05:名前で呼んで!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
威張り顔で自己紹介したパッローネにバギーが首を傾げる。
やはり聞いたことがない海賊の名前だった。
「美酒専門…?」
「ああ! てめェの持ってる“アルバヴィーノ”…『夜明けの美酒』!! そいつはおれが目をつけてた大事な大事な酒だ!!」
指されたのは、ルビーが両手に持っている宝箱だ。
「その海図だって手に入れるのに、だいぶ時間を食べちまった!! ド間抜けなうちのクルーのせいで奪われちまったけどな!! てめェの言う通り、奪い返しに来たんだよっ!! 予定よりも早く引き上げてくれた事には感謝してるぜ? だが引き上げちまえば、てめェらは用済みだ!!」
バギー達の船を追いながら、当初の予定では宝を引き上げる前に奇襲をかけようとしたが、なんでもないかのように次々と積荷を運ぶルビーを見て、文字通り泳がせてじっと機を窺うことにしたのだ。
「これって酒だったのか。…確かによく見りゃ、ワインケースに見えるな」
ちょうど1本のワインボトルが入る大きさだ。
酒好きなバギーも納得する。
「やっぱりハデにお宝じゃねーじゃねェか!!」
「最高にどう見てもお宝に見えたこの箱が悪い!!」
責められるルビーだったが、歯を剥いて言い返した。
「何を言う。大昔の、世界一の酒造家が作った究極の美酒だ。世界中の美酒家がヨダレを垂らして欲しがるほどの代物だぞ。貴様らにはもったいないほどにな!! プーッフフフフ!!」
パッローネの馬鹿にした笑いと言い方に、カチン、ときたバギーはピクピクと青筋を浮かべる。
「ハデにバカにしやがって…。……しかしまぁ…」
ワインケースに視線を戻したバギーの口元が意地悪く歪み、あごに指を添える。
「おれも酒好きの海賊だ。そんなに美味い酒なら賞味してやろうじゃねーの」
「何!?」
パッローネにとっては困る事だ。
喋りすぎてしまったかと舌打ちする。
ずっと探し続けてきたお宝だけに、一滴でも他人に分ける気はない。
「貴様みたいな酒の味もわからなそうなピエロヤロウにやってたまるか!!」
「肉にタバスコ1瓶かける舌バカヤロウが何言ってやがる!!」
「酒の味覚だけは自信ありっありなんだよ!! 横取りしようなんてしょっぱい事考えやがって…!!」
「言葉も味音痴みたい」
横からつっこむのはルビーだ。
ちなみに、「甘い」と言いたかったのだろう。
「船長!!」
「やっちまいますか!?」
相手は一人だが容赦はしない。
クルー達が武器を手に、バギーの許可を待った。
戦闘準備は万端だ。
「許す!! ハデに殺せェ!!!」
バギーの合図で、クルー達が一斉に踊りかかった。
誰よりも不審に思ったのはルビーだ。
嫌な予感がして汗が浮かぶ。
「あいつ、なんでこんな状況なのに余裕かましてんの?」
同時だった。
パッローネは勢いをつけて両腕を広げた。
「“衝撃玉(ショック・バッロッタ)”!!」
ドパパパパパパパン!!!
誰もが空中に見たのは、数十個のピンポン玉サイズの黄色の球体だ。
パッローネから放たれたものだがその際に手元は見えなかった。
それらはクルー達に着弾した途端に弾け、けたたましい破裂音と共に衝撃波を放つ。
「ぐ!!」
「うがっ!」
喰らったクルー達は甲板や欄干に次々と叩きつけられる。
「お前ら!!」
バギーが一歩踏み出す前にカバジが動き出した。
「調子に乗るなよよそ者が!!」
口からサーベルを取り出したカバジは一輪車に乗ってパッローネに突進する。
「切れ味悪そうな剣だな。だけどこっちは試食する気もねーんだ」
「!?」
同時に、バンッ、とカバジが一輪車ごと勢いよく甲板に倒れた。
「カバ兄!!」
突然のことにルビーは思わず声を上げる。
「な…ん!?」
顔面を打ったカバジは何が起きたのか理解できなかった。
バランスを崩したわけではない。
「何やってんだカバジ!!」
モージの声に、カバジは戸惑いを隠せず言い返す。
「違う!! 一輪車が何かに…!! ぐ…っ、動けない…!?」
ルビーは転んだ位置に目をやった。
見ると、一輪車に青色の粘着物が引っ付いていた。
カバジの体にもだ。
「カバジ!?」
「せんちょ!! 足下!!」
ルビーが叫ぶ。
バギーは声に驚いて思わず立ち止まり、足下に青い球体が転がっているのを見つける。
それらはいつの間にか甲板のあちこちにばら撒かれていた。
パッローネの謎の攻撃を受けて倒れたクルー達は、ほとんどがその青い球体の上に倒れ、とりもちを食らったかのようにその場で身動きがとれなくなってしまっている。
「うわぁ!?」
「な…んだこれ!?」
「動けねえ!!」
力を込めて引っ張れば多少は伸びるが切れはしない。
「“粘着玉(トラップ・バッロッタ)”…。プーッフフフフ! これだけいながらマヌケだなぁ! おれのミラクルの前になすすべなーし!!」
パッローネはその場から動かずに不気味に笑っていた。
「あ…、あいつ何しやがった!!?」
「もち…、ううん、ガム?」
動けなくなったクルー達を見回しながらバギーが叫び、ルビーも驚いて目を見張った。
「外してくれェ!!」
訴えるクルーに別のクルーが駆け寄って外そうとするが、触れば引っ付いてとれなくなってしまう。
「うわ!! くっついた!!」
「一体何が…!!?」
船上は騒然となる。
ナイフで切り取ろうとするクルーもいるが、刃も粘着質のあるそれに絡み取られ、切断することができない。
ならば銃はどうだと銃声を響かせるが、銃弾は貫通することもなく、硝煙を上げながら張り付いていた。
「妙な技使いやがって…。リッチー!!」
「ガルァッ!!!」
モージが命じると、マストの裏にいたリッチーが大口を開けて真横からパッローネに襲いかかる。
くるっと体を半回転させたパッローネは、懐から素早く取り出した短銃を構え、引き金を引いた。
「おやすみィ!」
パンッ、と黄緑色の球体が発射され、リッチーの眉間に着弾して弾けた。
すると、リッチーは目をとろんとさせ、崩れ落ちるように倒れる。
その下はガムで作られた青い球体の上だ。
「リッチー!!」
リッチーがやられてしまい、鞭を片手に走り出したモージだったが、リッチーに近づく手前で急に倒れてしまった。
そのまま甲板で身動きがとれなくなる。
「モー兄!! リッチー!!」
ルビーは声を掛けたが、モージとリッチーに反応はない。
起きたとしても青いガムのせいで立ち上がることもできないだろう。
鼻提灯を膨らませながら爆睡している。
「“睡眠玉(ソンノ・バッロッタ)”のお味はいかがかな?」
はっとしたルビーは手で自身の口と鼻を覆った。
「眠りガス…!」
モージとリッチーの近くにいたクルー達も次々と眠りに落ちているのを見て判断した。
背後からパッローネに近づいたアルビダが金棒を振りかぶる。
パッローネも同じタイミングで振り返り、再び引き金を引いた。
飛び出した黄緑色の球体はアルビダの頬を滑り、別の方向へ飛んでいく。
「!!?」
着弾しなかったことに狼狽えたパッローネに向け、アルビダが振るった金棒はパッローネの短銃を弾き飛ばし、粉々に破壊した。
「おれの、銃が!!」
「いいぞアルビダ!!」
バギーは思わずコブシを握りしめる。
アルビダはそのままパッローネの横っ面に金棒を打ち込もうと再び振りかぶった。
「!?」
しかし、くつくつと肩を揺らして笑うパッローネに、背筋が凍る。
「お前らおれのこと噛み過ぎ。…あ、違った、なめすぎ」
パッローネは両手を前に伸ばした。
指の間に挟まっているのは、先程投げつけていた黄色の球体だ。
それらを弾丸の如く目では捉えきれない動きで左右に放った。
「どこに投げつけて…」
「アル姉!! すぐに離れて!!」
見当違いの方向に投げつけたかと思いきや、船の欄干にぶつかって跳ね返り、アルビダのすぐ傍で球体同士がぶつかり合って一斉に弾け、アルビダに衝撃波が襲い掛かる。
「ッッ!!」
アルビダの体は衝撃に飛ばされてマストにぶつかり、そのままガムで磔にされてしまった。
「アル姉!!」
「アルビダ!!」
不覚を取ったアルビダは、スベスベの肌で脱出を試みようとするが身動きひとつとれなかった。
奥歯を噛みしめ、してやったとにやにやしているパッローネを睨みつける。
(こいつ…! わけのわからない玉のほとんどを手で投げてたのか…!!)
「おれの自慢お手製のガムの玉は、粘着力抜群!! たとえどんな怪力ヤロウでも外せない!!」
パッローネは「プフフフ」と高らかに笑いながら、視線をルビーに移した。
(あの女…、初めて見たクセに跳弾って即座に気付きやがった…。見るからすぎたか? 不意打ち技だったっつーのに…)
悔しい気持ちが湧いてくる。
右手でコブシを握りしめ、口元に当てた。
身をわずかに屈ませて頬を膨らませる。
また何か仕掛けてくる気だ、とバギーとルビーは肩を並べて身構えた。
「“気球玉(バロン・バッロッタ)”」
コブシの隙間に空気を吹き込んだかと思えば、突き出されたパッローネの尻から大きなピンクの球体が膨らんで出て来た。
「「どこから出してんだァ!!!」」
緊迫した中で仕出かされ、キレ気味につっこむバギーとルビー。
ピンクの球体に座ったパッローネは、最初に登場してきた時と同じように、再び宙に浮かんだ。
「“アルバヴィーノ”はおれのモンだ!! 横取りしようとした罪は重いぜェ!? た~っぷり味わいな!! 赤っ鼻海賊団!!」
ビックトップ号に衝撃が走った。
主にバギーに。
思わずワインケースを手離してしまい、甲板に落ちる前にルビーが「おっと」と両手でキャッチし、バギーから視線を離さずに甲板の上に置く。
バギーの様子が冷静でないことは見て取れた。
「だ、だ、誰が赤っ鼻…!!!」
「どっちも最悪に面倒くさいなァ、もー!!」
激怒のあまりうまく言葉が出てこないバギーを、ルビーが後ろから羽交い絞めして止める。
「殺ーす!! ハデにブチ殺ォ―――すっっ!!!」
「落ち着いてせんちょー!!」
ナイフを構えて暴れ出そうとするバギーだが、挑発にのせまいとルビーは放さない。
「プフフフ!! 何キレてんだ、バァーカ!!」
「「あーか」っつったかまたコラァ!!!」
「「バカ」だっつったの!! あ、どっちにしろ悪口か」
そうつっこんだのはルビーだ。
バギーにとっては赤鼻のことを指摘された方が腹が立つのだろう。
「“衝撃玉(ショック・バッロッタ)”!!」
一体どこに隠し持っているのか、頭上から雨のようにばら撒かれる黄色の球体。
甲板上で避けられる場所はない。
ルビーは力任せにバギーの胸倉をつかみ、欄干を飛び越えた。
「うおあああああ!!!??」
泳げないバギーは近づく海面に悲鳴を上げる。
「逃がすか!!」
ベチャベチャベチャッ!!
2人の体に青色の球体が着弾したが、そのまま海へと落下した。
続けてパッローネは黄色の球体をもう一度海面にばら撒いたが、黄色の球体が破裂しても、深くまで潜られたのか、血の一滴浮いてこない。
「先にトドメを刺しておくべきだったか…!」
やがて気配も消えてしまい、パッローネは「チッ」と舌を打った。
「うう…。バギー船長~」
一部始終を網ガムの中で眺めていたクルー達が泣きそうな声を出すが、近くにいるカバジが声を潜めて言う。
「見習いも一緒だ。溺れることはないだろう…。問題は、おれ達だ…」
「その通り!!」
「ぐ!!」
話し声が聞こえたのか、再び甲板に下りたパッローネは、回収したワインケースを脇に抱え、カバジを見下ろして横っ面を踏みつける。
「かわいそうになァ? 船長に置き去りにされちまって…。船長の前に、おまえらから始末してやろうか。もう宝はこっちのものになったのだからな」
事がうまく運んで頬を膨らませるパッローネ。
他のクルー達は恐怖で震えあがった。
「パッローネ船長~!!」
どこからか声が聞こえる。
「…やっと来たか」
ビックトップ号に近づいてきたのは、ほぼ同じ大きさの海賊船だ。
パッローネの船である。
海賊旗は、パッローネのように、頬が膨れたようなドクロが描かれてある。
先に乗り移ってきたのは、副船長のサポーレだ。
「船長、ご無事で」
「当然だ。こいつら全っ然大したことなかったぜ。宝も手に入った。とっとと丸焼きにしてやろう」
(まずいね…)
アルビダが何か打開策はないかと考えた時、ふと、パッローネの抱えたワインケースに目を留め、疑問を口にする。
「それ、鍵がかかってるんじゃないのかい?」
「へ?」
気付いたパッローネはワインケースを改めて見る。
確かに鍵穴らしいものはあった。
鍵穴は変わった形で、普通の鍵穴ではなく、円形だ。
試しに蓋を開けてみようとするが、ビクともしない。
「ぬぎぎ…っ。開かん…」
「叩き割りましょうか?」
汗を拭うパッローネにサポーレが提案を出すが、パッローネは「とんでもない!!」と首を横に振った。
「中身が割れちまったらどーすんだ!? これはやっぱいいことになった…」
「船長、「ヤバい」です」
「しまったな…。そうだった…。かつての酒造家―――ヴィンテージ・ヴィンセントは酒の扱いに関しては特に慎重な男だったと聞く…。鍵も、自分以外、誰にも開けられないように作っていたとか…。悪党にやっちまうくらいなら割れてもいいってか?」
ブツブツと呟きながら、パッローネは甲板をうろうろと歩き回り、再び鍵穴を覗き込んだ。
「う~む。やっぱり楽に開けられそうにないな…。鍵も変わった形で、本によれば、コルク抜きのような形だったと…」
「「あ」」
アルビダとカバジの声が重なる。
思い当たるものがあったからだ。
「あ!!!」
続いて、パッローネも思い出す。
ルビーの首にかけられてあった、コルク抜きのようなバネ型のペンダントだ。
「あああああの女ァアアアアア!!!」
ショックのあまり頭痛を覚え、頭を抱えて膝をつく。
つまり、ルビーがいなければワインケースが開けられないのだ。
こうしてはいられない、とパッローネは手下に取って来させたスピーカーで呼びかけた。
「おい女ァ!! アホ船長ォ!! てめーらのカワイイ手下共は人質だ!!! 返してほしくばー、ウーヴァ島に来い!! 来なけりゃ、こいつらはと羊羹と見なして皆殺しだ!!!」
「船長、「用無し」です」
果たして聞こえていたかどうか。
バギー達から何も言い返しては来なかったが、パッローネはビックトップ号とクルー達を人質に、目的のウーヴァ島へと行ってしまう。
.