35:The world is not that bad
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クラクションの音が聞こえ、ヘッドライトに照らされた。
「森尾―――!!」
男の声が聞こえ、横付けするように停車したのは、青と白のマイクロバス型の大型護送車だ。
内側からドアが開けられる。
「これは…っ」
戸惑っていると、「早く入りなよ」と少年の声が降ってきた。
はっとして見上げると、バスの上に、ガスマスクを頭につけた知った顔の少年が足を投げ出して座っている。
「小栗原か!?」
「ガス爆発に巻き込まれても知らないから」
森尾は、「早く!」と差し出された女の手をつかんで引っ張りこまれた。
「さすが若いねぇ。元気そうじゃないか」
「お、お久しぶり…」
車内にいたのは、都口と道草だ。
「出していいよ。ガスも撒いておいたし、引火よろしく」
ドアが閉まり、ガスマスクを顔につけた小栗原は運転手に催促する。
「おう!」
運転席に座っていたのは、拘置所に残したはずの鹿田だった。
「鹿田!?」
「待たせたな!」
シャドウ達に囲まれる前にバスを発進させ、窓から後方目掛けて赤いダーツを投げつける。
地面に突き刺さり、ボッ、と火が点火した瞬間、
ドオン!!!
橋の中央が大爆発した。
シャドウ達は吹っ飛び、爆風でバスが揺れる。
「ちょっと、どんだけガス散布したのさ!」
都口が窓から顔を出してバスの上に座る小栗原に文句を言った。
「バスが吹っ飛ばないだけよかったでしょ。おばさん」
「生意気なガキだね!」
「このメンツは一体…」
キーッと怒る都口を、道草が「まあまあ」となだめる。
森尾は、未だに状況が把握できず動揺していたが、「も…、モリモリ…」と奥の方から別の声が聞こえて振り返った。
奥の座席シートにいたのは、ぐったりした様子のツクモだ。
「ツクモ!」
駆け寄り、抱き上げる。
「お前も無事でよかった!!」
「ヘビのシャドウを倒して疲れてたところに、ツクモを拾ってくれたさ」
ヘビ型シャドウはヒハヤビの円盤で全て倒した。
しかし、疲れ切った状態のツクモに、先程の森尾と同じくシャドウに囲まれそうになったのだ。
そこへ拘置所から駆けつけてきた鹿田たちに拾われたらしい。
「お前ら…、何で…」
ようやく疑問を口にする。
「なははっ。まあ、そういう反応にもなるわなぁ。俺も驚いた」
鹿田は苦笑いし、都口は面倒くさそうに顔をしかめた。
「さっきも話したところなのに。説明が面倒だねぇ。そこのお人形と同じく、男が細かいこと気にするんじゃないよ」
ツクモは「ツクモは女子さ!」とツッコむ。
「わ、私達も、拘置所を抜け出してきたの…。中の様子がおかしくて…。そしたら…、そ、そちらの鹿田さんを見つけて…」
道草は前に出ると説明を始めた。
地下駐車場が騒がしかったので駆けつけたところ、刑務官と収容者達相手に足止めしようと戦っている鹿田を見つけたのだ。
マイクロバスのキーは、足立が自分達が乗った小型護送車の分を残して窓から投げ捨てたらしい。
鹿田が切り抜けて逃げやすいようにだ。
「小栗原が一緒なのは? あいつは拘置所にいなかっただろ」
見上げて尋ねると、鹿田が運転しながら答える。
「あー、あいつは途中の駅前で拾った。町の異変に気付いて、お前らが心配になって施設を抜け出してきたらしいぜ。道草さんと知り合いだっつーから乗せたんだ」
運転席の窓が開いていたため、小栗原は膝で頬杖をつきながら「別にぼくは心配してないし」と少し照れて口を尖らせた。
「ツクモに食われたはずの武器はどうしたんだ」
鹿田はダーツを、小栗原はガスマスクを使用していた。
しかも、鹿田の額には赤い傷痕も復活している。
他のメンバーも同じだ。
「吐かされたさ…」
ツクモは青白い顔で言った。
救出されるなり、「早くお出し!」と都口に口や縫い目に手を突っ込まれ、無理やり引きずり出されたらしい。
だからぐったりしていたのだ。
「お前、一応…助けられたんだよな…?」
雑な扱いにかわいそうになった。
「そ、そうだ。明菜ちゃんに、大変なことが起きてるさ!」
ツクモははっと思い出して声を上げた。
「え?」
別の座席シートに置かれていたのは、ブラウン管テレビだった。
戦っている夜戸達が映っていたので、道端に落ちているのを鹿田達が1台拾ったのだ。
画面には、二又と戦っている夜戸の様子が映し出されていた。
「イツノオハバリ!!」
感情に身を任せためちゃくちゃな動きでイツは二又に切りかかる。
振り下ろされた曲刀を後ろに跳んで避ける二又は嬉々としていた。
「生身の人間相手にペルソナを向けてくるなんてよぉ。相当頭にキてるみたいだな! もっと見せてくれよ!!」
投げられた小型ナイフはすべてナイフで叩き落とした。
夜戸は冷静を失い、ナイフを片手に殺意をもって二又に切りかかる。
「う…!?」
森尾の赤い傷痕の痛みが増す。
ツクモも痛みに呻き、身をよじった。
内側で燃え、血や内臓まで熱されそうな痛みだ。
鹿田は額の傷痕の痛みに苦しみながらも運転に集中する。
小栗原は腹を抱え、都口と道草も壁に寄りかかって耐えていた。
「俺達は経験したからわかる…。あの時と同じだ…!」
鹿田は、現実に対する憤りのあまり、赤い傷痕が覚醒すると同時に激痛に襲われたことを思い出す。
「明菜ちゃんを止めないと…。これは…っ、明菜ちゃんの怒りと…痛みさ…っ」
与えた張本人である夜戸の痛み。
カクリヨで戦った時もそうだった。
夜戸が過ちを犯そうとしている。
「夜戸さん…。足立の奴はどうしたんだ!?」
ストッパーである足立がいない。
森尾は画面の中に足立の姿を探すが、やはりどこにもいなかった。
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