07:もう一度、宴を
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ビックトップ号の甲板にいるパッローネは感情のままにカバジの腹を蹴り上げた。
「ぐ!」
「ライオンでも食べてこの苛立ちを落ち着かせようとしてたってのに、肝心のライオンも逃がした!!」
続いてカバジのすぐ傍にいるモージを踏みつける。
「うぅッ」
そこへ、言い出すタイミングを見計らい、鼻息の荒いパッローネにクルーが声をかけた。
「パッローネ船長、奴らの食料と酒はこれで全部のようです」
ドランクリゾートでルビーが買い出しで手に入れた食料や酒が甲板の中央に集められた。
「おれ達の食料が…」
「ひでぇ…」
「うう…。バギー船長~~」
クルー達が成す術もなく嘆いて呟く。
パッローネは蔑んだ視線で見回し、「何を言ってんだ」と呆れた。
「奪い合いなんて海賊の日常だろ。そして、奪い合いに負けたお前らは、ここでもずくとなるのだぁ!!」
台車を使って用意されたのは、バギー達の船にあった大砲だ。
たった一撃で建ち並ぶ建物を吹っ飛ばすほどの強力な砲弾も込められてある。
発射されれば船もクルーも木端微塵だ。
(((((もずくにされる!!!!)))))
危機感のあまり「藻屑」というツッコミも思い浮かばなかった。
「勝手におれ様の大砲に触るんじゃねェ―――ッ!!」
その大声に、甲板にいた誰もが振り向いた。
「待たせたなぁ!!」
パッローネの船の甲板に続くドアから現れたのは、ガムでくっついたまま不敵な笑みを浮かべた船長と見習いだ。
「「「「「バギー船長~~~~~っっ!!!」」」」」
感涙しながらクルー達は叫ぶ。
突然の登場に目を見張ったパッローネだったが、バギー達の状況から見てこちらに分があると判断し、ニヤリと口角を上げた。
「そっちからやってきてくれるとはなぁ!! こっちの手間省きを手伝ってくれるのか?」
「アホ抜かしてんじゃねえ!! 痛い目に遭いたくなかったらおれのカワイイ船員を解放しやがれ!! このデブが!!」
バギーの罵倒に、パッローネはぴくりと反応した。
笑みを引っ込めて物凄い剣幕で聞き返す。
「デ…、デブだと!!? おれのことをデブって言ったのか!!?」
挑発に乗ったパッローネの様子に、バギーはあからさまにバカにして言い返す。
「ハデデブと言い直してやる!!」
パッローネはうつむき、しばらく沈黙が流れた。
身体の震えを大きくしたパッローネは、真っ赤な顔を上げる。
「そんなに褒めるんじゃねーよっ!!」
露骨に照れた表情を浮かべ、恥ずかしそうに後頭部を掻いている。
その姿に、甲板にいた全員が唖然とした。
(((((ええええええええ!!??)))))
パッローネ側のクルー達もだ。
「いやいや!! 褒めてねーよ!!」
すぐに否定するバギーに、パッローネははっとして照れが抜けきれない表情で指を向ける。
「おれのチャームポイントを褒めたからって許されると思うな!! 赤っ鼻!!」
「テメーもハデに許さねェ―――ッ!!!」
「せんちょが挑発に乗ってどうするの」
飛びかかりそうなバギーをなだめ、ルビーは「ほらほら、話進めて」と促した。
「リッチー!」
青筋を浮かべたバギーが名を呼ぶと、バギーとルビーの後ろから現れたリッチーは、口に咥えて引きずってきたものを足下に落としてその頭を踏み押さえる。
意識を取り戻したばかりのサポーレだ。
身動きが取れないようにロープで腕を後ろに縛られていた。
「!!」
「動くな!!」
リッチーは大口を開け、サポーレの首元に牙を向ける。
パッローネ達が少しでも動けばサポーレの命はない。
「ぐ…っ」
人質になったサポーレは悔しげに唸るが、頭痛と頭の圧迫感が行動を不能にさせていた。
「そんな…っ!!」
「副船長が!!」
パッローネのクルー達は狼狽している。
実力はパッローネの次であるはずのサポーレが、間の抜けた状態であるバギー達に捕縛されているからだ。
「サポーレ…!!」
「申し訳…ございません…、船長…」
絞り出すような声だ。
人質の効果がきいていると感じたバギーは「ぎゃははは」と笑った。
「こいつの命が惜しくなかったらおれ様の部下を解放しろ!! 宝箱も置いてけ!!」
「リッチー! よくやった!!」とモージ。
「うちの船長もあくどさなら負けてないぞ!」とカバジ。
「「「「「お前ら卑怯だぞ!!」」」」」
「「「「「お前らもだろ!!!」」」」」
パッローネ側のクルー達に対してバギー側のクルー達も総勢で言い返した。
「……………」
パッローネはうつむき気味に黙ったままだ。
だからこそルビーは嫌な予感を覚えた。
バギーが痺れを切らして言葉を発しようとした時、
「砲撃の用意だ」
パッローネは冷たく言い放った。
「「!!??」」
命令されたクルー達は自分の耳を疑う反応をする。
パッローネは嘲笑を浮かべ、バギー達に向けて右手を差し出した。
視線はしっかりと、ルビーの胸元に掛けられた鍵に向けられている。
「取引だ。仲間を返してほしけりゃ、鍵をよこせ」
「ハァ!!? テメェ、聞いてんのか!? こいつの命がどうなっても…!!」
バギーの動揺が移り、リッチーは戸惑いながらサポーレの首元に牙の先端を押し当てるが、パッローネは「それがどうした」と鼻で笑った。
「所詮、お前らの脅しは人質ひとりだけだろうが。なあ、サポーレ、おれの夢の為なら死ねるよなぁ?」
「ええ…。もちろんです」
サポーレの返事は早かった。
「…!!」
ルビーは驚いた顔でサポーレを見下ろす。
船長から見捨てられたというのに、サポーレの返答や態度にショックを感じなかった。
対して、他のクルー達はありえない光景でも見ているかのように今もざわめいている。
「お前、ハデに見捨てられてんだぞ!! わかってんのか!?」
「だから、私を殺すがいい。取引に応じずに殺されるのは、お前たちの方だ…」
明らかに不利になろうとしているバギー達に、サポーレはくつくつと笑った。
「早くしろ!! 大砲に火をつけるぞ!!」
パッローネの手のひらでは、小さな赤い玉がころころと弄ばれている。
今までの攻撃では投げつけられなかった色だ。
捕まったまま成り行きを見守っていたアルビダは、内心で舌を打っていた。
(また形勢逆転…。確かに、大勢の人質と、一人の人質では駆け引きにもならない。アタシがこの状態だってのに、大砲なんてぶっ放されたら…)
バギーは汗を浮かべて躊躇っている。
アルビダにも気持ちは理解できた。
どちらを選択しても、大人しく場が収まるとは思っていない。
((どうすれば…!!))
バギーとアルビダの焦りが被った時、宙に放られた宝箱の鍵が、パッローネの足下へと落下して滑った。
投げつけたのは、ルビーだ。
バギーは切り離した両手でルビーの胸倉をつかんだ。
「見習い!! お前…っ!!」
「ごめん」
怒り心頭のバギーに対し、ルビーは苦笑を浮かべていた。
「プフフフ!! プーッフフフフ!!」
鍵を拾ったパッローネは興奮しながら笑っていた。
ルビーは見据えながら声を上げる。
「鍵はアンタの物! だから、みんなを解放して!」
「「「「「見習い~~~~っ!!」」」」」」
「おれ達の為に~~~っ!!」
どばーっと涙を流すバギー海賊団全船員。
「動くんじゃねェ! 中身の確認だ!!」
鋭い声と共に手で制したパッローネは、手元に置いていた宝箱を取り、待ちきれないといった様子で鍵穴に銀色の鍵を差し込んだ。
全員がそちらに釘付けになる。
カチッ、という音に伴い、固く閉じられていた宝箱の蓋が開かれた。
中身が今、取り出される。
「お…、おおお…っ。これが…“アルバヴィーノ”…!!」
聖遺物の如く掲げられたのは、コルクで封をされた黒のワインボトルだ。
中身は見えないが、ちゃぷちゃぷと液体の音がする。
「あれが伝説の酒か…!!」
バギーは凝視しながら言った。
「…足りない」
「?」
ルビーのこぼした一言に怪訝な顔を向け、「何がだ?」と尋ねる前にパッローネの声に遮られる。
「お前らはそこで唾を飲みながら、おれが待ち望んだ至福のひと時を見物してろ!」
パッローネは急いでクルーにワイングラスを持ってこさせ、待ちきれない様子でコルクを開けて中身を注いだ。
ボトルから透明のグラスに移された液体の色は、赤みもない不気味な黒だ。
「あ、ああ…っ。先生…! 先生!! おれは…、ついにやりました…!!」
感極まってそこにいない誰かに語りかけるパッローネの言葉に、「先生?」とルビーは目を細める。
「海賊時代に、乾杯!!」
パッローネはワイングラスを高らかに夜空に掲げたあと、口をつけ、黒を誘う。
瞬間、
「ブボフッ!!!」
盛大に噴き出した。
「「「「「!!!!???」」」」」
全員が何事かと目を剥く。
パリン、とワイングラスがパッローネの手から滑り落ちて割れた。
「がはっ、げほげほっ。何…だ、これは…!? お前ら…ッ、何を入れやがった!!?」
パッローネは喉を押さえ、口端から黒の液体を垂らしながら咳き込み、バギー達を睨んだ。
宝箱の中身を奪われた挙句に言いがかりをつけられ、バギーも睨み返して否定する。
「入れるどころか宝箱すら開けてねーよ! お前が何言ってんだ!?」
パッローネの目は血走っていた。
片手に握りしめたワインボトルに視線を落とし、自身の自慢の舌が示した受け入れがたい事実に、首を横に振るばかりだ。
「こんなものが…伝説の酒であっていいはずがねェ…!! こんな、付け焼刃でつくったかのような即席の酒が…っ! クソッ!「酒」と呼ぶのも愚かしい!! 失敗作以下どころか、一度開けた痕跡もある! 飲みかけだぞ!! うううううっ!!」
激昂するままに、唸りながらボトルを振りかぶる。
「やめろ…」
眺めていたルビーは、小さく呟き、手を伸ばそうとした。
「ふっざけんなあああああああ!!!」
バリンッ!!
勢いよく振り下ろされたボトルは、中身がまだ入っているにも構わず甲板に叩きつけられた。
粉々に飛び散る黒いガラスの破片。
黒い液体は血溜まりみたいに床に拡がっていく。
「本当はどこかに隠してるんだろ!!? 言え!!!」
憤怒と興奮が鎮まることはなく、パッローネはバギーに向かって怒鳴った。
「知るか!! ヤロウ、勝手にブチ切れやがっ…」
ふと、バギーの視線がルビーの横顔をとらえた瞬間、ぞくりと肌が粟立った。
(あ…)
「……………」
眉間にわずかに皺を寄せたルビーの、燃えるような赤い瞳が、パッローネを鋭く射抜いていたからだ。
その周りの空気は、ちりちりと音を立てて焦げているようだ。
静かだが、確実に激怒しているのがわかった。
(―――知ってるぞ…、この目…)
バギーの脳裏に浮かびあがった記憶の欠片は、殺気立った赤い瞳を見せた。
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