06:死んで守った
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日もすっかり沈み、森は月明かりに包まれる。
チュドン!!
小規模な爆発が起き、野鳥が一斉に飛び立った。
地面の下に隠されていた地雷をどちらかが踏みつけ、焦げたバギーとルビーが倒れていた。
煙を上げてはいるが、どちらも丈夫だ。
「せんちょが踏んだ…。コフッ」
「いーや、おめーだよ…。ベフッ」
黒煙を口から漏らしながら互いに指をさし合う2人であった。
数十分後、バギーとルビーはひたすら先へと進んだ。
「♪~」
草木を掻き分けながら、ルビーはいつもの鼻唄を繰り返す。
「その歌ばっかだな」
「これしか知らないから。でもあたし、この歌好き」
気を紛らわせていたのだろう。
言葉を発した途端に腹の虫が「ぐ~」と鳴いた。
「……腹の虫も誤魔化せるし」
「確かに腹減ったな…」
無理もない。
何も口にせずにずっと歩き続けているのだ。
どこかに食べられるものはないかとバギーは辺りを見回した。
「…ん?」
そこであるものを見つけ、目を凝らす。
「せんちょ?」
ルビーが首を傾げると、バギーは手を切り離して何かをつかみとって引き寄せる。
「あ」
「見ろ。ブドウだ」
見事な赤紫の実をつけたブドウが実っている。
バギーは「あーん」と口を開けて食べ始める。
「美味っ」
普通のブドウよりも甘い。
「あたしも欲しい!」
手を伸ばすルビーを、ブドウを咀嚼しながらバギーは片手で止める。
「よく見ろ。そこらじゅうになってるぞ」
言われるままに見回すと、暗がりでもその果実を確認できた。
腹の虫に従い、ルビーはすぐ近くにあった大きな実をつけたブドウを摘む。
口に含んで実に歯を立てると、じゅわ、と甘酸っぱい果汁が口内を満たした。
「………!!!」
言葉を失うほどの美味さだ。
目を輝かせてバギーを見つめる。
「言葉も出ないほど美味かったんだな」
力強く頷き、1つ、また1つとブドウの実に手を伸ばす。
「それにしても、味も種類もバラバラだ。なんでこんな場所が…」
ここに来るまで果実ひとつ見つけられなかったというのに。
誰かの手によって、ここで様々なブドウが栽培されているように思えた。
だが、茶色に枯れている場所もあるので、放置されて随分経っているみたいだ。
ルビーは物寂しさを覚える。
バギーは不思議に思いながらも、また1房のブドウを手にした。
その時、実が1つ、もぞもぞと動いた気がした。
「ん?」
「キキッ」
実から2つの小さな目が開いた。
続いてキバが見え、両手の羽を広げて飛ぶ。
「なんだ!?」
「!?」
他のブドウからも正体不明のものが飛び出した。
それらは空中の一か所に集まり、ルビーとバギーを見下ろす。
「コウモリ!?」
ブドウが大好物の野生コウモリ―――グレープバット。
見た目がブドウの実のような姿なので、食事中に実と間違えられることがある。
群れで行動し、縄張りを荒らす者は擬態を解除し、
ガブッ!
「痛ってえええええ!!!」
容赦なく噛みつく。
背後から尻を噛まれたバギーは悲鳴を上げるが、グレープバットたちはそれだけでは終わらせないようだ。
「キーッ」と鳴いて威嚇し、一斉にルビー達に襲いかかる。
「いたたたっ!!」
バンダナを引っ張られ、腕を噛まれるルビーもたまらずに抵抗するが、数が多い。
払っても払ってもきりがなく、バギーとルビーは合図もなく走り出した。
「縄張り荒らされて怒ってるよ、あいつら!」
「わかってんだよそんなことは!!」
ひたすら森の中を走り回り、ようやく追いかけてこなくなったかと思えば、ルビーはあることに気付いた。
「バギー!! ストップ!!」
思わず声を上げたが間に合わず、バギーが「へ?」と反応した時には、足下は地面についていなかった。
また落とし穴かと思えばそうではない。
目の前は自然の崖。
そして足は境界線をとうに越えていた。
ルビーは咄嗟に近くの木に手を伸ばそうとしたが、バギーの落下が早かった。
引っ張られるままに道連れになる。
「「うわああああああっっっ!!!」」
わずかな傾斜を転がり落ちる2人。
ドボン!!
運がいいのか悪いのか、そのまま崖下を流れる川に落ちてしまった。
「おれァ、てめーに会ってから水難の相が出てる気がしてきた…」
「最大に気のせいだから」
服の水を絞りながらぼやくバギーに、ぷるぷると水滴を払うルビーが言い返す。
「この川、海水が混じってるみたい…。流れも海とは逆向きだし…」
島の地形も関わっているのだろう。
先程落ちた川に振り返り、流れを見る。
川の幅も、大きな海賊船がぎりぎり通れるくらいだ。
「…もしかして…」
「ひっくし!!」
考えていると、寒気を覚えたバギーが大きなくしゃみをした。
「……冷える?」
ずび、と鼻を鳴らすバギー。
「おめェはよく平気だな」
「体感温度が少し違うから」
悪魔の実の能力者であろうとなかろうと、バギーにとっては水の温度が冷たかったようだ。
どこかでたき火でもできないかと辺りを見回すと、ルビーはあるものを見つける。
「あ」
指をさした方角には、岸辺にタルがひっそりと横たわってあったからだ。
「なんだあれ!?」
ただのタルではない。
人ひとり住めるくらいの大きなタルだ。
近づいてみると、ドアもあり、窓もあり、小屋のように作られてある。
最近のものだろうか、木造だというのに、傷んだ個所はまったく見当たらず、苔も生えていない。
人の気配はなく、ルビーは試しにノックしてみる。
「おいおい」とバギーは、大胆な行動に出るルビーをたしなめたが、さらにルビーはドアノブをつかんで大きく開けた。
「……誰もいないみたい…」
中はほこり臭く、壊れかけのベッドや机、本棚もあった。外観は真新しいというのに、内観は古すぎる。盗賊でも入ったのか、荒らされた形跡も見当たった。
「パッローネのアジトって事もなさそうだな」
呟きながら、バギーは本棚にあった本を1冊手に取り、埃を払ってから中に目を通し、床に放り投げてから別の本を手に取って同じように目を通す。
「酒造やワインに関する本ばっかりだぜ。虫食いのせいで穴だらけだがな」
「あ、ランプ」
ルビーはデスクの上に古びたランプを発見した。
火を灯せばまだ使えるようだ。
ルビーは机の引き出しに小さな木箱を発見して開けてみると、中には最後の1本が入ったマッチがあった。
湿気ていると思っていたが、擦ってみると小さな火が点き、ランプに灯す。
わずかに温かい。
「食料は…さすがにねぇな。妙な場所だぜ…。もしかすると、伝説の酒造家の隠れ家だったりして…、なんてな。そんな大昔の人間が住んでたにしては、部屋の様子はともかく、家がハデに真新しい…、おい、どこ行くんだ!?」
体ごと引っ張られ、バギーの足下がよろよろと動く。
ルビーが手を伸ばしたのは、壁だ。
擦り、感触を確かめる。
「動く時は声をかけろっ」
「……せんちょ、壁、触ってみて」
「あ?」
「いいから」と促され、バギーは手袋を口で外して直に手で壁に触れてみる。
少し、違和感があった。
木の感触にしては、なめらかすぎる気がした。
見た目が樽だが、そのまま樽を触っているのとは違う。
ささくれひとつはあってもいいはずなのに、皮膚に引っ掛かりがない。
「な、なんか、ヘンだぞ…」
「……………」
風雨などで傷まない細工があるのかもしれない。
外の壁も感触が同じだ。
2人はもう少し調べてみることにした。
壁だけでなく、本棚やデスクの隙間、床の隅々までだ。
「…!!」
「うわ!?」
突然、ベッドを片手で持ち上げたルビーを、驚いたバギーは凝視した。
ルビーはベッドを背後に置き、ベッドの下にあった床に注目する。
バギーは片手でベッドを持ち上げようとするが、思ったより重くて歯を食いしばった。
「…せんちょ、何してんの。屈んで」
(バカぢから…)
悔しくて内心で呟き、仕方なく屈んだ。
「何か見つけたか?」
「ここに穴がある」
「穴ぁ?」
確かに、3センチくらいの綺麗な楕円形の穴があった。
ネズミも通れないくらいの大きさだ。
「これがどうし…」
言いかけたところで、ルビーが胸にかけていたコルク型の鍵をつかみ、躊躇なく穴に突き入れた。
半回転させれば、カチャ、と鍵が開く音が聞こえ、鍵を入れた床の一部数センチ浮く。
2人は目を合わせ、ルビーが手を伸ばして浮いた部分を外し、中から手のひらサイズの古びた手記を取り出した。
入ってあったのはこれだけだ。
表紙には、「×」のマークがあった。
「この印…」
「同じだな」
バギーも印を思い出し、首を傾げる。
「この「×」ってのはなんなんだ? 暗号か?」
宝の地図にもよく見かけるマークだが、サインのように使用している。
「ん―――…。名前じゃない?」
「名前?」
「パッローネが言ってたでしょ。アルバヴィーノを作り出した、伝説の酒造家―――ヴィンテージ・ヴィンセント。その頭文字のVとVを繋げたら…」
Vの下の部分を繋げれば、「×」になる。
ヴィンセントはそれを自身のサインにしたのかもしれない。
「ややこしいことしやがる。だが、そうなると、やっぱりこの手記は…」
「ヴィンセントの…。……先に読んでみる」
開いてみると、小さくてつたない文字が何ページにもわたって書き記されている。
ルビーはじっくりと目を通した。
「宝について、何か書かれてねーか?」
バギーはちらちらと視界に映る、酒造方法が気になった。
ルビーは集中しているのか、無言だ。
「船長を無視とはいい度胸じゃねーか…ッ」
いつゲンコツしてやろうかとコブシを握りしめた時だ。
あるページを開いたルビーの赤い瞳が、大きく見開かれ、そして今にも泣き出しそうな顔になった。
初めて見せる表情に、バギーは狼狽える。
「ヴィンテージは、最高の酒を造ることが生き甲斐だった…。そうすることでしか生きていられなくて…、それが仲間との約束で……」
ルビーは静かに手記を閉じる。
「そして…、死んで守った…」
口元には、微笑みが浮かんでいた。
「見習い?」
バギーの方へ振り向いた時には、いつものルビーの顔がそこにあった。
「ここに書かれてあるのは、日記と、最高の酒の作り方…」
酒造方法だけ見せると、バギーは渋い顔をして「これは…」と漏らす。
喜びというより、諦めが滲み出ていた。
「遭遇した数々の罠は、ヴィンセントって人が仕掛けたものね」
今でも罠が発動するということは、かなりの数が仕掛けられていたことになるだろう。
「死ぬ前に片付けていけってんだ」
死人に文句を言っても仕方がないが、言わずにはいられなかった。
バギーは肩を落としながら手記をルビーに突き返す。
「あっ!!」
「なんだよっ!?」
突然耳元で声を上げられ驚くバギー。
ルビーは真剣な眼差しでドアの向こうを睨んだ。
「せんちょ、外に何かいる…」
「は!?」
「しーっ」
空いてる手でバギーの口を塞いだ。
外から微かに、石を踏む音が聞こえ、こちらに近づいているのがわかった。
バギーの口から手を放し、互いに視線を合わせる。
「…足音はひとつかな…」
「クソガムヤロウか?」
声を潜めながら会話した時だ。
突然、外の相手が駈け出した。
「「!!」」
バンッ、と扉が破られる。
飛び込んできた影の形は、大きな獣。
「ガルルルル!!」
「ぎゃああああっ!!」
避けられる前に、獣は2人を押し倒した。
「食べるなァ―――っ!!」
すでに涙目のバギーが懇願すると、獣の舌がベロリとバギーの顔を舐め、続いてルビーの顔を舐めた。
それからボタボタと雫が2人の上に落ちる。
「このケダモノが…!!」
腹を空かせてヨダレを垂らしているのだと思ったバギーは、ナイフを取り出して返り討ちにしようとする。
だが、ルビーは「待って!!」と止めた。
「リッチー!!」
「な…!?」
「ガウ~ッ」
冷静に見ると、ランプの灯りに姿を照らされたのは、涙とヨダレを垂らしたリッチーだ。
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