04:楽しく飲まれるはずだった
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宿をあとにしたルビーは荷車を引き、メモを確認しながら順番に買いだしをしていた。
心配して他のクルー達もついてきてくれようとしたが、自分ひとりが任されているのでやんわりと断った。
荷車には購入したものが山のように積まれ、普通の女一人が引けるような量ではなく、通行人がぎょっとしている。
「えーと、肉とか、魚とか、野菜も買ったし…。油も、いいものが買えたし…」
「美味い肉を食べたい時は、美味い油だよ」と肉屋の店員が油の入ったタルを勧めてきたので、少し値は張ったがそちらも買った。
押し売り慣れている印象があったが、こんがり焼けて良い匂いを漂わせる肉や魚は想像するだけで胃を刺激してくる。
そして店員の売り文句に乗ることにしたのだ。
「武器も酒もけっこう買えたし…」
買ったものにはちゃんと鉛筆で一線をつけて消している。
ふと見上げれば、日はとっぷりと暮れていた。
町の明かりのせいで気付かなかったようだ。
「もう日も暮れてる…。まったく、見習い使いが最高に荒いったら…。そのクセ、「見習い」「見習い」って名前も呼びもしない…。わりと気に入ってる名前だから、呼んでほしいなァ…」
拗ねたように口を尖らせて呟き、小さなため息をついた。
その時、
「!!」
ドン、と荷車に、路地から出て来た男がぶつかった。
荷車がよろめいて横に倒れそうになったので、ルビーはすぐさま体勢を変え、荷車を留める。
運よく横倒しにならずには済んだが、詰まれた購入品の中から、1本の酒瓶が荷台から落ちてしまい、音を立てて呆気なく割れてしまった。
「あ!!」
男は3人組で、ぶつかった先頭の男が「気を付けろバカ!!」と罵声を浴びせ、他の2人の男達とともに急ぎ足で去ろうとした。
「……………」
散乱した破片、中の酒は虚しく地面が吸ってしまう。
ルビーは走り去る背中を鋭く睨みつけた。
衝動のままに咄嗟につかんだのは、すぐ隣の酒場にあったテラスのテーブルだ。
その席に着いていた客は突然の事に目を剥いてルビーを凝視する。
構わずルビーは大きく振りかぶってテーブルを投げつけた。
ドカッ!!
「ぐあ!!?」
宙へと投げられたテーブルは先頭を走っていた男の背中に命中して地面に倒れ、後ろを走っていた2人は、先頭の男に躓いて転び、先頭の男を下敷きにする。
目撃していた通行人はあっという間に野次馬と化す。
ルビーは空いている左手で荷車を引きながら男達の元へと近づいた。
「人の酒割っといて、謝らずに行こーなんて最っ低」
「て、てめェ!!」
「いきなり何投げつけやがったこのアマ!?」
「ぐ…」
先頭にいた男はうつ伏せに倒れたまま呻いた。
顔面を打ったようで鼻血を垂らしている。
立ち上がった他2人の男達は剣と銃を取り出した。
「こっちは急いでるっつーのによォ…!!」
「ナメたマネしやがって!! おれ達をどこの海賊団だと思ってんだ!!!」
「頭キてんのはこっち! てゆーか、あたしも海賊だし!」
自身を指さし、したり顔をした。
「見習いだけど」と視線を少しずらして小さく付け加える。
見習いとはいえ、海賊を名乗れることが実は気分が良かったり。
「はっ。おまえがァ!?」
「どこの海賊団だ言ってみな」
嘲笑っている男達にムカつきながらも、海賊団を名乗る。
「バギー海賊団!!」
「「知らん」」
ぼこっ!!
「覚えろ!!」
いきなり至近距離まで詰め寄ったルビーは、握りしめたコブシで剣の男の右頬を殴りつけた。
吹っ飛んだ剣の男は近くの店の壁に激突して倒れる。
「ひっ…」
腰が引けながらも、銃の男が銃口をルビーの頭に向けた。
「こ、こここ、このヤロウ…ッ、やりやがったな…!!?」
「元々そっちから最悪に仕掛けてきたんでしょーが。這いつくばって、地面に染み込んだ酒を残さず啜るなら許してあげる」
冷めた目の端で、割れてしまった哀れな酒瓶を見る。
「ナメてんじゃねェ!! おれ達はかの有名なパッローネ海賊団…」
「先に、楽しく飲まれるはずだった酒に謝れ―――っっ!!」
言いかけている途中だろうが構わず、ルビーが躍りかかる。
「ぎゃあああ」
たった数秒で片がつき、ルビーの足下には大の男3人が転がっていた。
ルビーは躊躇わず男達の懐やポケットを漁り、金目のものを探す。
「へぇー、わりと持ってるー」
金の入った小袋を見つけた。
「ベンショー代としてもらっとくから。…ん? なにこれ?」
次に見つけたのは、四つ折りにされた海図と、“永久指針(エターナルポース)”だ。
海図を広げてみると、ヴィネ島から辿られるように赤い線が引かれていた。
どこかの島に繋がっているのかと目で追えば、赤線は途中の海で切れ、バツ印が記されてある。
「…もしかしてこれって…、宝の地図!!?」
初めて見たのでテンションもグンッと跳ね上がった。
はやる気持ちを抑えきれず、海図とエターナルポースを握りしめ、荷車を引きながら宿へと走る。
最初にルビーにテーブルを投げつけられて倒れた男が、「ま、待て…」と手を伸ばし、立ち上がろうとしたがロクに動くことも出来ず、伸ばされた手は空を掻いただけで地面へと落ちた。
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