08:じぇらしぃ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ルビーは自身より大きな赤シャチをしがみついて捕まえ、海面から飛び出した勢いでビックトップ号の甲板に戻ってきた。
魚泥棒をしたところをルビーが追いかけて捕まえた様子だ。
通常シャチの色は白黒なのだが、このシャチは黒の部分がすべて赤である。
全長は3m近くあり、通常のシャチと比べるならば見た目はまだ子どもだ。
強面の海賊たちに囲まれた赤シャチは、観念したのか大人しいが、「ピュロロ…」と時折不安げな鳴き声を出している。
喉の周りにはほくろのような黒い小さな穴が点々とあった。
フルートの音色に似た鳴き声はそんな特殊な喉を通って鳴らしているようだ。
「ん? ちょっとケガしてる…?」
ルビーに会う前に何かあったのか、多少の生傷が見当たった。
「ハデに珍しい色のシャチだな。見たことがねェ」
バギーは興味津々に赤シャチを見下ろす。
「あたしも」
ルビーはそう言いながらバギーの隣に並んで前屈みになり、赤シャチのつるりとした額に軽く触れた。
ルビーの目を見た赤シャチはビクリと大きく震える。
同じタイミングでビクッと震えたバギーはルビーから一歩横に離れた。
「?」
急に慌てたように距離をとったバギーを目の端に捉え、ルビーは怪訝な視線を送る。
「シャチって魚じゃなくて肉になるのか?」とカバジに聞かれたモージは「哺乳類だからな」と答える。
モージの傍にいるリッチーは待ちきれなさそうに舌なめずりをしていた。
「ピュロ!?」
人間の言葉が理解できる赤シャチは、このままでは本気で食材にされると一気に焦り出す。
そこで、何かを閃き、口からコインの形をしたものを吐き出した。
「何だ…?」
甲板の床に音を立てて落ちたのは、金貨だ。
「金貨じゃねェか!?」
真っ先に飛びついたのはバギーだった。
「ピュロロ♪」
赤シャチは自慢げに口から何枚も吐き出す。
海で見つけたものをかき集めたものだ。他にも、真珠や小さな宝石も混ざっていた。
「あ」
その際、金貨以外に、少し錆びた銀色でタグ付きのネックレスが吐き出された。
ちょうど赤シャチの首にかけられるほどのチェーンの長さだ。
拾ったのはルビーだった。
タグには“RICO”と刻まれてある。
「……リコ…? って…あなたの名前…?」
「ピュロッ」
そうだ、と言いたげに返事をする赤シャチのリコ。
「リコか。……お前、海の中のお宝を見つけるの、得意なのか?」
含み笑いを浮かべながら質問するバギーに、リコは大きな尾を振って応えた。
「ピュロ~~♪ ピュロッ♪」
「……なァ、さっきから思ってたんだけどよォ」
「あ、ああ…」
「「「「「かわいい~~~~」」」」」
先程から見せるリコの可愛い仕草や懐っこい鳴き声にクルー達は我慢できずにデレデレのメロメロだ。
可愛さ以上に、その特技に対して露骨に悪い笑みを浮かべたのはバギーだ。
「よォし!! 今からこいつはバギー海賊団の一員だ!! 大事にしろ!! 間違っても食うなよ!!!」
腹の底から張り切った声を出せば、クルー達も賛成して雄たけびを上げ、今にも宴を始めそうな勢いだ。
食材にされる危機が去ってほっとしたリコは、周りのどんちゃん騒ぎに胸を躍らせる。
簡単に仲間に引き入れたことにアルビダとルビーは「決断が早い」とつっこみ、舌なめずりをしていたリッチーは「え。食べないの?」とショックな表情を浮かべていた。
モージは「シャチなら芸とかできるか?」と試しに人差し指をくるくるとリコに見せつける。
すると、指の動きに合わせてリコはくるくると回り出す。
「ピュロッ」
そして体を反らして決めポーズをした。
「!!! かわいいやつだな~!!」
モージもイチコロだ。
「よしよしいい子だ」とリコの頭を撫でまくる。
「ガウ…!!?」
自分以上にリコを可愛がる主人の姿を目の当たりにしたリッチーはさらに大きなショックを覚え、しょぼくれて船内に引きこもってしまう。
「ちょっとモー兄! リッチーが拗ねた!」
見兼ねたルビーは訴えるが、モージは聞いていない。完全にリコに夢中である。
カバジや他のクルー達がボールやコマを投げれば、リコは器用に鼻先にのせたり、お手玉の様に遊び、クルー達の心をつかんだ。
食糧危機だというのに、構わず捕れたばかりの魚をあげるクルーもいる。
バギーは食料を分け与えることも咎めず、リコの芸達者ぶりに大口を開けて笑っていた。
確かに可愛いとは思うのだが、どこか面白くないむくれた顔でルビーは船の欄干に座り、その光景を少し離れた場所で眺める。
「もう…。みんなして…。せんちょも、お宝が手に入りやすいからって簡単に引き込まなくても……」
「あんた、最初にバギーに取り入ろうとした時、似たようなアピールしてなかったかい?」
ルビーの呟きを聞いたアルビダが呆れ交じりに声をかけると、ルビーは「う…」と図星を疲れて苦しい声を漏らした。
人魚だから海底の財宝を無償で見つけてあげる、とバギーにとって都合の良いことを並べてあっさりと仲間に引き入れてもらったことを思い出す。
「…珍しい。ジェラシーかい?」
少し面白がっているアルビダの言葉にルビーは首を傾げた。
「…………じぇらしぃ?」
「……つまり…」
「いやいやわかるよ、アル姉。あたしだって嫉妬した経験あるし」
予想外の返しにアルビダは目を丸くする。
「? ……誰に?」
「誰にっ…て……」
ルビーの目が不自然に泳ぐ。
眉間にわずかに皴を寄せ、言いたくなさそうだ。
こんな表情もアルビダにとっては物珍しい。
ルビーは誤魔化すように咳払いし、バギーを指さしてアルビダに尋ねた。
「それより、魚捕りに行ってる間に、せんちょに何かあった? ちょっとあたしに対してよそよそしくない?」
「………。あんたって無駄にカンが働くタイプだねェ…。バギーはあんたと昔会ったことを思い出そうとしてたよ」
それを聞いたルビーはますますわけがわからない、と不満げな顔をする。
「……えっ? それで何でちょっと距離間が広がるの?」
「アタシが知るわけないだろ。あんたが昔、バギーに何かしたんじゃないのかい?」
「……………」
ルビーが返したのは沈黙だ。
目を伏せ、宙を見つめた。
(……まさか、黙るとは…。本当に何かしたってこと…?)
「……あんた達の間に何があったかは興味はないけど、ヘンにこじらせて面倒なことになるのはごめんだよ。……あんたの口から、昔、何があったのかバギーに教えてやった方がいいんじゃないのかい?」
「それはダメ!!!」
「!?」
思わず声を上げてしまい、ルビーははっとする。
バギーと他のクルー達も何事かとルビーに視線を一斉に集めた。
ルビーとバギーの目が合う。
こちらの様子を窺い、探るような視線を向けられた。
この状況は良くない、とルビーの額に汗が浮かぶ。
「……アル姉…、あたしは………」
ザバァッ!!!
「「「「「!!!??」」」」」
突然、ルビーの背後から大きな水しぶきが勢いよく上がった。
「見つけたウッチィ―――ッ!!!!」
.