06:死んで守った
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数分後。
安堵したルビーと、隣で解放感に満たされているバギーが、猫の額くらいの平地に座り込んでいた。
「大事なところも切り離せるんなら最初から言ってよ…」
「てめェが耳元でギャアギャア喚くからだろうが」
すっきりしたバギーは、背後の茂みで用を足させていた大事な個所を元の場所に戻した。
ルビーは見ないようにそっぽを向いている。
「……手、洗った?」
「触ってねぇわッ!!」
耳鳴りを覚えるほどの大声に、空いてる手で片耳を塞ぐルビーは、「トイレが済んだら、先を急ごう」と歩き出そうとした。
「奴らが大人しく、あたしたちを待ってるとも限らないし」
「おいおい、こっちには鍵があるんだぜ。連中もそう簡単に手は出してこねェはずだろ?」
バギーはそう言ってルビーの胸元の鍵を指さす。
手に取ったルビーは難しい表情になった。
「せんちょも言ってるじゃん。…海賊は、奪ってなんぼ……」
フ、と足下の感覚がなくなった。
「「!!?」」
落とし穴だ。
それだけではなく、底には、鈍く光る鋭い剣山があった。
「剣山…っ!!?」
「うわああああ」と落とし穴から聞こえる悲鳴が森に轟く。
剣山が目の前まで迫った瞬間、ピタリと空中で落下が止まった。
荒く呼吸を繰り返すルビーは、バギーに振り向く。
「あっぶねェ…。おれじゃなかったら串刺しだ」
下を見ると、バギーの足が底にあった。
切っても切れないバラバラ人間の足は、剣の刃を避けるように割れている。
一方、足首から上の体は、ルビーをしがみつかせたまま宙に浮いていた。
「すごい!! せんちょー!!」
「ぎゃははっ!! もっと褒めろ!!」
穴から脱出してルビーが地面に足をつけたあと、穴の底に置いてきた足が器用に壁を登って自力で戻ってきた。
トコトコとバギーに近づき、元の足首にくっつく。
「どう見てもトラップだな」
「なんだってこんなもんが…」
明らかに侵入者を殺すために作られてある。
落とし穴を覗き込んだバギーとルビーは、一度後ろに下がった。
その拍子に、バギーは草の中に隠されるようにある腐りかけのロープに足を引っ掛けてしまう。
「へ」
木の陰から、錆びた斧が勢いをつけて飛び出した。
スパーン!!
「キャアァ―――ッ!!」
バギーの首がはねられ、隣のルビーは思わず叫んだ。
宙に一回転して浮いた頭は、ぎょっとした表情で斧を凝視する。
「は…、ハデにびっくりした」
「こっちのセリフ!!」
死なないとわかっていても、心臓に悪い。銃弾でなくてよかったとどちらも胸を撫で下ろした。
ゆっくりと降下したバギーの頭は元に繋がり、改めて辺りを見回すと、槍や斧などの武器がそこらじゅうに突き刺さっているのを見つける。
他の落とし穴もある。
犠牲となったのは動物や島を訪れた人間で、武器が貫通した骨が散らばっていた。
島に足を踏み入れた人間に対する異常な拒絶に思わず唾を呑み込んだ。
「至るところトラップだらけじゃねーか」
「…罠が古い…。死体もいつのだろ…。あいつらの仕業かと思ったけど…、別の人間が仕掛けたのかな?」
ルビーもじっくりと辺りを見渡した。
風雨で錆びついた鉄の刃物、使用済みであろう数々の落とし穴など、あまりのおびただしい罠の数にパッローネ達が先回りして仕掛けたとは考えにくい。
「ちょっと待て、迂闊に動くな!!」
バギーの一声に、ピタリ、と動きを止める。
また何か罠に引っかかるかもしれない。
「そんなこと言っても…」
時間をかけてゆっくりと進むわけにもいかない。
こちらには一味の命がかかっているのだ。
「めんどくせェ。…こういうのはどうだ? おれの足は飛べねェが、体は宙に浮く。さっきも見たろ?」
「うん」
「ひたすら走ってこの森を切り抜ける。罠を踏んでも、肝心の当たる体が遠く離れてりゃ、痛い目見ずに済みそうだ。最悪、落とし穴に落ちてもおれは痛くもかゆくもねェ」
確かに、簡単な罠なら、相手が宙に浮いてることまでは考えずに設計されているだろう。
斧が飛んできた位置といい、踏めば瞬時に発動される罠だが、最初から体が離れていれば容易く潜り抜けられる。
いい案を思いついたとばかりに、バギーはニタニタと笑った。
ルビーもその方がいいと頷いた。
バギーだけ走らせてしまうことになるが、安全に切り抜けるのならそれがいいだろう。
バギーはルビーを自身にしがみつかせ、両足を切り離して前進しよう一歩踏み出した。
同時に、地面からアーチ状に飛び出していた土色のロープに引っかかった。
遠くの方で、ドン、と小規模の爆発が起きた音が聞こえる。
それから少しして、メキメキメキ、と木々が倒される不吉な音が、どんどんこちらに近づいていた。
「…何の音?」
「ん~?」
バギーも何事かと怪訝な顔をし、背後に振り返った。
「後ろからだ」
「後ろ?」
ルビーが振り返ると同時に、木々の間から、ようやくそれが見えて来た。
丸く、転がりやすい、巨大な岩だ。
緩やかな斜面とはいえ、だいぶ離れたところから転がってきたのだろう。
十分なスピードをつけてこちらに暴走して突進してくるイノシシのようにどんどん迫ってくる。
一瞬目を疑い、硬直する2人。
しかし、命の危機が2人の背中を強く押して全速力で来た道を逆走した。
「「ぎゃああああああああ!!!!」」
相変わらず二人三脚状態だが、先程よりも2人の息はぴったりだ。
どちらかが転ぶことなく、森の中を猛進する。
「せんちょ!! 避けないと!!」
「今言おうとしたんだよ!!」
意思を持っているわけではない大岩は真っ直ぐにしか進めない。
「せーの」の合図で横に飛ぶ2人。
しかし、ルビーが右に飛び、バギーが左に飛んでしまう。
当然、ガムで繋がっている2人は、反対方向へ飛んでそのまま引っ張られて頭をぶつけ合った。
運よく転ばずに体勢を戻し、走り続ける。
「なんで右に飛ぶんだハデバカが!!」
「普通は右じゃないの!?」
言い返すルビー。
「今度こそ左に飛ぶ…」
言いかけたところで身に覚えのある浮遊感に襲われた。
「「あ」」
再び仲良く落とし穴に落ちた。
岩は穴の上を通過し、海まで転がっていく。
穴の中では、空中に浮くバギーにしがみつくルビーがいた。
「見習い、てめーとはハデに気が合わなそうだ。今回の件で身に染みたぜ…」
「罠に引っかかったのはせんちょでしょ。まあ、これからこれから」
状況にそぐわず軽やかに笑うルビーに、バギーは再び若き日の赤髪を重ねる。
「ふり落とすぞ!!」
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