Slice of Life
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・Happy first Valentine's Day
喫茶店の定休日。
店内は甘ったるいカカオの匂いで満たされていた。
「……………」
カウンター席に座る足立は、目の前にある、10枚以上の分厚いパンケーキタワーに絶句していた。
生地にはチョコレートがたっぷりと練りこまれ、ダークブラウンだ。かかっているソースもこれまたたっぷりのチョコである。
席に着いて硬直している足立の傍らには、エプロン姿の夜戸が立っていた。
足立の後ろのテーブル席には、森尾ファミリー、落合、ツクモ、月子が見守っている。
それぞれのバレンタインは足立が来る前に済ませ、大人組は足立のリアクションを少し面白がっていた。
月子に抱っこされるツクモは「ツクモは食べちゃダメさ?」と尋ね、「さっきチョコいっぱい食べたでしょ」とつっこまれていた。
夜戸は、ス…、とパンケーキに手を差し伸べて足立に言う。
「どうぞ、遠慮なく召し上がってください」
「召し上がってください、じゃなくて…。……なんでパンケーキ?」
「今まで過ぎ去ったバレンタイン分です」
足立が刑務所にいる間はそんなイベントを祝うことはなかった。
そもそもその前もイベント当日に行ったことさえない。
夜戸はちゃんと祝えなかった年数を数えながら1枚1枚丁寧に焼いたのである。
「あー、1年分でパンケーキ1枚ね。今日バレンタインだからチョコにしたんだね」
なるほどね、と一瞬納得しそうになるが、目の前の10枚以上のパンケーキタワーに「いやいや」とすぐに首を横に振った。
「どうしてそんな節分方式にしたの。むしろ豆くらいだったらまだいいよ。もう今の僕の年齢でこの枚数はちょっと…」
(アポ〇チョコ年月分でもいいのに…)
と言いそうになったところで、「え…」と小さなショックを受けている夜戸の顔を見て言葉を呑み込む。
足立は、夜戸が相当の甘党だということを忘れていた。
「明菜さんなら、ヘでもないかもしれないけど」
「アダッチーが食べないならツクモがいただくさー!」
ツクモの食欲は限界だった。
いつまで経っても手を付けない足立に対して我慢できず、月子の腕を抜け出し、大口を開けてパンケーキに飛びかかる。
だが、足立は、飛んできたツクモを、バスケットボールのように片手で受け止めた。
「食べないとは言ってない」
((こいつ…))
受け止める気があるなら最初から文句を言うな、と睨む森尾夫婦。
「おまえ何気に夜戸さんから手の込んだチョコ貰って嬉しいんだろ」
「いただきまーす」
からかう森尾を無視し、両手を合わせてフォークとナイフを手に取る足立。
そこからは一口サイズに切ってはもりもりと口に運んでいく。見た目と匂いに圧倒されたが、ビターチョコで甘すぎないように作られていた。
時折、水分が欲しくなれば夜戸があらかじめ淹れてくれたコーヒーを飲む。
夜戸と森尾達はフードファイターの挑戦を見守るように眺めた。
だんだんとスピードが落ちる足立。
味はいいが、問題は量だ。
そしてついに、数枚を残してナイフとフォークが止まってしまう。
どこに隠し持っていたのか、ツクモはカンカンカーンとゴングを鳴らして「終~~~了~~~さ~~~」と叫ぶ。
「残ったパンケーキはツクモが美味しくいただくさー!」
待ってましたとツクモは余ったパンケーキを食べ始めた。
「あーあー」と落合はティッシュ箱を持ってツクモに駆け寄り、「ツクモ姉さん、口がベタベタになるよ」と止めに入る。
「思ったよりけっこう食べたなー」と森尾。
「見てるだけでおなかいっぱい」と姉川。
夜戸に肩を貸され、テーブル席に移動してゆっくり腰掛ける足立。
「透さん、大丈夫ですか?」
「明菜……さん……」
言葉を発するのも苦し気だ。
しかし足立は夜戸の肩に手を置いて顔を近づけさせる。
「?」
「食べきれなかった分は…、また来年作って……。めんどうでなければ……」
食べ切れなかったのが悔しかったのか、口を尖らせていた。
「来年も……」
その約束に、夜戸は嬉しそうに「はい」と声を弾ませた。
「めんどうは好きですよ」
誰かさんのように。
.END
喫茶店の定休日。
店内は甘ったるいカカオの匂いで満たされていた。
「……………」
カウンター席に座る足立は、目の前にある、10枚以上の分厚いパンケーキタワーに絶句していた。
生地にはチョコレートがたっぷりと練りこまれ、ダークブラウンだ。かかっているソースもこれまたたっぷりのチョコである。
席に着いて硬直している足立の傍らには、エプロン姿の夜戸が立っていた。
足立の後ろのテーブル席には、森尾ファミリー、落合、ツクモ、月子が見守っている。
それぞれのバレンタインは足立が来る前に済ませ、大人組は足立のリアクションを少し面白がっていた。
月子に抱っこされるツクモは「ツクモは食べちゃダメさ?」と尋ね、「さっきチョコいっぱい食べたでしょ」とつっこまれていた。
夜戸は、ス…、とパンケーキに手を差し伸べて足立に言う。
「どうぞ、遠慮なく召し上がってください」
「召し上がってください、じゃなくて…。……なんでパンケーキ?」
「今まで過ぎ去ったバレンタイン分です」
足立が刑務所にいる間はそんなイベントを祝うことはなかった。
そもそもその前もイベント当日に行ったことさえない。
夜戸はちゃんと祝えなかった年数を数えながら1枚1枚丁寧に焼いたのである。
「あー、1年分でパンケーキ1枚ね。今日バレンタインだからチョコにしたんだね」
なるほどね、と一瞬納得しそうになるが、目の前の10枚以上のパンケーキタワーに「いやいや」とすぐに首を横に振った。
「どうしてそんな節分方式にしたの。むしろ豆くらいだったらまだいいよ。もう今の僕の年齢でこの枚数はちょっと…」
(アポ〇チョコ年月分でもいいのに…)
と言いそうになったところで、「え…」と小さなショックを受けている夜戸の顔を見て言葉を呑み込む。
足立は、夜戸が相当の甘党だということを忘れていた。
「明菜さんなら、ヘでもないかもしれないけど」
「アダッチーが食べないならツクモがいただくさー!」
ツクモの食欲は限界だった。
いつまで経っても手を付けない足立に対して我慢できず、月子の腕を抜け出し、大口を開けてパンケーキに飛びかかる。
だが、足立は、飛んできたツクモを、バスケットボールのように片手で受け止めた。
「食べないとは言ってない」
((こいつ…))
受け止める気があるなら最初から文句を言うな、と睨む森尾夫婦。
「おまえ何気に夜戸さんから手の込んだチョコ貰って嬉しいんだろ」
「いただきまーす」
からかう森尾を無視し、両手を合わせてフォークとナイフを手に取る足立。
そこからは一口サイズに切ってはもりもりと口に運んでいく。見た目と匂いに圧倒されたが、ビターチョコで甘すぎないように作られていた。
時折、水分が欲しくなれば夜戸があらかじめ淹れてくれたコーヒーを飲む。
夜戸と森尾達はフードファイターの挑戦を見守るように眺めた。
だんだんとスピードが落ちる足立。
味はいいが、問題は量だ。
そしてついに、数枚を残してナイフとフォークが止まってしまう。
どこに隠し持っていたのか、ツクモはカンカンカーンとゴングを鳴らして「終~~~了~~~さ~~~」と叫ぶ。
「残ったパンケーキはツクモが美味しくいただくさー!」
待ってましたとツクモは余ったパンケーキを食べ始めた。
「あーあー」と落合はティッシュ箱を持ってツクモに駆け寄り、「ツクモ姉さん、口がベタベタになるよ」と止めに入る。
「思ったよりけっこう食べたなー」と森尾。
「見てるだけでおなかいっぱい」と姉川。
夜戸に肩を貸され、テーブル席に移動してゆっくり腰掛ける足立。
「透さん、大丈夫ですか?」
「明菜……さん……」
言葉を発するのも苦し気だ。
しかし足立は夜戸の肩に手を置いて顔を近づけさせる。
「?」
「食べきれなかった分は…、また来年作って……。めんどうでなければ……」
食べ切れなかったのが悔しかったのか、口を尖らせていた。
「来年も……」
その約束に、夜戸は嬉しそうに「はい」と声を弾ませた。
「めんどうは好きですよ」
誰かさんのように。
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