囲まれた時よりリコの震えは大きい。
セイウチに対して相当なトラウマを植え付けられているのが伝わってくる。
「そのシャチを寄越せ…!! おれの獲物だ…!!」
セイウチはバギー達など眼中にない様子だ。
サングラス越しの鋭い目はリコを捉えている。
並々ならぬ執着心を感じさせた。
一変して緊迫した空気に、バギー海賊団は警戒心を露わにする。
「このセイウチ、言葉を喋るぞ!!?」
「だから何だってんだ!! リコを守れ!!」
「うおおおおお!!!」
「おれ達の食材になりやがれェェェェ!!」
クルー達が様々な己の武器を手に、セイウチに向かってまとめて躍りかかった。
「野生動物の前に、人間は無力ウッチー!!」
セイウチは声を上げて甲板に勢いよく手をついて構え、
「“海象振回(ウォールラスイング)”!!!」
遠心力を利用して振りかぶった巨体が、向かってくるクルー達を弾き飛ばした。
「「「うわあああああ!!!?」」」
吹っ飛ばされたクルー達が甲板を転がり、セイウチはリコに向かって猛進する。
その際も邪魔なクルーは容赦なくタンクのような巨体をぶつけて吹っ飛ばした。
「モージ!! カバジ!!」
リコの傍にはバギー、モージ、カバジがいる。
向かってくるセイウチから目を離さずバギーが声を上げると、モージは鞭を、カバジは口から剣を取り出して一歩踏み出し、身構えた。
「やるしかないか…!」
「リッチー! あれ!? リッチー!?」
辺りを見回してもリッチーの姿が見えず、モージは慌てる。
離れたところで、「ヤキモチやいて船の中!!」とルビーが教えた。
「鬱陶しいハエ共だウッチー!!」
一度静止したセイウチが身体を雑巾を絞るように限界まで捻った。
それを見たルビーはアルビダから離れてモージ・カバジに向かって走り出す。
「“海象回転弾(ウォールライフル)”!!」
セイウチの巨体が弾かれたように飛んだ。
それはまるで弾丸だ。
回転をつけたセイウチが突っ込んでくる。
「「う…っ!?」」
目の前に迫る巨体の圧力に、モージとカバジは力技では反撃できないと察した。大怪我は免れない。
同時に、2人の間に割って入ったのは、ルビーだ。
両腕を広げ、モージとカバジを両サイドに軽く突き飛ばす。
「「!!?」」
驚いた2人が甲板の床に身体を付ける前に、先程いた位置に無理やり入ってきたルビーの体がセイウチにぶつかり、後方へ大きく吹っ飛ばされた。
バキャァッッ!!
ルビーの華奢な体は、船内へ続く、赤白の縦縞模様のテントをぶち抜く。
「ルビー!!」
「「ルビー―――!!!」」
バギーと、助けられたモージとカバジが叫んだ。
クルー達はすっかり怖気づいている。
「フゥ…。やっと大人しくなったウッチー…」
ルビーに気を取られたバギーは、いつの間にか目の前にいるセイウチに、「ひっ」と身体を硬直させた。
「ピ…ッ、ピ…ッ」
バギーのすぐ後ろには、恐怖のあまりうまく鳴くことができないリコがいた。
せめて大砲があれば、と後悔するバギーに邪心が生まれる。
今、リコを差し出せば見逃してもらえるのではないかと。
しかし思いついたはいいものの、セイウチはすでに右手を振り上げていた。
「はっ…!!?」
「お前邪魔だウッチー」
「ちょっと待…っっ!!」
バギーは、内心で「終わった」と諦めた。
とんでもない力で横に吹っ飛ばされる自身が瞼に浮かんだ時だ。
「っっ!!?」
「ピ…!?」
突如セイウチの顔が真っ青に強張り、フリーズした。
リコもただならぬ空気を肌で感じ取り、セイウチへの意識がどこかへ飛ぶ。
見開かれたセイウチの視線が、バギー越しのテントに移った。
破れたテントの向こうから、2つの赤い眼が冷たく睨んでいる。
目が合った瞬間、ゾワッ、とセイウチは命の危機を覚えるほどの悪寒に襲われた。
「ひぃ…っっ!!?」
猛スピードでたじろいだセイウチは、己の防衛本能に従い、船の欄干をへし折って海へと飛び込み、一目散に逃走する。
「な、何だ…?」
殺されそうになったバギーはセイウチの行動が理解できなかった。
(おれにびびって逃げた…とか?)
まさかそんな、と考えた時だ。
「待ちなよ…」
静かにバギーの横を通過したルビーは、服が汚れただけでほとんど無傷だった。
頭に被ったバンダナに付着した木くずや埃を払い落としながら、セイウチが逃げ去った際に破壊された欄干に近付き、海面を見下ろしてニヤリと口角を上げる。
「あたしと競争? 最高に笑える」
両脚を人魚に変え、海へと飛び込んだ。
その間も、セイウチは死に物狂いで泳ぎ、逃げていた。
(やばいやばいやばいやばいやばいやばい!!! この体の本能が警告してやがる!!! もしあのピエロに手を出してたら、おれが喰われ…―――!!!)
「最低。海賊に随分な挨拶しといてタダで帰るつもり?」
(いやああああああ!!!??)
セイウチの目玉と舌が飛び出す。
距離を離したつもりが、いつの間にかすぐ背後まで人魚姿のルビーが迫っていた。
決して獲物を逃がさない意思を宿した猛獣の目だ。
(来ないでえええええええ!!!!)
サメに狙われた小魚の如くセイウチは泡を食いながら必死に泳ぐが、ルビーの手がセイウチの右足をつかんだ。
「つかまえた」
「!!!!!」
セイウチの口から悲鳴と共に空気がゴボゴボと吐き出された。
*****
バギー海賊団は、怪我をしたクルーを治療しながらルビーの帰りを待っていた。
「あいつ、わざわざ追いかけなくても…」
バギーは「もう厄介ごとはこりごりだ」とルビーが手ぶらで帰ってくることを祈る。
「あんたねェ…。これだけムチャクチャされておいて…」
もっと憤慨してもいいのに、とアルビダが呆れた時だった。
「ただいまーっ」
海面から飛び出したルビーは右手につかんだものと一緒に甲板に戻った。
「つかまえたー」
「「ルビー! おれがいつ捕まえてこいっつった!? 戻し…ぎゃあああああ!!!??」
悲鳴を上げたのはバギーだけではなかった。
クルー達も両腕をバンザイして仰天する。
ルビーの右手には、セイウチの皮が丸々あったからだ。
「うわ!?」
それを見たルビーも驚いて思わず手放す。
「お前っ、ハデにムゴいこと…」
「違う違う違う!! 確かに急に軽くなったとは思ったけど、こんな最悪なことはさすがに……」
「ねェ、これ…、皮で作った着ぐるみみたいだけど…」
直接触って確認したアルビダがそう言った。
背中や腹部に細いチャックがあり、外側も内側も着やすいように加工がされてある。
「着ぐるみ……?」
「ホンモノが使われてるねェ…」
「え? じゃあ…、中身は?」
不思議そうに首を傾げるルビーに、「こっちが聞きたいわ」とつっこむ、腰を抜かしたバギーだった。
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