35:The world is not that bad
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世界の存亡をかけ、足立のマガツイザナギと二又のオドヤマツミがぶつかり合う。
二刀流になったオドヤマツミに一歩も引けを取らず、マガツイザナギは矛で攻防した。
「全部失ったくせにどうかしてるぜ! 世界を助けたところで誰もてめぇなんか褒めやしない!! 殺人犯は死刑!! って世の中の奴らに指をさされるだけだぁ!! あえて冷酷な現実にしがみつくなんて馬鹿らしいと思わねェか!?」
足立の胸の中には、面会に来た堂島と、手を差し伸べてきた“彼”の姿がよぎった。
「馬鹿らしいかもしれない。ゲームが終わって、全部失ったと思ってた…。なのに、こんな僕にも残されたものはちゃんとある…! 否定なんてしたら、僕という人間まで、本当に全部なかったことになっちまうだろ!!」
二又は「ぶはっ」と噴き出し、腹を抱えて笑う。
「ヒャハハハ!! くだらねぇ…! くだらねぇなぁ、足立ィ!! 自分を捨てちまうなんざ簡単だろうが!!」
オドヤマツミの振るい上げた曲刀が、マガツイザナギの胴体を切りつける。
「自分と言う存在に固執する必要なんてねぇんだ! なーんにも縛られなくて気が楽だぜ!? 俺と夜戸明菜を見習えよォ!!」
最後の一言が、足立の神経を逆なでした。
「テメェと一緒にするんじゃねぇよ」
マガツイザナギの突き出した矛がオドヤマツミの左腕を曲刀ごと切り落とす。
「彼女はお兄さんになり替わろうとしていた。いつだって親に比較されて見られるんだ。気が楽だったと思う? 親に見捨てられない為に、親の望みに添おうと必死だった…! 覚悟は決めても、簡単に自分という存在を捨てられるはずがない。そうじゃなければ、僕達は出会わなかった!」
昼休みの図書室で対面していたのは、間違いなく夜戸明菜というひとりの存在だ。
困った顔も、怒った顔も、笑った顔も、誰かのものではなかった。
「アンタと全然違う。人の心が見える彼女は、過酷で無情な現実を目にしても、それでも誰かと繋がろうとしていた。酷い別れ方をした、僕に対しても、青臭い約束の為に会いに来てくれた。夜戸さんと再び関わったことで、僕にも厄介なものばかり増えたよ。退屈はしないけどね」
突然独居房に現れたツクモ、拘置所の運動場で絡んできた森尾、夜戸とのことで何かと気に掛けてくれる姉川、経歴を知りながらも親しげに「透兄さん」と声をかけてくれた落合…。
この半年で色んな出会いがあった。
どれも夜戸が繋げてくれたものだ。
「アンタは、人の心に触れられる力を持っているのに、利用することを選んだんだ!」
「当然だろぉが!!」
オドヤマツミは背中から有刺鉄線を伸ばし、マガツイザナギを縛り上げた。
感覚が直結し、足立の身体が硬直する。
「こんな便利な力、利用しない手はねぇだろ! 相手を理解してなんになる? 傷のなめ合いか? 他人から奪い取るのが俺の業だ!! 奪い続けることで、生きてるって実感するんだよぉ!!」
「ははっ。言い訳だね。効率が悪いよ。そんな生き方しか知らないだけじゃないか。その気になれば、奪うことだけじゃなくて、与えることもできたはずなのにさぁ…!」
足立は歯を食いしばって腕に力をこめ、強引に両腕を広げて束縛を解いた。
マガツイザナギも自力で有刺鉄線を千切る。
「本物だろうと偽りだろうと、『愛情』ってやつが怖いんだろ?」
「…!! ……違ェ…」
「だから強引に奪うことしかできない。思い通りにいかないことはガキみたいに喚き散らして、誰かに手を差し伸べること、差し伸べられることを恐れてるんだ」
「違ェっつってんだろがぁっっ!!」
再びヘビのようにのたうちながら有刺鉄線が束になって襲ってくる。
マガツイザナギは矛で絡め取り、力任せにオドヤマツミの背中から引き千切った。
背中に痛みを覚える二又は、不意に昌輝の事を思い出した。
『家族は巻き込めない』
神剣の適性が高い日々樹の名を出すと、日々樹の叔父である昌輝はそう言って二又の提案を却下した。
『へぇ…』
二又はなんでもないふうを装っていた。
(昌輝さん…。ねぇ…、俺は…?)
去りゆく昌輝の背中に語りかけた。
実際に尋ねることはしなかった。
(所詮は、ままごとだ)
昌輝と家族として血が繋がっているわけでもない。
欲望教から保護され、研究対象になっているだけだ。
本当の二又楽士がしたように、昌輝に自身への愛情を植え付けることも出来ただろう。
二又は昌輝の頭に手を伸ばしかけたが、触れることをやめた。
そして、自分のやり方を選んだ。
“憎まれてもいい。昌輝さんは、俺のことだけ考えてくれればそれでいい。愛なんていらない。ずっとそうだった。俺は、憎まれることにも疎まれることもにも慣れている。身体も馴染んでる。今更…”
ヒビが刻まれたテレビ画面はノイズを映し、声が聞こえる。
誰にも知られたくなかった、二又自身も目を背けていた本心だ。
“母さんや二又楽士みたいに偽りでもいい…。寂しいから…、愛が欲しいなんて…”
子どものような、泣き声にも聞こえた。
「黙れぇ―――っっ!!!」
オドヤマツミが矛をめちゃくちゃに振り回し、積み上げられたテレビを粉々に壊した。
「いらねぇんだよ!! そんな曖昧で余計なまやかしモン、すぐに消してやる!!! 世界もろともなぁ!! 欲望こそが本物なんだ!!! ジャマすんじゃねェェッッ!!!」
湧きおこる破壊衝動と共に二又が十字架型のナイフを掲げると、隻腕のオドヤマツミが全力で矛を突き出し、突進してきた。
「そこが俺とアンタの違いだっつーんだよ。結局、望んでるのは虚ろな世界じゃない。どこかで自分自身を捨て切れてない部分があることに、まだ気付かないの? 未練があるのはテメェの方だろ!」
足立は撃鉄を起こし、銃口をオドヤマツミに向ける。
「世界がなくなっちまえばいいと本気で思ってるなら、ハンパに作り直さずに全部消してみろよ!!」
ドン!!
引き金を引くと同時に、オドヤマツミに突進したマガツイザナギが矛を突き出した。
一瞬にして交差する2つのペルソナ。
「が…ッあ…!」
二又は顔面を抱えてうめく。
同時に、オドヤマツミの顔が逆十字を掛けた胸にかけ、縦に真っ二つに割れた。
手にした矛はボロボロに砕け、オドヤマツミは闇となって飛散し、消滅する。
二又は襲い来る痛みにもがき、指の隙間から、夜戸と目が合った。
絶望に染まった望んだ瞳とは、すでにかけ離れている。
同じだと信じていたかった。
共に先導者として新しい世界を歩みたかった。
「…君じゃなかったんだ」
十字架型のナイフを投げつけた。
ゴッ!!
瞬間、足立の渾身のコブシが、二又の左頬に炸裂する。
一瞬で二又の身体と意識がブッ飛んだ。
夜戸目掛け投げつけられたナイフは、夜戸の心臓に突き刺さる直前に消滅した。
「もう、奪わせねぇよ」
殴りつけたコブシをぷらぷらとさせ、足立は倒れた二又を見下ろして呟く。
「はぁ…。しんっど……」
マガツイザナギが還り、足立の身体は貧血を起こしたみたいにフラッとよろめいた。
このまま地面に倒れると思ったが、駆けつけた夜戸に、正面からぶつかるように抱き着かれて体を支えられる。
「おつかれさまです…、足立さん…っ、おつかれさま…」
労いの言葉と小柄な体は震え、そんな夜戸の肩にアゴをのせた足立は小さく笑った。
「僕はいいから、早く月子ちゃんを下ろしてあげよう」
本音を言えば、温もりに身を預けて眠ってしまいたかった。
「…!?」
気絶していたはずの二又が、いつの間にか音もなく起き上がっていた。
「楽しませてもらったぞ」
空間は威圧的な空気に支配される。
明らかに二又のものではなかった。
「余興を終えたところで、世界の終焉を始めようではないか」
.To be continued