05.シャーマン
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act.04-①:最後の1人-sideヒロイン
最近、作り置きをする事が増えた。
そんなに大きくもない冷蔵庫に、タッパーに詰め込まれた色とりどりのおかず。そのどれもが長期保存可能なものだ。
「姉ちゃん、出掛けて来る!」
『おー、行てらー!』
こうやって葉と普通に会話出来るのも本日まで。明日には此処を出なければ。元々1週間の滞在予定だったから、余り長居するのはよろしくないし、葉たちへの未練も残ってしまう。
SFが始まる。あたしには関係ない話だけど、参加者を装って再び追っ手と相見えるのは勘弁して欲しい。ただでさえ、妖怪ハゲチラカシが鬱陶しいというのに。 葉がこの数日のうちに作った生傷を見て、怖じ気づいた訳じゃないけど。
ただ自他共に認めるシャーマン部外者が、徐々に参加者の数を増すこの場所に居ていいものかは悩む。一般人なら別に。でも事実を知るあたしが、しかも良くシャーマンだと間違われるあたしが此処に居たんじゃ、本末転倒もいいとこ。こういうのは身動きが取れなくなってからでは遅いのだ。
「…うん、僕はもう少し渋い方が好みだな」
『喧(やかま)しいよ、愚弟』
自分の為に用意した緑茶を勝手に飲んだ挙げ句、感想を述べるこいつが不法侵入した事は分かっていた。ほぼ葉と入れ違いで。いや、敢えて葉と入れ違いで…と言った方が正確か。
「いつ此処を?」
『明日の昼』
「せめて、後もう少し待てない?」
『待たない』
「…強情」
『お互い様』
洗い終わった食器を水切りカゴに伏せておく。乾燥機も有るにはあるけど、たった2人分の為に起動させるのも勿体無い気がするし。
「今日ちょっと付き合ってくれないか?」
『何処に?』
「さて、何処に行こうかな」
『決めてなかったんかい』
すっかり寛ぎモードに入っている状態から、まさか散歩の誘いを受けるとは。今日はこのままグダグダして適当に帰るんだと思ってたから。まぁ、別に珍しい事は何も無いけど。
アレハ、イイノカ?
『…………』
妖怪ハゲチラカシが現れた。窓にへばり付いて、恨めしそうに、じっと此方を見ている。時期と時間帯が揃えば一種のホラーだ。だが残念な事に今は昼前。
『ねぇ、元陰陽師』
「いや、今もそうだけど」
『十字ってあるじゃん』
「嗚呼、裏解除だろ? 下した自身の式神の束縛を解いて、元の理に戻す… ハルって偶に面白い知識を持ってるよね」
『知識だけはマイナーも御座れなの、
専売特許と言って』
「僕を前に良く言うよ」
九字護身法。煩悩や魔障一切の悪魔を降伏・退散させ、災難を除く呪力があるとされる修法。一時期流行った陰陽師特番とか、霊媒師の除霊がどうのとかいうコーナーで偶に見かける。あたしは知識としてはあるものの、やり方を知っているからって実行しようとか思わないし、そもそも出来ないので実際はどうでもいいんだけど。
『十字って九字より強力って言うから、
アイツにも効くかと思って』
「あいつって?」
『妖怪ハゲチラカシ』
「嗚呼、最近君をつけ回してるって奴だね」
『違う、彼奴は昔から』
そう、昔も昔。幼少期を「昔ね」と例えるが、そうじゃない。本当に昔。それこそ、今のあたしが地上に未だ存在しなかった頃の話。
「恨まれるような事でも?」
『何言って…対象はあたしじゃないっつーの!』
「は?」
『あたしじゃなくって、あんたよ愚弟』
妖怪ハゲチラカシ。本名をウルヴァという、れっきとしたシャーマンである。そして既に、それこそ昔に死んでいて、その原因となったのが未だに湯のみから手を離さないこの愚弟。
「ちっちぇな」
今まで沢山のシャーマンや人間達を手に掛けてきた、だから一々そいつらの顔まで覚えていない。そう言い切った奴から視線を窓にずらすと、猫が爪を研ぐかの如くガリガリと何かやっていた。因みにその両眼は血走っていて、恨み辛みの深さが見てとれる。
「死して尚、僕を狙う…諦めを知らない、その執念は褒めてもいい。でも、それもどうなんだろうね。弱いから負けたんだ、強くあれば未来は変わっていたかも知れないのに」
『強くてもアイツの立場なら
同じ運命を辿ってたんじゃない?』
「へぇ…何故そう思う?」
『だってアイツ』
………
『はいはい、ゴメンってば』
S・O・Fから無言の圧力を受けた。前に言った「多数決で語らない」、それはあたしだけの意見じゃない。"こっち"の皆で決めたもの。あたしも賛成した手前、此処で約束を破る事は許されない。
「君の言う"こっち"は、どれくらい居る?」
『数?全部で?』
「あぁ」
『あたし1人だよ』
「…ん?」
『だから、この地上での"こっち"は
あたし以外もう誰も居ないの!』
あたしはシャーマンじゃない、
でも一般人でもない、それ以外の存在。
最近、作り置きをする事が増えた。
そんなに大きくもない冷蔵庫に、タッパーに詰め込まれた色とりどりのおかず。そのどれもが長期保存可能なものだ。
「姉ちゃん、出掛けて来る!」
『おー、行てらー!』
こうやって葉と普通に会話出来るのも本日まで。明日には此処を出なければ。元々1週間の滞在予定だったから、余り長居するのはよろしくないし、葉たちへの未練も残ってしまう。
SFが始まる。あたしには関係ない話だけど、参加者を装って再び追っ手と相見えるのは勘弁して欲しい。ただでさえ、妖怪ハゲチラカシが鬱陶しいというのに。 葉がこの数日のうちに作った生傷を見て、怖じ気づいた訳じゃないけど。
ただ自他共に認めるシャーマン部外者が、徐々に参加者の数を増すこの場所に居ていいものかは悩む。一般人なら別に。でも事実を知るあたしが、しかも良くシャーマンだと間違われるあたしが此処に居たんじゃ、本末転倒もいいとこ。こういうのは身動きが取れなくなってからでは遅いのだ。
「…うん、僕はもう少し渋い方が好みだな」
『喧(やかま)しいよ、愚弟』
自分の為に用意した緑茶を勝手に飲んだ挙げ句、感想を述べるこいつが不法侵入した事は分かっていた。ほぼ葉と入れ違いで。いや、敢えて葉と入れ違いで…と言った方が正確か。
「いつ此処を?」
『明日の昼』
「せめて、後もう少し待てない?」
『待たない』
「…強情」
『お互い様』
洗い終わった食器を水切りカゴに伏せておく。乾燥機も有るにはあるけど、たった2人分の為に起動させるのも勿体無い気がするし。
「今日ちょっと付き合ってくれないか?」
『何処に?』
「さて、何処に行こうかな」
『決めてなかったんかい』
すっかり寛ぎモードに入っている状態から、まさか散歩の誘いを受けるとは。今日はこのままグダグダして適当に帰るんだと思ってたから。まぁ、別に珍しい事は何も無いけど。
アレハ、イイノカ?
『…………』
妖怪ハゲチラカシが現れた。窓にへばり付いて、恨めしそうに、じっと此方を見ている。時期と時間帯が揃えば一種のホラーだ。だが残念な事に今は昼前。
『ねぇ、元陰陽師』
「いや、今もそうだけど」
『十字ってあるじゃん』
「嗚呼、裏解除だろ? 下した自身の式神の束縛を解いて、元の理に戻す… ハルって偶に面白い知識を持ってるよね」
『知識だけはマイナーも御座れなの、
専売特許と言って』
「僕を前に良く言うよ」
九字護身法。煩悩や魔障一切の悪魔を降伏・退散させ、災難を除く呪力があるとされる修法。一時期流行った陰陽師特番とか、霊媒師の除霊がどうのとかいうコーナーで偶に見かける。あたしは知識としてはあるものの、やり方を知っているからって実行しようとか思わないし、そもそも出来ないので実際はどうでもいいんだけど。
『十字って九字より強力って言うから、
アイツにも効くかと思って』
「あいつって?」
『妖怪ハゲチラカシ』
「嗚呼、最近君をつけ回してるって奴だね」
『違う、彼奴は昔から』
そう、昔も昔。幼少期を「昔ね」と例えるが、そうじゃない。本当に昔。それこそ、今のあたしが地上に未だ存在しなかった頃の話。
「恨まれるような事でも?」
『何言って…対象はあたしじゃないっつーの!』
「は?」
『あたしじゃなくって、あんたよ愚弟』
妖怪ハゲチラカシ。本名をウルヴァという、れっきとしたシャーマンである。そして既に、それこそ昔に死んでいて、その原因となったのが未だに湯のみから手を離さないこの愚弟。
「ちっちぇな」
今まで沢山のシャーマンや人間達を手に掛けてきた、だから一々そいつらの顔まで覚えていない。そう言い切った奴から視線を窓にずらすと、猫が爪を研ぐかの如くガリガリと何かやっていた。因みにその両眼は血走っていて、恨み辛みの深さが見てとれる。
「死して尚、僕を狙う…諦めを知らない、その執念は褒めてもいい。でも、それもどうなんだろうね。弱いから負けたんだ、強くあれば未来は変わっていたかも知れないのに」
『強くてもアイツの立場なら
同じ運命を辿ってたんじゃない?』
「へぇ…何故そう思う?」
『だってアイツ』
………
『はいはい、ゴメンってば』
S・O・Fから無言の圧力を受けた。前に言った「多数決で語らない」、それはあたしだけの意見じゃない。"こっち"の皆で決めたもの。あたしも賛成した手前、此処で約束を破る事は許されない。
「君の言う"こっち"は、どれくらい居る?」
『数?全部で?』
「あぁ」
『あたし1人だよ』
「…ん?」
『だから、この地上での"こっち"は
あたし以外もう誰も居ないの!』
あたしはシャーマンじゃない、
でも一般人でもない、それ以外の存在。
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