08:じぇらしぃ
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ブゥゥ――――――ン…
「……海鳴りかな?」
昨夜から時折聞こえる海鳴りに、欄干に腰掛けるルビーは首を傾げた。
身体の奥まで響き渡る音なのだが、哀愁を纏った溜め息にも聴こえる。
「う―――…。なんて気が抜ける音なんだ…」
「おれ達はもうだめだ…」
「腹減った…」
ルビーの背後から聞こえるのは、甲板で力なく倒れたクルー達の呻き交じりの声だ。ついでに空腹の合唱も聞こえた。
「…ねえ! みんなそろそろやる気出してくんない!?」
ため息をつくルビーは覇気のないビックトップ号の面々にうんざりしていた。
「お前が酒を沈めたせいで…」
バギーもふらふらと甲板を歩いていた。
ルビーは「まーだ言ってる!」と呆れて肩をいからせながらバギーに近付き、言い分に納得がいかず捲し立てる。
「ちゃんと許可取りましたぁー。同じところに沈めてさらに美味しくなった頃に引き上げに来ようって言ったあたしの提案に賛成したのは、せんちょでしょ!」
「人が酔っぱらってる時に許可取ろうとすんのはハデにヒキョーだぞ!」
「いつまでも憑りつかれたように飲みまくってたから、いい加減止めたんですけど!? 毎朝毎晩、宴、宴、宴…。そりゃ、最悪に食料もなくなるって!! あと、誰が海に潜って食料採ってきてると思ってんの!? 今からせんちょが海に潜る!?」
「ぐう…っ」
ぐうの音は出ないようで出るようだ。
「正論だ…」
「めちゃくちゃ正論だ…」
「あいつ元気だな…」
「ルビーだけ酒は飲まなかったからな。おれ達がモチベーション上げるのはまだ少し時間がかかるぞ…」
近くで力尽きて転がっているモージとカバジは何も言わずにルビーの言い分を聞いていた。
味方になってあげたくなるほど真っ当なことを言っているのは確かだ。
至近距離で責め立てるルビーに対し、見習いに説教されるのは癪に障るバギーは「うるせーな!! わかってんだよ!!」と逆ギレして切り離した右手でルビーの顔にチョップを食らわせた。
ヴィンセントの酒はあえて2樽ほど残しておいたが、逆にもったいなくて誰も手をつけない。
バギーにとっては宝の部類には入るので、バギーもクルー達に制限をかけていた。バギーの許可なく手を出そうものならバギー玉の餌食である。
「次の島までどれくらいかかるの?」
「今日か、明日には着く予定なんだがな…。ともかく、今は船員の空腹をどうにかしたいところだ。ハデに起き上がれ野郎共ォ!!」
返事は呻き声と腹の虫しか返ってこない。
「……はぁ…。また魚でもとってくるよ」
「財宝があったらそれもとってこい」
「いちいち欲深いな!!」
つっこんでからルビーは魚捕り網をつかみ、サンダルを脱いで欄干に飛び乗り、両足を人魚に変えて海へと飛び込んだ。
「まだまだ先が思いやられる…」
ひとりごちりにながらルビーは食べられそうな魚を探し、泳ぐ魚をその目に捉えては俊敏な動きで接近して手づかみで捕まえ、魚捕り網の中に入れるを繰り返す。
できるだけ船から離れないように深く潜った時だった。
「!!」
目の端に、赤い何かが横切った。
それはまるで、ルビーが目に留める前から、逃げるような動きだ。
突然、ルビーの存在に気付いた赤い何かが水中で宙返りし、ルビーと向き合う形をとった。
「何!?」
赤い何かがルビーに向かって突進してきた。
唐突な行動に、ルビーはコブシを構える。
その頃、バギーはルビーが飛び込んだ海面を見下ろしながら、大きなため息をついていた。
思い出すのは、パッローネに激怒した時に見せたルビーの目だ。
それを見てしまったことで蘇った、遠い記憶の中の赤い目と重なった。
記憶の中の殺気立った瞳は、確かにこちらを睨んでいた。
(過去にあいつに会っていたとして…、昔のおれは何か恨まれるようなことをしたのか…?)
それにしては再会した時のルビーの反応は嬉しそうだった。
(こっちが忘れてるのをいいことに寝首搔こうってわけじゃねェだろうな…)
記憶の共有が出来ない分、生まれるのは疑心暗鬼だ。
ルビーの能力は利用できるが、未だになぜバギーの懐に潜り込んできたのかが理解できないまま、なあなあになっている。
見習いと言っても、他の海賊と戦闘できるほどの力量は持ち合わせているというのに。考えれば考えるほど謎だ。
ルビーに深く聞こうとしたところで「自力で思い出してよ」と跳ねのけられる。
(シャンクスは、ルビーのことを覚えてるのか…? あ…。ヤロウの顔思い出したらハデに腹立ってきた…!!)
最早、条件反射に近い、思い出し怒りだ。
「あんた、さっきから感情が顔に出てるよ」
見かねて声をかけたのはアルビダだ。
バギーは、そうか?と両手で顔を覆った。
「いつの間にかあいつもここに馴染んじまったが、未だに本当の目的ってのが見えてこねェんだよ」
「おや、見習いって名前の、海底財宝引き上げ要員ってことで落ち着いて、他はまったく気にしてないと思ってたのに…」
「おれだって正体がわからねェ奴には警戒するっつーの! あんだけ個性的な奴だぞ! 覚えてねーってのもおかしいんだよ! 過去のおれはハデアホか!?」
アルビダは、警戒?あれで?と日頃のバギーとルビーのお気楽ぶりを思い返す。
「考えられるのは、昔、ルビーに関わったことで、ショックなことでもあって忘れてるんじゃないのかい?」
「……記憶喪失ってことか? このおれが?」
「話を聞いてると、その部分だけすっぽ抜けてるように感じるけどねェ…」
「そんなこと……」
あっただろうか、と考えた時だ。
ザッパ―――ン!!
「返せコラァァァァ!!!」
「ピュロ―――ッ!!?」
「「!!!??」」
赤い何かと、それにしがみつくルビーが海面から飛び出した。
「赤い…シャチ!?」
アルビダは珍しい生き物に目を見開く。
赤いシャチの口には、ルビーが地道に捕まえた魚が入った魚捕り網があった。
それを取り返すためにルビーは必死の形相で赤いシャチにしがみついていた。
「…………!!!」
ルビーの顔見たバギーは思い出す。
『返せ―――!!!』
殺気立った瞳と共に、激高を露わに叫ぶ少女の声を。
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