07:もう一度、宴を
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「バギー…せんちょ」
凝視している時に唐突に呼ばれ、思わずビクッと身体が反応した。
ルビーは、バギーでもなくパッローネでもない、別の場所を見つめている。
「もしあいつが攻撃してきて…―――」
サポーレの時と同じく、すぐ横にいる人間にしかわからないくらいの小声で内容を伝えた。
空気と声色は一度落ち着いている。
サポーレの時の作戦と違い、受け入れ難い内容だったのか、バギーは作戦を聞き終えるなり、「はあ?」と困惑した。
「“睡眠玉(ソンノ・バッロッタ)”!!」
パッローネから攻撃してきた。
指に挟んだ黄緑色の球体を投げつけてくる。
ルビーは咄嗟に屈みながら動き、バギーもそれに引っ張られた。
「あ、リッチー!」
ルビーははっとしたがすでに遅い。
黄緑色の球体は、2人の後ろにいたリッチーに当たってしまい、人質のサポーレと共に眠ってしまう。
「またかよ!」と見ていたモージは思わずつっこんだ。
今更止まるわけにはいかない。
バギーとルビーは飛んできた球体の下を潜り抜けたあと、ジャンプし、ビックトップ号の甲板に飛び移ろうとする。
「隙ありィィィ!!」
着地点の近くにはパッローネがいる。バギーは足を突き出して靴の裏から仕込みナイフを出すと、切っ先をパッローネの顔面に向けた。
「ッ!!」
パッローネは即座に背中を向け、尻を突き出す。
「“気球玉(バロン・バッロッタ)”!!」
尻から大きく膨らむピンクの球体にナイフの切っ先が突き刺さった。
パァン!!
破裂と同時にバギーとルビーの落下が失速した。
大きな破裂音に鼓膜もビリビリと震える。
「こいつ…!! 風船を盾に…!!」
ピンクの球体は単に乗り物の役割だけではなかった。
気付いた時には、ニヤリと笑ったパッローネが両手に青色の球体を構え、振り返る。
「プフフフ!! コロッケにしてやる!!!」
「殺してやる」と言いたいのだろう。
「せんちょ!!」
ルビーはバギーを庇うようにパッローネに背を向けた。
「“粘着玉(トラップ・バッロッタ)”!」
ベチャベチャ!!
「ぐえっ!!」
「う゛っ!!」
まともに食らったバギーとルビーは甲板に転び、他のクルーたちと同じく床に張り付いてしまう。
2人は互いに向かい合わせに倒れ、バギーが下、ルビーが上、と抱き合う形になっている。
上から追加でガムが覆うように張り付けられ、立ち上がることすらできない。
「「「「「バギー船長!! 羨ましい!!!」」」」」
切羽詰まる状況だというのにクルー達は正直だ。
「助けねぇぞお前ら!!!」
「んんんっ!」
ルビーは腕立て伏せの体勢をとり、ガムの粘着力に対して力任せに上半身を少し浮かせる。
幸い、ルビーよりバギーに付着したガムは少ない。
手足と頭は動かせるようだ。
「せんちょ! 首と両手!」
歯を食いしばりながら言ったルビーの声に、バギーは作戦の内容を思い出す。
ルビーの視線は頑なにあるものに向けられたままだ。
本気で実行を促している。
「本当にうまくいくんだろうな!?」
「このままだと最悪に殺されるよ!!」
パッローネが黄色の球体でトドメを刺そうと構えているので大声を上げて急かした。
「“バラバラ緊急脱出”!!」
「死…、げええええ!!? 首――――っ!!!」
突然宙に浮いたバギーの頭と両手を見て、パッローネは両手を上げて目玉が飛び出るほど驚愕する。
まともにバギーのバラバラの能力を見たのはこれが初めてだったからだ。
バギーはまだ動く両手を浮遊させ、パッローネではなく、ルビーが要求したものをつかんだ。
それは、パッローネ海賊団がビックトップ号から掻き集め甲板の積み上げた食料の中にあった。
「こっちに投げて!!」
「もうどうなっても知らねえからな!!」
ヤケクソ混じりに、バギーはつかんだものをルビーに向かって投げつける。
宙を掻くのは、木樽だ。
「妙な技使いやがって…!! いい加減足掻いてんじゃねえよォ―――ッ!!」
対して、パッローネもルビーに向かって黄色の球体を投げつける。
「“衝撃玉(ショック・バッロッタ)”!!」
同時に、ルビーは歯を食いしばり、バギーが投げつけた木樽に目掛け、握りしめたコブシを突き上げて穴を空けた。
その際に噴出した樽の中の液体が大量に2人の体に降りかかる。
ドパパパパン!!!
パッローネの衝撃玉がけたたましい破裂音を鳴らした。
衝撃の雨の中、まともに受けたならば無傷では済まされない。
「船長――――っ!!」
「見習い―――っ!!」
甲板にはりつけにされたバギーとルビーでは避けるのは不可能だ、と誰もがそう思った。
しかし、2人がいた場所は衝撃玉の煙が漂い、ガムの残骸だけしかない。
間近で見ていたパッローネはわが目を疑った。
「馬鹿な…!! 避けられるはずがねェ!!」
その時、2つの影がパッローネを左右から挟むように立った。
ゴッ!!
瞬間、パッローネのアゴに2つのコブシが叩きこまれる。
「ブ…ッ!!?」
アッパーカットを食らったパッローネの丸い体はブッ飛び、自身の船の甲板にバウンドして顔面から床に打ち付けた。
「パッローネ船長!!」
驚きのあまりクルーが思わず叫んだ。
パッローネをブッ飛ばしたのは、バギーとルビーだった。
あれほどしつこい粘着力をもっていたガムは剥がれ、やっと互いにまともな距離を置き、肩を並べて立っている。
「や~っと剥がれたぜ! ハデに鬱陶しいガムとも、ハデにバカ舌の風船野郎とも、ハデに罠だらけの島とも、これでおさらばだな!」
「あたしは最高に悪くなかったけどね」
肩を揺らしながら笑うルビーに、「冗談じゃねェ。おれ様はもう2度と御免だからな!」とバギーは呆れて言い返した。
「うぐぐ…ッ」
起き上がったパッローネは殴られた痛みに呻きながらバギー達を睨みつける。
「なぜだ…!? なぜだァ!!? おれのガムから逃れることなんてできねーんだ!! なのに…!!」
現に、2人の体からガムが取れている。
「!!」
甲板や2人に少し付着したガムと、べっとりと纏わりついた液体に目を留めて気付いた。
「油か…!!」
言い当てたパッローネに、ルビーは不敵な笑みを返す。
「その通り。いい買い物してよかった!」
ガムで身動きができなくなった体に掛けたのは、ドランクリゾートで買い出しの時に購入した油だ。
ガムから解放されるためにバギーに頼んだのは、その油がたっぷりと入った木樽だった。
「ガムは、油で溶けるんでしょ?」
「ぐぐぐ…ッ」
粘着玉の弱点を見破られ、パッローネは悔しそうに両手のコブシを握りしめながら歯ぎしりする。
「立ち上がれ―――!! お前らァァァァ!!!」
木樽の油はまだまだある。
ルビーが店主にすすめられるままに大量に買い込んだおかげだ。
バギーは浮遊させた両手で木樽をつかんで蓋を開け、ガムで身動きがとれなくなっているクルー達に次々とぶっかけていく。
「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」
忌々しいガムが溶け、クルー達が雄叫びを上げながら立ち上がった。
それから武器を手にして反撃を開始する。
「さっきはよくもやってくれたな!!」
「覚悟はできてんだろうなァ!!?」
「おれ達の船から出て行け―――っ!!」
最初にビックトップ号の招かれざる海賊たちを追い払い、奪われた食料や財宝を取り返す。
「ハデに暴れやがれ!!」
バギーは両足の靴の爪先から仕込み刃を出し、腰から下を切り離した。
「“バラバラせんべい”!!」
円盤となって回転する下半身は容赦なく敵を切り付ける。
「リッチー!!」
モージに大声で呼ばれたリッチーは、眠気を残しながらもビックトップ号に飛び移り、モージを背にのせて甲板を駆け、前足を使って逃げ惑う敵を払い飛ばす。
「“カミカゼ百コマ劇場”!!」
カバジも一輪車に乗りながら無数のコマを飛ばし、周囲の敵に向けて躊躇なく喰らわせた。
「いつまでも汚い土足で上がり込んでるんじゃないよ!!」
甲板を華麗に滑るアルビダは大きな金棒を振り回し、見惚れている敵を海の向こうへと吹っ飛ばす。
「パッローネ船長! ほとんど船から追い出されました!」
ボロボロにされて追い出されたクルーが情けない声を上げた。
「報告してねぇで反撃しやがれ!! あいつら、復活した途端に強気になりやがって…!!」
パッローネは厄日だと思わずにはいられなかった。
探し求めていた宝はハズレ、敵船から巻き上げられるかと思いきや今では逆転されている。
血管が切れそうなほど苛立ちは頂点に達していた。
「プククク…」と感情に反して笑いが込み上げくる。
「もういい…!! 全部…、燃やしてやる…!! お前らちょうど、油まみれだもんなぁ!?」
取り出したのは、赤色の球体だ。
最後のクルーを欄干から蹴り落としたルビーは、その色を見て警戒する。
「あいつ、あたし達ごと船を燃やす気だよ!」
そう言いながら、船と船を繋いでいた厚板を蹴り落とした。
「何ぃ!?」
素っ頓狂な声を上げたバギーは慌てて「船を出せ!!」と指示を出す。
「“火炎玉(フィアンマ・バッロッタ)”!!」
パッローネが投げつけてきた。
数は8個。
ビックトップ号に届く距離だ。
赤色の球体は宙で発火し、火の玉となって飛んできた。
「ヤバイぞ!!」
「うわああああ!!」
油が付着している部分、特にガムを溶かすために油まみれになったクルー達に着弾すればたちまち火だるまだ。
船長を含め、「水を用意しろ」「中に逃げ込め」とパニックになる船上。
そんな中、ルビーは傍にあった大砲をつかんだ。
「何する気だ!?」
尋ねるバギーに、にっこりと笑いかける。
「見てて」
男2~3人でも、台車もなく持ち上げるのに一苦労する重い大砲を、ルビーは軽々と両手で持ち上げて勢いをつけ、思い切りスイングした。
すると、飛んできた火の玉が風圧により、パッローネの船へと巻き戻しのように戻っていく。
「こっちに戻ってきたぞ!!」
「逃げろ―――っ!!」
「バカ!! 逃げるな!!」
パッローネの船の甲板に落ちた火の玉は風で鎮火している。
パッローネは鼻水を垂らしながら呆けるだけだ。
「な…んだ…、あの女…」
火の手を避けることができたバギーは、ルビーに向かって「よくやった」と褒めようとしたが、「あ」と大口を開けた。
同じくクルー達も「あ」と声を揃える。
「え?」
1個だけ吹き飛ばし損ねた火の玉が、運よく油に着かなかったものの、床に垂れていた大砲の導火線に着火していた。
シューシューと音を立て、火花が大砲へとのぼっていく。
大砲には砲弾が装填されたままだ。
「大砲が!!」
「ヤベー!! どっかで見たぞー!!」
「わあああ!!」
「こっち向けるな見習い―――っ!!」
トラウマがあるのか再び慌てふためくクルー達に、「えー」と呆れ顔をするルビー。
「じゃあ、せっかくだから…」
大砲を持ち替えて肩に担いだルビーは、欄干を踏み台に、大きく跳躍した。
「最高なお礼を返さないとね!」
砲口は、パッローネの船に向けられる。
「ルビー!!!」
ルビーの見開いた大きな瞳は、掛け声の主を映した。
「ドハデにブチ込んでやれェ!!!」
「りょーかい、せんちょ」
口元には、弧が描かれる。
ドォン!!!
砲弾はパッローネの船のマストに命中し、バキバキと音を立てて右方向へへし折れていった。
マストは折れたところから発火して黒煙が上がり、パッローネ海賊団は騒然とする。
「どうして…、どうしてこうなった…!!」
パッローネは頭を抱え、理解に苦しんだ。
「おれは世界一の海賊で、世界一の美酒家だ!! なぜおれの手元には、世界一の酒がねェんだ!!?」
何も手にしていない己の手のひらを見つめた時だ。
「アンタはただの酒好きなだけの海賊だよ」
真っ暗になりかける目の前に、人影が着地した。
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