07:もう一度、宴を
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煙を上げるパッローネの船をウーヴァ島に残し、見事、人質ともに取り返したビックトップ号は、夜のグランドラインを緩やかに航行している。
食材や他の宝も奪われることなく危機は脱出したものの、船上の空気は、夜の闇に勝るほどどんよりと重くなっていた。
「せっかくの宝が…」
「まさか割られちまうなんて…。あの舌バカが言ってたのは本当のことなのかよ…」
「うう…っ。おれ達を助けるために…」
ビックトップ号の上で宝だと思っていたワインボトルが割られてしまったため、今もワインボトルの破片や入っていた液体が黒い水たまりとなってそこにある。
少しの距離を空け、バギーとクルー達は頭を垂れてそれを囲んでいた。
まるで通夜だ。
船が沈まないか心配になるほどの重い空気が漂う中、呑気な声が上がる。
「宝ならあるよ」
「え!?」
全員が振り返った。
ルビーは、沈没船から見つけてきた酒だるをいくつか甲板の中央へと運んでくる。
「まさか…」
バギーは、ルビーに見せてもらったヴィンセントの手記を思い出した。
ルビーは酒だるを置いて頷く。
「うん。この酒だる」
全員が「ええええええ」と声を揃えた。
「これ、全部が宝だと!!?」とモージ。
「たとえそうだとしても、海にどれだけ沈んでたと思ってんだい! 木が腐って中が…」とアルビダ。
バギーははっとした。
酒だるをよく見る。
どの酒だるも、長い間海底にあったというのにまったく腐ってないのだ。
「…!! そうか…!! ヴィンセントは酒だるのコーティングの研究もしていたな! 何百年経っても破れず、余計な空気も入り込まないような…」
樽の形をした小屋もそうだった。
薄い透明な何かでコーティングされ、風雨による腐食を防いでいた。
「あの宝箱にみんなの目が行ってて気付かなかっただけ。伝説の酒造家の宝は、こんなにある! たくさんの人に飲んでもらうために!」
全部で30樽以上はある。
多すぎて注目されなかったのだ。
「よく考えてみたら、酒だるには赤文字でヴィンセントの「×」マークがあったのに、あの宝箱にはなかったからね」
「正解は初めから目に入ってたのかよ」
バギーは少し悔しい思いをした。
最初に気付いていれば、宝箱の方はさっさと同じく勘違いしていたパッローネに譲ってしまって舌を出してとんずらしてやればよかったのだ。
随分な回り道をしてしまった。
「グラスを持ってこい!」
クルー達にグラスを取りに行かせた。
もちろん人数分だ。
それから酒だるのひとつを横に倒し、栓を開け、蛇口が取りつけられる。
一番手は当然船長のバギーだ。
蛇口をひねると、赤黒い酒がグラスの中に注がれた。
「ハデに凄い色だな…」
パッローネの例もある。
最初に匂いを確認した。
「!!!??」
鼻から脳へ刺激が突き抜ける。
見えたのは、森の中のブドウ畑だ。
みずみずしい色んな種類や色のブドウが大きな実をつけて風に揺られ、収穫を待っているみたいだ。
「バギー?」
アルビダの声にはっと我に返る。
「幻覚を見てたぜ…」
目を擦り、緊張の面持ちでグラスに口をつけ、ゆっくりと口内へ招いた。
クルー達が固唾をのんで見守っている。
カッと目が開かれた。
それからゴクンゴクンと喉を鳴らして通っていく。
「バギー船長!?」
「あ、味は…」
カバジとモージが身を乗り出した。
「ド…」
バギーの目からは涙が溢れ出ている。
「ドハデに…美味ェ――――ッッ!!!」
ワインボトルの方を飲んだパッローネの反応とは正反対だ。
度数もかなり高いのか、バギーの顔はアルコールですでに赤くなりつつある。
口端からアゴを伝いそうになった酒を手の甲で拭った。
「香りもクラクラしちまうくらいに強烈、舌にずっしりとくる重みと力強さ、なのに喉が止まらねえ! このおれ様が、早くも溺れそうだぜ!!」
嬉しそうなバギーに全員が歓声を上げた。
本物の宝を手にしたのは、自分達だ。
「今夜はハデに飲むぞ!! 勝利の宴だァ――――ッ!!!」
「「「「「うおおおおおお!!!」」」」」
静かな夜の海の上で、宴が始まった。
グラスに次々と注がれる酒、酒、酒。
「ぎゃははははは!! お前らァ―――ッ!! もっともっと飲めェ―――ッ!!!」
バギー海賊団は全員、甲板の上で酒を煽りながら歌や踊り、芸を披露している。
5人がかりでアクロバットをしているクルー達にルビーは笑い声を上げながら拍手を送った。
「見習い…、ルビー! お前も飲んだらどうだ!?」
肩に腕を回してきたのはカバジだ。
だいぶ酔っていて、体重をかけてくる。
「そうだぜ、ルビー! 船長と肩を並べて大活躍だったじゃねーか!」
千鳥足でやってきたのはモージだ。
「あららー、カバ兄もモー兄も最高にできあがってるねぇ」
傍にいるリッチーはすでに酔いつぶれてイビキをかいている。
睡眠玉で2回も眠らされていたのに。
「あたしは飲めないから、あたしの分まで飲んで……ってそれ以上飲み過ぎるのもヤバそうだね。熱っ! カバ兄! 口から火ィ出てる!」
頬にかかった熱風に小さく跳ねた。
「飲めない分までおれの曲芸を見せてやろう!」
「事故が起きる予感しかしないっ」
「あ! おれのショーが先だからな! リッチー! 起きろリッチー!」
「お願い、寝かせてあげてっ。ショーはあと! 2人とも、踊ろう!」
音楽と手拍子が呼んでいる。
カバジとモージの手をとり、輪の中へと入った。
「せんちょ―――っ! アル姉も早く!」
「ぎゃははっ。しょーがねーな」
フラフラと立ち上がるバギー。
「一番動いてるはずなのに、元気だねぇ」
肩をすくませて呆れるアルビダも、手招きされるままに向かった。
夜空に引っかかっている三日月まで届くくらいの、騒がしい夜だった。
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