05:名前で呼んで!
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数十分後、沈没船からほとんどの荷物を運び出したルビーは、海面から甲板へと飛び移り、人魚の尾から人間の脚に戻した。
「小さい船だから思ったより最速に済んだ。…みんな、どうしたの?」
(((((お前…)))))
投げられたものを無事に受け止めるのに慌ただしく動き回ったクルー達は、甲板の上で寝転んでいた。
嵐を抜けたあとなので、疲労が重なったようだ。
「見習いこの野郎ォ!!」
「うッ!?」
頭蓋骨をルビーの額にぶつけ、バギーはその胸ぐらをつかんでルビーの右頬に赤鼻を押し付けるほど詰め寄る。
「どーしたのせんちょ」
「どーした、じゃねェ!! てめェ、乱暴にポイポイポイポイ投げやがって!! お宝だったらどうすんだ!! いや、お宝らしいものなんて何もねェじゃねーか!!」
バギーが期待していたのは金銀財宝だ。
金属どころか、どれも木材で作られたものばかりで期待しているものが見当たらないのだ。
「あ。なにこれキレイ」
憤慨するバギーをよそに、ルビーが足元に見つけたのは、人骨の首にかかっていた、コルク抜きのような形をしたバネ型のペンダントだ。
こちらは銀で出来ている。
「いや聞けよ人の話っ!!!」
「これはお宝には入らないの?」
拾ったペンダントを首にかけたあと、抱えていたものをバギーの目前に差し出す。
明らかに素材はツヤもあって丈夫な木材。
フチは金のメッキ、変わった形の鍵穴も見当たった。蓋には紋章のようなものがある。
「例の人骨の傍に落ちてた」
「ハデお宝っぽいもの出て来た!!」
憤慨していたバギーの顔がぱっと明るくなる。
わかりやすい。
「よくやった見習い!!」
「……………」
褒めてから宝箱をつかんで取ろうとするが、ルビーは手を放さない。
「…? おい」
視線を宝箱からルビーの顔に移すと、ルビーの頬は微かに膨らんでいた。
不服そうに口を尖らせている。
「虫歯か?」
「どーしてそう見えるの。ちょっとムカついてる」
「ああ?」
「活躍しても、せんちょ、名前で呼んでくれないし」
「なんの話だ?」
「いつまでも「見習い」呼びはなんかヤだ」
「コレ渡したらいくらでも呼んでやるって」
「今呼んでくれたっていいじゃない」
「おめェ、直接言うセリフじゃねェだろ」
「恥ずかしいの?」
「ハデアホが! おれ様はさっさと宝を拝みてェんだよ!!」
「もっと優先することがあるでしょーが!! あたしのこと! ちゃんと! 名前で呼んで!」
互いが宝箱の端をつかんで引っ張り合う。
バギーがちゃんと名前で呼んでくれるまで放さないつもりだ。
クルー達は何事かと眺めているだけだ。
「船長、あまり引っ張ったら…」
「せっかくのお宝が壊れちまうよ」
しかし、モージとカバジは落ち着かせようとする。
落として中身を台無しにする、ベタな絶望展開があってはならない。
「そうだ。丁重に扱えアホが」
「「誰がアホって…!! え?」」
どちらが言ったわけではなく、バギーとルビーはキョトンと顔を見合わせた。
思い返せば、どちらの声でもなかった。
クルー達に振り向いて睨んだが、首を横に振っている。
「誰だ今おれ様をバカにしやがったのは!!!」
バギーが青筋を立てて辺りを見回しながら怒鳴ると、足下を丸い影が通過する。
カモメの影かと思って見上げると、風船のようなピンクの球体がふわふわと浮かんでいた。
「!!?」
驚くバギーに、ルビー達も視線を追って驚愕の表情を浮かべる。
ピンクの球体には人が座っていたからだ。
先程の馬鹿にした言葉もあの男が言ったのだろう。
球体の上で腕を組んで胡坐をかき、こちらを見下ろしていた。
球体はゆっくりと降下し、パチン、と割れて男は着地する。
「おっとっと」
少しよろけた。体型のせいかバランスがうまく取れなかったようだ。
ニヤリと笑みを浮かべて前を向き、偉そうに腰に手を当ててバギー達を見据える。
「てめーらだな。このパッローネ様の顔にバターを塗りやがったヤロウ共は」
「……「泥」って言いたい?」
間を置いてルビーがつっこむ。
丸鼻で頬の膨れたひょうたん顔、頭には黄色のキャプテンハットを被り、膨らんだ腹とはバランスの悪い細長い腕と脚が特徴的だ。
染みつきの前掛けも気になる。
「ん? 海賊?」
ルビーが疑問を口にすると、パッローネは「その通り」と眼差しを向ける。
「貴様だな。おれの海図とエターナルポースを奪った女は…。だが、感謝はしている。こうも早く沈没船から目的のブツを引き上げてくれるとは…」
「もしかして、ずっと見てたのかい?」
次に尋ねたのはアルビダだ。
「ああ。そんなに探したいのなら探させてやろうと…、うえ!!」
アルビダに目をつけたパッローネに、アルビダ派のクルー達がアルビダの前に立って目隠しになる。
「おれ達のアルビダ姉さんをじろじろ見んじゃねえ!!」
「タダ見はお断りだ!!」
「誰だてめェ!!」
「とっとと出てけー!!」
一斉のブーイングだ。
パッローネは機嫌直しに、どこからか骨付き肉を取り出して1瓶分のタバスコをかけてかぶりつきだした。
見ているだけでも口の中がヒリヒリする。
「騒ぐな。胸以外好みではない」
フンッ、と不愉快な顔で鼻を鳴らすパッローネ。
「は?」
美女と自覚しているアルビダにとっては気に食わない言葉だった。
思わず頬が引きつった。
「呑気に食事なんか始めてんじゃねえよ」と一歩踏み出したのはバギーだ。
「あいつらの言う通りだ。どこの海賊か知らねえが、とっととおれの船から出てったほうが身のためだぜ? 奪った宝はおれ様の宝だ。奪い返しに来たってんなら返り討ちにしてやるまで!」
脅すように声を低めたバギーは、数本のナイフを構えた。
カバジ、モージも互いの武器に手をかける。
だが、パッローネは怯んだ表情も見せず、食べ終わって残った骨を放り投げ、前掛けで口元を拭って名乗った。
「おれ達、パッローネ海賊団を知らねえとはな…。海賊を名乗るなら知っておけ。改めて自己紹介だ!! おれは美酒専門の海賊・パッローネ!!」
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