14:I'm better off alone
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「足立、どうした?」
「足立さん…?」
上司とその娘が顔を覗き込んでくる。
足立は食卓の席に着いていた。
昔ながらの低いテーブル。
目の前には温かい食事と、缶ビールが並べられている。
懐かしい畳の匂いもした。
「なんだ、もう酔いが回ったのか?」
上司は缶ビールを手に、ニヤリと笑う。
「もー。お父さんの方が顔まっかっか」
娘に注意され、上司は困った顔になる。
「そ、そうか?」
親子は笑い合う。
足立もつられて笑った。
心は冷めていた。
(嫌になるほど…、リアルだなぁ…)
「足立さん! また手品見せてっ」
娘が背中に抱き着いてくる。
ふと、空いてる席を見た。
あの男はいない。
「じゃあ、トランプで何か見せてあげようかな」
「やった! とってくる!」
「ほどほどにしとけよ。夢中になったら朝起きれなくなるぞ」
「はーい」
娘はパタパタと自室まで駆け足で走り、トランプを取りに行く。
「足立、お前も明日休みだろ? ジュネスに行くんだが、お前も来るか?」
(やめてくださいよ)
「その方があいつも喜ぶ」
(ちがう)
言葉にする。
「俺じゃない…」
気が付くと、薄暗い檻の中にいた。
囚われの身のまま、何日が経過したかわからない。
「う…ッ」
耐え切れずにトイレで吐いた。
何に対してか。
もうわからなくなった。
眠ればリアルを伴った温かい夢の中、目覚めれば絶望の中の冷たい現実。
幾度となく繰り返され、見分けがつかなくなりそうだ。
「……おい」
声がかけられると、向かい側の檻にいる影久は、片腕だけが通る鉄格子の隙間から、水の入った小型のペットボトルを通して足立の檻へと転がした。
「ゆすげ。汚いものを見せつけるな」
「……はは…。ちょっと好感度上がりましたよ」
呆気にとられた足立だったが、くつくつと笑った。
「黙れ」
檻から手を伸ばして取った足立は、口の中を洗った。
水分もとっておく。
ぬるかった。
それでも気持ち悪さがマシになってくる。
娘に対しては異常かもしれないが、自分の前では正気なので助けられる気持ちだ。
落ち着いて床に座り込む。
「どうも」
影久は返事を返さず、ベッドに腰掛けた。
娘が何に巻き込まれているのは、足立の口からすべて聞いた。
現実離れした話だ。
しかし実際巻き込まれているのだから、時間をかけてゆっくりと飲むように受け止めればいい。
「おはよーございまぁ~す」
入ってきたのは、Yだ。
「まだ夜だけどなぁ。どうだよ、Aサン。それとも足立サンのまんまか?」
「……………」
鉄格子越しに目元にクマができた足立の目を見て、Yはガクリとうなだれる。
「合格点には達してねぇなぁ…。現実が捨て切れてねぇ。こっちはハッピーな夢を見せてやってんだぜ? いじめてるみたいじゃねーかよぉ」
「ははは、何がハッピーだ…」
親に褒められる夢、勉強なんてそっちのけで友達の家に遊びに行く夢、恋人ができる夢、才能が認められて出世する夢、事件なんて起こらなかった夢、結婚して妻と子どもに囲まれる夢…。
「勝手に頭の中覗いて、勝手に材料にして作った、テメーの駄作を押しつけてんじゃねーよ」
嘲笑を浮かべた。
「駄作…」
「感動して欲しいなら別を当たってくれるかな? 僕には理解ができない。当然だよ。僕の現実は僕だけのものだ」
Yが檻の中に入ってくる。
ドカッ!
そして間髪入れずに足立の顔を蹴り飛ばした。
「がはっ!」
「あー…。ははは、悪い悪い」
腰を落としたYは、足立のネクタイをつかんで体勢を戻す。
「でも言葉は選ぼうな?」
金色の瞳に睨まれる。
白目の部分が血走っていた。
「……?」
血の匂いがした。
Yの左手には、血痕が付着している。
足立の視線に気づいたYは、「あー、これな」とニヤニヤと笑う。
「嗅ぎつけた利口な犬を痛めつけてやったんだ。どいつのだと思う?」
「……………」
足立の脳裏に、捜査本部の面々の顔が浮かんだ。
「あー、そう。安心した…」
「あ?」
「嗅ぎつけられたから焦ったって言ってるよ、アンタ。すぐそこまで来てるってことでしょ? これは時間の問題かな。僕がこうしてのんびり待ってれば」
ゴッ!
「ッ!」
ネクタイを握ったまま、足立の顔を殴りつけた。
ビシャ、と床と壁に血が飛び散る。
「起きたてで寝惚けてるようだな。覚ましてやろうか?」
「やめろ!!」
「…ああ!?」
後ろを振り向き、怒鳴り返した。
影久がこちらを睨んでいる。
「そんなものを鑑賞する趣味はない…!」
「クズが命令してんじゃねーよぉ。Qに大人しく囲われてろ、オッサン。Qがいなかったらハッピーにしてやったのに…。チッ。……白けた」
「…!?」
Yは足立のネクタイを解いて奪う。
大事な物だ。
足立の手はYの外套をつかむが、振り払われた。
「悪いようにはしねぇ。プレゼントだ。誰にって? 愛しのメガネの彼女にだよぉ」
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