09:The only reality

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10月27日土曜日、午前0時。

夜戸は足立達とともに、トコヨにある、姉川が身を潜めているだろう廃ビルの前へとやってきた。

シャドウの気配はなく、辺りは静まり返っている。

足立、夜戸、ツクモ、森尾の4人は不気味な雰囲気を纏う廃ビルを見上げた。


「し…、心霊スポットみたいさ…っ」

「やめろそういうのッ」


体を震わせて怯えるツクモの言葉に、森尾もつられて悪寒を覚える。


「ここで合ってる?」


足立に確認をとられ、夜戸は頷いた。


「はい…。ここで行われていた政治家の密会を狙って撮影したところ、バレて訴えられたそうです。華ちゃんの弁護の為に、あたしも何回か訪れました」


その弁護の依頼がきっかけで、担当となった夜戸と、依頼した姉川が初めて出会ったのだ。


「…なぁ。入ろうぜ」


いつまでも同じ場所に立っているのが耐え切れなくなった森尾が促し、夜戸達はビルの中へと入っていく。


「…また」


足立が呟いた。

「え」と森尾が構える。


耳をすませば、ノイズ音が聞こえた。

足を止めて辺りを見回せば、階段の踊り場に取りつけられてあるヒビの入った小窓に映像が映し出される。


“お父さんは犯人やない! 人殺しなんかせえへん!”


小学校高学年くらいの少女が叫んでいる。

母親と、近所の大人たちに肩をつかまれ、身動きが取れない状態だ。

刑事らしき男達が少女の父親の両脇に立ち、パトカーへと誘導している。

一度止まって振り返る父親は、少女に笑みを向けた。


“華…、おとーさん、ちゃんと帰ってくるからなぁ…”

“お父さ―――んッ!!”


涙を流し訴えても、無慈悲にも父親を乗せたパトカーは、サイレンとともに遠くへ行ってしまう。


場面は切り替わり、教室の席に着いたままの少女の周りを、クラスメイト達が囲っていた。


“お前の親って、ハンザイシャなんやろ?”

“悪い人の子どもやって、おかーさんがゆってた”

“はーんざいしゃっ。はーんざいしゃっ”

“悪いやつはシケーになるんやで”


うつむいていた少女は立ち上がり、机を持ち上げた。


“わああああああ!!”


涙を浮かべながら机をがむしゃらに振り回した。

クラスメイト達は蜂の巣をつついたように逃げ回った。

教室を飛び出したクラスメイトは急いで担任を呼びに行き、ほとんどは廊下に避難した。

ひとり教室に取り残された少女は、毛を逆立たせて威嚇し、「お父さんは、何もやってへん」と叫んだ。


場面はまた切り替わり、中学に上がった少女は、母親とともに電気を消した部屋の中でひっそりと息を潜めていた。

何度もインターホンが鳴らされ、玄関のドアを叩かれる。


“新しく引っ越ししたこと聞きましたよ。話を聞かせてください”


加害者家族を記事にしている記者だ。

引っ越しをしても嗅ぎつけられ、うんざりしていた。

母親も疲れ切った様子だ。

リビングのテーブルの上には、事件に関するスクラップ記事ばかりが並べられていた。

強盗殺人、あの有名カメラマンの裏の顔。

記事には、何の根拠もないのにあることないことが記載されていた。


“…全部うそっぱち…”


映像が終わった。

夜戸達は再び歩み始め、階段をのぼっていく。


「……彼女の父親は、仕事の際に、たまたま事件現場に居合わせてしまっただけだった…。付近からその目撃者が出て、容疑者になってしまい…、有名なカメラマンだったので、当時は話題になったそう」

「冤罪だったってことスか?」


森尾の質問に夜戸は頷く。


「真犯人は、のちに発覚。金が底を尽いたから再び強盗事件を起こして、現行犯逮捕されたことで華ちゃんの父親の濡れ衣が晴れた」

「よかったんじゃないのさ? お父さん、帰ってこられたわけさ?」

「釈放されましたけど…」


夜戸はわずかに目を細めた。


「ご家族に迷惑をかけると思ってか、娘のもとには戻ってこなかった。冤罪だったとはいえ、あらぬ疑いをかけられて警察からは拷問に似た取り調べ、世間からは言われ放題のバッシング。記事のせいでロクでもないイメージも定着されてしまい、仕事も復帰できず…、釈放されてから半年もしないうちに遺体で発見されました。…自殺です」

「……………」


森尾は舌を打ち、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「…そんなことがあったのに、フリーライターになったんだ?」

「話題作りが目的じゃない、真実を求めた記事を作りたい、って言ってました…」

「……人を傷つける記事なんて、望んでないよな…」


そう言ったのは森尾だ。


「でも、人間ってそういう記事が大好物なのよね」

「!」


4階に上がり切ったところで声が聞こえた。扉のない出入口からだ。


夜戸達は部屋に足を踏み入れ、部屋の奥ですでにクラミツハを召喚している姉川と対峙する。


「いらっしゃい。待ってました~。夜戸さん、どうですか? ウチについてきてくれる気になりました?」


夜戸の視線が、姉川の首に掛けられたカメラに移り、再び姉川と顔を見合わせて答える。


「……華ちゃん…、あなたを現実に連れ戻す」

「拒否ですね。わかりました」


あっさりとした口調でゴーグルをつけたままにっこりと笑い、「さよなら」と冷たい声を発した。


ガシャアンッ!


「!」


姉川の背後の窓を突き破り、赤、黄、緑、青のシャドウ達が続々と入ってきた。

この前より数も多い。


「き、来た!」


ツクモは慌てかけるが、甲冑を身に着ける。


「あっちの戦闘準備もバッチリじゃない」


足立は腰に挟んだリボルバーをつかみとった。

夜戸はナイフを、森尾はバールを赤い傷痕から取り出して構える。


「記事の出だしはこう。“心霊スポットの廃ビルに男女3名の変死体発見!! 人形の呪い!?”って。謎の人形がズタボロの状態で落ちてたら、ホラーミステリーだと思うなぁ。オカルト記事って馬鹿にしてたけどアリかもしれない」


独り言を呟き、クラミツハの探知能力を発動させた。

まるで水族館の大きな水槽の中のように、無数の水魚が部屋を泳ぎだす。



「「「「ペルソナ!」」」」


夜戸達の声が重なり、各々のペルソナが召喚された。


「もう手加減なんてしてあげない…!」


姉川は金色の瞳を見開き、右手を掲げる。


「集合!!」


シャドウ達は、同じ色同士が密集し合った。


「あ…、俺、同じ光景をゲームで見た事ある…」


嫌な予感を覚えた森尾は、思わず後ずさる。

ゲームの時は小さなモンスターが8体集まった時に起こったが、目の前のシャドウ達は15体ほど一気に集まり、集まった分だけ大きくなって粘土でこねられるよう形を成していく。

そして出来上がったのは、全長3mまで巨大化した赤、青、黄、緑の4体のシャドウだ。

ダルマのような体型を持ち、各色のマントを背にはためかせ、胴体の中央には水晶玉が埋め込まれ、手と足と、ぎょろりとした目玉が2つ付いた仮面が浮かんでいた。

出来上がり前より不気味な風貌になってしまった。


「赤!」


前の比でないことは明確だろう。

赤のシャドウが巨大な炎を放つ前に、ミカハヤヒが前に出る。


「みんな! ミカハヤヒの後ろに隠れるさ!」


炎の塊が襲い掛かり、ミカハヤヒの3枚の盾が防いだ。熱風が室内に充満する。


「あっちぃ…!」


イハサクが飛び出し、赤のシャドウに戦槌を振り下ろすが、


「緑!」


緑のシャドウが横から竜巻のような風をぶつけてきた。


「ぐっ!」


吹っ飛ばされたイハサクが壁に激突する。

衝撃が森尾の身体に走った。


今度はイハサクに向けて黄のシャドウが躍り出る。

雷撃を手の中に溜めた時、あとを追うように飛び出したイツとマガツイザナギが同時に曲刀と矛を黄の胴体に突き刺した。


「まずは一匹!」


足立が言うと、姉川はニタリと笑った。

夜戸は目の端で確認し、ただならぬ予感を覚える。


「トドメを!」

「!?」


イツとマガツイザナギがもう一撃食らわせようとした時だ。


消滅しかけていた黄のシャドウの周りに数匹の水魚が集まり、黄のシャドウに触れて溶け込んだ。

すると、黄のシャドウは温かな光に包まれ、突き刺された部分は塞がり、ダメージなどなかったように元に戻る。


「回復!?」


驚いてツクモは声を上げた。


クラミツハの能力は、探知だけではなかった。

回復魔法まで持ち合わせている。


回復した黄のシャドウは、夜戸達のペルソナに雷撃を放った。


バリバリバリバリッ!


「うわああああ!!」


威力は強化されている上に広範囲に及び、夜戸達の叫び声が轟く。

凄まじい攻撃は続いた。


緑のシャドウはマガツイザナギに竜巻をぶつけ、青のシャドウはミカハヤヒを氷結させ、赤のシャドウはイハサクに炎の塊を食らわせ、黄のシャドウはイツに雷撃を落とした。


「――――ッッ!!!」


ペルソナ達とともに、夜戸達もその場に倒れる。

ペルソナの身体はノイズで乱れ、今にも消え入りそうだ。


「ちょっとまって…。思った以上にメンドーなんだけど」


水面に浮かぶように仰向けに倒れた足立は、床に手をついて起き上がろうとする。


「シャドウにダメージを与えても、クラミツハに回復される…」


うつ伏せに倒れた夜戸は、シャドウ達を見上げた。


「全回復までとはいかなくても、厄介さ…」

「どーすんだ、攻撃も読まれちまうのに…!」


半身を起こした森尾は、次の攻撃に備えて立ち上がろうとする。


「……ゲームの敵も同じ…、先に補助系から叩いた方がいいよね」


そう言ったのは足立だ。

全員の視線が、シャドウ達の向こう側にいるクラミツハに集中する。


「……みんな、いい?」


夜戸は思いついたことを小声に出した。


何かを企んでいると見てとった姉川だが、鼻で笑うほど心には余裕がある。


(こっちは弱点も攻撃パターンも見えてる…。何をしようとしてもウチにはわかるんだから、さっさと諦めればいいのに…)


ふと、思い出す。

不利な裁判でも怯むことなく法廷に立って堂々と真実をぶつける、夜戸の勇ましい姿を。

裁判が終わったあとに、彼女にこう言った。


『ギリギリだったじゃないですか。弁護士って、都合よく解釈して発言するものでしょ? 必要なら真実だって捻じ曲げる…』


対して彼女が返した言葉は…。

思い出しかけ、払うように頭を振る。


(つかみどころのない人だけど…、夜戸さんだって負けることくらいある…!)


夜戸達が動き出そうとしているのがゴーグル越しに見えた。

ペルソナ達は体勢を整え、武器を構える。


「行くぞ!!」


森尾が一声を発し、一斉に動き出した。

ハッ、と姉川は呆れかえって笑う。


「同時に動いたって見えてるから!」

「イツ!」


イツがその場で疾風魔法を発動させ、粉塵を巻き起こす。


「!」


(動きは見えてたけど…、イツの方が一足早かったか…)


水魚たちが迷うような動きをとった。

ペルソナはともかく夜戸達が見えなくなり、ゴーグルが一瞬沈黙する。

粉塵のせいだが、緑のシャドウに疾風魔法を発動させて邪魔な粉塵を吹き飛ばす。


「はい無駄~!」


どちらにせよ、狙いがクラミツハなのはゴーグルがなくてもお見通しだ。

何の作戦を立てたかと思えば、目くらましとごり押し。

ペルソナを結集させて突っ込んできた。

これが笑わずにいられようか。


イハサクとミカハヤヒが、赤と青のシャドウに飛びかかり、行く手を阻む。

緑と黄がその背後を狙うが、ミカハヤヒの円盤の盾とイツがぶつかり、それを阻止する。


「!」


そして、シャドウ達の動きを鈍くさせている間に、マガツイザナギがこじ開けられた道を抜け、跳躍し、クラミツハの顔面目掛けて矛を突き出す。

クラミツハは、寸前で首を傾けて紙一重でかわした。


「!!」

「だから、読めとるて…」


無駄なあがき、と姉川は冷ややかに言う。


イハサクにしがみつかれている赤のシャドウの水晶玉が光った。


「!?」


シャドウの胴体の水晶は、背中にもあった。

背を向けたまま火炎魔法を発動しようとする。


「やめろ!!」


森尾はバールを手に姉川に突っ込もうとしたが、


「!」


緑のシャドウがミカハヤヒの盾を弾き、森尾目掛けて疾風魔法を発動させた。傍にいた足立は森尾の胸倉を引っ張り、位置をずらす。

疾風魔法は的を外すが、巻き起こる暴風が森尾と足立を襲った。


「ぐッ!」

「うわっ」


吹き飛ばされた2人は出入口付近の壁に背を打ち付け、床に落ちる。


「アダッチー! モリモリ!」


赤のシャドウがマガツイザナギに向けて火炎魔法を放った。

直撃し、マガツイザナギの身体が燃え盛る。


「う…ッぐ!」


足立の身体に痛みが走った。


「足立!」

「これでしまい……」


口角を釣り上げようとした姉川は、途中で止めた。


夜戸さんは…?)


足立達の傍にはいない。

はっとして足立の顔を見る。

上げられたその表情は、苦痛に眉をひそめながらも、口元はほくそ笑んでいた。


「!!」


消えかかるマガツイザナギから、人影が飛び降りた。


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